文化祭 太陽編
♦︎♦︎♦︎
これは俺が中学2年生だった時の話だ。
俺らのクラスは、教室展示をやる予定だった。
道具の作成とか、そのゲームのルールとか、やるべき事は山程ある。
クラスで協力して作り上げてきたから、それなりに思いはあるが、なんだか物足りない。
しかも当日になれば、シフトの時間以外はずっと暇なわけで。
「太陽、お前もうシフトの時間終わってるぞ。俺と交代」
「…ああ、悪い。もうそんな時間か」
違う所に思考を飛ばしていると、不意にクラスメイトに話しかけられた。
彼自体は悪い奴じゃないが、如何せん影が薄い。普通の時にも声を掛けられないと気づかないくらい。
こいつ、ここの担当で大丈夫か…と変な心配をしながら、俺はクラスを出た。
ぶらぶらと廊下を歩く。どこもかしこも沢山の行列が出来ていて、並ぶのが面倒そうだ。
結局、どこのクラスにも入ることなく、学校をプラプラ歩き続けた。
ふと、女子生徒の大声が聞こえてくる。
「そうか、ここ、劇をやってるのか…」
特に深く考えることなく、ふらっと劇をやっている体育館に足を運んだのだった。
♢♢♢
体育館に入ると、規則正しく並べられたパイプ椅子はほぼ満席で、空いているのは最後列の端っこだけ。立ってるよりはマシだろうと、そこの席に座った。
俺が入った時には、その劇はもう終盤だったらしく、何年何組かも分からない劇は数分で終わった。何人かは席を立ち、入れ替わって何人かの生徒が入ってくる。
うーん。せっかくだし、次のクラスの劇も見ていくか。
「次は中学2年1組の『幼馴染との奇妙な出会い』です!2年1組の皆さん、よろしくお願いします」
アナウンスのハキハキした声と同時に、壇上が暗くなる。
次に明るくなった時に目に飛び込んできたのは、慶都の姿だった。
そうか、あいつのクラスは劇をやるんだったか…さっき、席を立たなくて良かった。
変に初恋を拗らせて、もう喋ることがなくなったあいつに釘付けになる。
こんな自分はもう嫌だ、早く諦めろ、と思っているのに。
「…普通に面白いな、これ」
まだ1クラス(それも数分だけ)しか見ていないが、内容も、大道具も作り込まれていて普通に面白い。
下手すれば、3年を退けて大賞獲れるんじゃないか?そう思った時だった。
場面が切り替わって数分、体育館内がシーンとなった。
壇上に立つ生徒は全員、顔面蒼白だ。
なるほど、誰かがセリフを忘れてしまったらしい。
俺らはまだ中学2年だし、こういう時にどうすれば良いかなんて、分かるわけない。
実際、俺もあの場にいたら、皆と同じように顔を青くしながら、立ちすくんでいただろう。
ふと、慶都の方に目を向ける。すると、慶都もこちらを向いた。
目が合った俺は、視線で『頑張れ、お前ならできる!』と伝える。どうか、伝わってくれ…
数秒間、見つめ合った後、慶都は顔つきを変えた。そして、おそらくアドリブであろう言葉をハキハキと紡いでいく。
その後は、劇が途切れることなく続いた。
慶都のクラスが大賞を取ることはなかったが、クラスを覗くと皆、晴れやかな顔をしていたように思う。もちろん、あいつも。
これが、俺にとって1番の文化祭での思い出だ。




