60話 突然の報告
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その後、ヘンリー王子を乗せた船がここにやって来たが、あくまで誘拐犯の情報を得て、阻止すべくやって来ただけであり、自分達は無関係である、との主張をし続けた。
王家も確たる証拠も無しにヘンリーを処罰する事はなく、彼はいつも通り暮らしている。
だが、クレシリス伯爵は、海賊と息子の証言から逮捕されたのだ。
「お前らはあの御方を敵に回したんだ。絶対に後悔するぞ」
騎士に連行されていく時、彼はそう言って高笑いし続けていた。
『あの御方』が一体誰なのか気にはなったものの、それ以降、尋問中に伯爵がその人の存在を仄めかす事は2度となかったらしい。
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事件がひと段落し、私は公爵邸に戻っていた。
「ミア、聞きたい事が山程あるが、まずは…」
父と兄が正面に座り、私は尋問されている気分だ。
孤児の子達を助けようと思う一心で、その後何が起こるか想定していなかった私の落ち度だろう。
私はやりたい事をやったのだ。それで怒られても、文句は言えまい。
さあどんとこい!と思った途端、父に抱き締められる。
「無事で、何よりだ」
父の搾り出すような声に、どれだけ心配を掛けたのかを思い知る。
「申し訳ありませんでした」
思わず声が掠れてしまう。
「ほんとだよ。どれだけ心配したと思ってるの」
肩をすくめた兄は、余裕そうに振る舞っているものの、少し声が掠れている。
「お、お父様、苦しい…」
あまりにも力が強くて息が苦しくなったため、父に訴える。
「す、すまない」
父はパッと腕を退けると、申し訳なさそうな顔で私を見た。
「とりあえず、落ち着いて話をしましょう」と兄に促され、父は元の席に着く。
「じゃあ、改めて、ミアの話を聞こうか」
急に真顔になった兄を見て、私は冷や汗が背中をつたる。
大丈夫よ。ちゃんと話の道筋をノアと考えたんだもの。
「まず、なんでドレスを脱いで、あんな路地に向かったの?別に行く必要なかったよね?」
少し厳しめの声で兄から質問される。
「行きたくて行ったわけでは無かったんです。ただ、こっそり街の様子を見に行ってみたかっただけで…」
少し目を伏せて、目に涙を溜めるように頑張る。
私の様子に兄は申し訳なさそうな顔をする。
「そうだったのか…でもミア、これに懲りたらちゃんと護衛をつけて行動するんだぞ」
兄が私を優しい声で私に注意する。
ううっ…私の心は罪悪感でいっぱいだ。
私、今、演技と心の中の気持ちで変な顔をしているかもしれない、と思ったその時、玄関の方から大きな音が聞こえた。
バタバタとこちらに近づいてくる音がする。
屋敷の人間と交戦するような音は聞こえないから、多分、緊急で走って来た使者だろう。
バンッと扉が勢いよく開けられる。
「報告します!クレシリス伯爵邸が昨夜、焼失したとの事です!」
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