64話 噂と命令
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アルバートは公平性を重視しただけで、他意はないだろう。
でも、皆はどうしても噂好きで。
2学期が始まって1週間。
私は、ある問題に頭を悩ませていた。
アルバートと私が付き合っているのではないか、というのだ。
ヘンリーがソフィアと付き合っているから、私も代わりに恋人を作ったのではないか、という憶測が学園内で飛び交っている。
だからこそ…
「私がアルバート殿下のおもてなし役とは一体どういう事でしょうか?」
学園から帰ろうとした時、ヘンリーに呼び止められ、生徒会室に来いと言われたのだ。
彼がどこかに呼び出して、2人きりで話をしたいという時は、大体人に聞かれたくない話の時。
嫌な予感がしつつも着いていくと、部屋に着いて早々、アルバートのおもてなし係を命じられたのだ。
ただでさえ、変な噂が流れているのだ。
私がアルバートのおもてなしをしたら、これに拍車をかけてしまう。
「ヘンリー殿下がおもてなしするのが当たり前ではないでしょうか。私では失礼にあたってしまいます」
「私は公務で忙しい。お前は公爵令嬢だし、今の私の婚約者だ。それに、お前も嬉しいだろう」
『今の』をやたら強調されたし、何よ、お前も嬉しいだろうって。私がアルバートと恋人だとでも思ってるわけ!
ヘンリーと同じように、婚約者が居ながら付き合っている訳ないでしょ!一緒にするな!
こんな事をヘンリーに言えるはずもなく、
「アルバート殿下は留学中、とても親切にしてくださいましたが、それだけにございます。学園内の噂の件でしたら、真実ではございません」
とだけ答えた。
私の言葉にヘンリーは急に怒り出した。
「嘘をつくな!ソフィアがお前とアルバートは恋仲だと言っていたぞ。大体、俺に構ってもらえないからといって、ソフィアを虐め、婚約者以外と恋仲になるとは何事だ!それを寛容にも認めてやっているんだから、感謝しろ!」
…は?意味が分からん。
何で私の意見は聞かず、ソフィアの意見を一方的に信じているのか分からないし、ソフィアをいじめた覚えも無い。
大体、いつ虐める時間があったというのだ。1学期は留学、夏休みは1度会ったけど、それ以降は家に軟禁されていたのだ。
婚約者以外の異性と先に仲良くなったのは貴方の方だし。
寛容にも認めてやっている?全て貴方の妄想であって、私はやましい事は何ひとつやっていない。
怒り爆発の寸前だ。次何か言われたら爆発する可能性大だ。
「私に事実確認をせず、決めつけられるのはどうかと思います。私はアルバート殿下とは何もありません。一度、調べてから言ってください」
「ふん。どうせ、事実確認をしたところでお前はしらを切り続けるだけだろう。そんな事に割いている時間はない。それに、これは命令だ。分かったな!」
「ちょっと、話はまだ終わっていない」と声をかけたが、ヘンリーは部屋を出て行ってしまった。
この後、怒りが爆発して机の上に置いてあった彼のお気に入りのペン立てを思いっきり床に叩きつけた私は悪くないと思う。




