46話 領地入り
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ガラガラと舗装されていない道を公爵家の紋章がついた馬車が通る。
ああ、ついに来てしまったわ…
目の前に広がるのは、我が領地の特産品である絹を作るための養蚕場。他にも見渡す限り、麦畑、果樹園で、王都のように色んなお店は並んでいない。
領主の屋敷の周りとか、港の方は賑わっているが、ここはのどかな田舎だ。
あの後、兄や父は、私がどうしてノアがこの地に来る事を知ったのか、徹底的に調べていた。
幸い、オリバーには、既に国王から話がされていたらしく、不思議に思われる事はなかったが、なぜ私にその話をしたのか、と本人に直接問いただしたらしい。
本人はのらりくらりと躱してくれたみたいなので、本当に感謝しかない。
原因となった人物をキッと睨む。
「何だ?王族に対して不敬だぞ」
「あなたがあんな目立つような事をするからでしょ。オリバー殿にも迷惑をかけてしまったし…」
私はあの後、父と兄から毎日質問され続けたのだ。
顔は笑っているが、目は笑っていない。特に声を荒げるような事はなく、淡々と質問をされ続ける。うっかり何かを言おうものなら、どういう事かと説明させられる。
この恐怖に耐えた私は、ノアを睨む権利ぐらいあるはずだ。
「そうなのか?オリバー?」
「い、いえ、僕は別に…」
当の本人はどこ吹く風で、馬車から顔を出してオリバーに質問している。
ほんっっと、腹立つ。
しかも、明後日には父と兄が領地入りするものの、今日領地にいるのは、家族の中では私しかいない。父からは、失礼のないように、と言われているが、そんなことできるわけがなかった。
「なあ、港町行ってみようぜ」
「はぁ…」
楽しそうなのは、ノアだけだ。
♢♢♢
「おお!港町のイメージそのまんまだな」
荷物を乗せた馬車は公爵邸に行ってもらい、私達だけ港町に来ていた。
「あなたのそのエネルギー、一体どこから湧いてくるの…」
「折角、港町に来たんだ。楽しまなきゃ損だろ」
げんなりしている私を無視し、ノアはどんどん歩いていく。
「ちょっと待ってよ」
「お待ちください、ノア様!」
「なあ、昼飯ここで食べようぜ」
ノアは、ある店の前で立ち止まると、店の扉に手をかける。
「え!ちょっと!」
「いくら何でも、あなた様が民間の店に入られるのは…」
私とオリバーの制止を聞かず、ノアは店の中に入ってしまう。
「もう!勝手なんだから!」
いつもの身勝手さに怒りながら、私はお店の中に入った。




