59話 意外な繋がり
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「く、くそ。なんでこんな事に…」
椅子に縛り付けられ、必死にもがいているのは、クレシリス伯爵家の息子、ルイスだ。
「ミア、良かった。無事だったか」
「ほんっっとうに良かったよ」
ホッとしたような様子の父と、涙ながらに迎えてくれる兄がそこにいた。
「そうか、お前か。今日、街でちゃんと女を1人攫って来たと言っていたが…お前、俺を嵌めたんだな」
今にも私を殺したそうな目をしたルイスは、以前のように無口だった面影が全く見当たらない。
「これが俺の、父上から初めて頼まれた『仕事』だったのに…」
唇を噛み、とても悔しそうな表情だ。ブツブツ喋るルイスはどこか不気味に感じる。
「今回の話はヘンリー殿下からの依頼だったんだぞ。ソフィアをわざと誘拐し、そこに颯爽と助けに入りたいから手伝ってくれって。なのに…なんでお前が捕まるんだよ」
この言葉にルイス以外の全員が固まる。
「しかも、今回は殿下への献上品として魔石をこの船に積んでいたのに…よりによって公爵に見つかってしまうし…もううんざりだ」
ここで1度言葉を切ったかと思うと、おもむろに立ち上がった。
彼を縛っていた縄がバラバラと床に落ちる。
「全部、全部お前のせいだ!!!」
どこに仕込んでいたのか、彼の手には短剣が握られている。
言葉にならない大声を上げながら、私の方に走ってくる。
やばい!と思い、目をぎゅっと瞑ってしまう。
だが、ルイスが私に短剣を刺すことはなかった。
恐る恐る目を開けると、ノアが上に乗って、ルイスを押さえている。
「放せ!!」
「お前の自白は全て聞いていた。大人しく観念しろ」
それでも抵抗を続けていたルイスは、キッとこちらを睨む。
「どうしてお前は俺の邪魔ばっかしてくるんだよ。アルバート殿下の時もよ!!」
「な!!あなた、あの時も関わっていたの!!」
思わず声を上げてしまう。まさか、あの事件にも関わっていたなんて…
「でも、ジャスパーは、アルバート殿下に秘密がバレたから攫ったんじゃなかったの?」
「そんな訳あるか。ジャスパーは最初からアルバートを殺す気でいたんだよ」
「っ!!どういうこと!」
興奮しているからなのか、ルイスは秘密事項と思われる事を簡単に喋る。
この機を逃すわけにはいかない。ルイスが正気に戻る前に、出来る限り聞き出さなくては。
「丁度、お前らが公爵家について調べ出すっていうのを聞いたから、ジャスパーに教えてやったんだよ。『今のうちに始末しないと、お前が王になる前に殺されるぞ』ってな」
「もしかして、ジャスパーって…」
さあ…と血の気が引いた。
頭がルイスの言葉を理解しない。いや、理解したくないだけかもしれない。
だって、じゃあつまり、アルバートが殺されかけたのは…
「ああ、そうだよ。ジャスパーは、王位継承権を持っていたんだ。あの国には王子が1人しかいないから、公爵が王位継承権第2位、ジャスパーは、第3位だったんだ」
「…!!」
自身が王になるために、継承権上位の人を殺したという事実は歴史上沢山ある。
だが、私にとってはあまりにも非現実的なものだった。
…私はまだ、この世界が現実なんだと理解できていなかったのかもしれない。
「ジャスパーが王になったら、クレシリス家は繁栄が約束されたも同然だったのに…」
言葉にならない叫び声を上げるルイスに、誰も同情を寄せることは無かった。