63話 ソフィアとアルバート
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「酷いのは貴方の方では無いでしょうか。ソフィア嬢」
突然後ろから発せられた声の方に皆が驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、アルバートだ。
「1国の王子の婚約者、ゆくゆくは王妃となる者に相応の教育がなされているのは当然です。子供のように泣き喚く貴方が敵わないのは当たり前でしょう」
アルバートの顔は笑っているのに、目は今までに見たことが無いほど冷ややかだ。
「そんなの、身分のお陰じゃないですか!私だって一生懸命頑張りました。なのに、皆でソフィアを虐めるなんて…」
ソフィアは、ひどいひどいと泣き続けた。
私の位置から見れば、泣き真似なのが丸分かりだ。
何とも言えない気持ちになる。
「もし、仮に貴方が王太子妃になれたとして、地獄のような日々になると思いますよ。
感情を出してはいけない、あらゆる面での教養がなければいけない。上に立つ者として、最低限の事です。
それに貴方は頑張ったと言いますが、この学園の1年生の生徒数は120人。入学当初がどのぐらいの順位だったかは知りませんが、もう少し努力されてはいかがですか」
アルバートはピシャリと言い放った。
…アルバート、めっちゃ感情露わにしてない?
ソフィアに対して、見た事がないくらい冷たかった。
まあ、普段の彼を知っているわけではないけど、歓迎パーティーで女子と接していた彼を見ると、女性のあしらい方は心得ていると思う。
それにしても、どうしてアルバートはここに来たのかしら。
1学期にこの学校にいなかったアルバートは、学園内の成績表なんて見に来ても仕方ないと思うのだけど。
…はっ!もしかして、有望な人材を勧誘するために、成績優秀者を見ておきたかったとか。
あるいは、婚約者に相応しい人材を探しているとか。
うーん。悩んでも分からないわね。
でも、私の方に味方してくれたのは嬉しい。
留学先での知り合いだし、あんな事もあったから、私の事を信頼してくれているのかもしれない。
「ミアさんって、アルバート様の事も誘惑してるんですか」
突然、低い声のソフィアが喋った事に驚く。
どう解釈したらそうなった?
確かにアルバートは私の味方をしてくれたけど、それだけで彼の事を誘惑していると思われるのは心外だ。
「ふん、ヘンリー様に言いつけてやるんだから」
アルバートは何か言いかけたが、ソフィアは怒りながら、どこかへ走って行ってしまった。
「僕は公平性を持って、意見を述べたつもりだ。決してミア嬢を庇ったわけでも、ソフィア嬢を貶めたかったわけでもない。この国に来るにあたって、生徒の性格や成績などはある程度把握している。それらを鑑みて、ソフィア嬢の言っている事が明らかに理不尽であると思ったから、口を挟んだだけだ。
それだけは覚えていて欲しい」
アルバートは、ポカンとしている生徒達に、こう言い放つと、スタスタとどこかへ行ってしまった。




