7話 やっぱり心配だから
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「私に、この家の影の方を1人、ください」
この答えを聞いた兄は頭を押さえた。
それもそうだろう。影、というのは隠語だ。
護衛はもちろんのこと、諜報、尋問などを主に行う、我が家のスーパーエリート使用人集団のことだ。
それを学園の入学祝いに欲しい、と言ったことは、学園で何かしらの諜報、尋問を行う場面が出てくるかもしれない、と考えていることになる。
「今日は、本当に驚くことばかりだよ。どうして、この家の影が欲しいんだい?」
「実は本日、王太子殿下が、僕は未来の王である自覚を持って、という言葉を多用していました。ならば私も、未来の王太子妃として、色々なことを学んでいこうと思って」
兄には、私の前世の事、これから起こる事を、正直に話すわけにはいかない。
今、思いついた言葉を適当に並べて、説得を試みる。
「ならば、別の方法もあるだろう。どうして、それにこだわるの?」
兄としては別の贈り物にして欲しいのだろう。
でも、これから情報が必要になる場面が絶対に出てくる。その時、信用のおける者が必要だ。
「お兄様。王家に嫁ぐならば、新しい情報をいち早く仕入られる能力は、絶対に必要ですわ。私ももう子供ではなくなります。ならば、未来の準王族になる身として、自分の裏の護衛を持ってもいいと思いますの。誰かを不当に不幸にさせるためには用いません。どうか」
そう言って私は兄に頭を下げる。
「…ミア、準王族になる覚悟を持つならば、軽々しく頭を下げてはいけない」
兄から返ってきた言葉は厳しいものだった。
「し、しかし」
バッと顔を上げる。諦めるわけにはいかないのだ。
「分かった。ミアがそこまで本気ならば、父上に僕も一緒にお願いしてあげよう」
「…!ありがとうございます、お兄様」
承諾の答えに驚いたが、すぐに嬉しくなる。
すると、少し悲しそうに笑う兄が、ぽんぽんと頭を撫でてきた。
「もう、子供の時期はもう終わってしまったのだと思うと、存外悲しいものだな」
「私はまだ子供ですよ。これから大人になろうと努力していくんです」
「ふふっ、そうだね。妹の成長は、兄として喜ばなくてはね」
その後、馬車の中は和やかな雰囲気だった。いつも通り、兄とたわいも無い話をする。
ガタッといって馬車が停まった。
「じゃあ、父上のところに行こうか」
そういって兄が手を差し出してくれる。
さあこれが、これから訪れる困難への第1歩だ。
♢♢♢
2日後。
「本日付でミア様の専属メイドになりました。エミリアと申します」
「同じく、本日付でミア様の専属執事になりました。ヒューゴです」
結果的に父は了承してくれた。しかも私は1人、と言ったのに、2人つけてくれた。本当に感謝しかない。これからもっと仲間を増やしていかなくては。でも、その前に。
「よろしくね、2人とも。早速なんだけど、行って欲しいところがあるの」
「「はい、何なりと」」
「今から、第2王子の護衛に行ってくれるかな、明日の朝まで」
「「…はい!?」」
「一体どういうことですか」
ヒューゴが納得できない、という顔をして詰め寄ってくる。
だが、今日の夜、ノアが襲われるはずだから、護衛に行ってほしい、なんて言えるわけがない。
強引にでも、行ってもらわなければならないのだ。
「これは命令よ、詳細は話せないわ」
2人ともグッと押し黙る。その後、渋々といった感じで了承してくれた。
実は、ノアがもし殺された時のために、入学式の代表挨拶はもう準備してある。ゲームでは、ミアが務めていたからだ。
もし、このことをノアが知ったら、どう思うだろうか…
今日ノアが襲われたならば、私は濡れ衣だった可能性が大きくなる。
結果はどうであれ、どうか、ノアが無事に明日を迎えられますように…