40話 王国誕生祭
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留学最終日がやってきた。つまり、『王国誕生祭』の日だ。
今日は私も、この国で仲良くなった子達と街へ繰り出す。
生まれた国では見たことのない食べ物、飲み物、工芸品、そして溢れんばかりのアルメリア。
この国にいる最後の日は、皆がおすすめしてくれた店を順番にまわって行こうと前々から決めていた。
街の中心部、数々の屋台が並ぶ市場に来た時、ふと、カラクリ時計塔が目に留まる。
アルバート誘拐事件と、孤児の売り飛ばし事件の両方が解決して、今はとても晴れやかな気持ちだ。
あの後、私を危険な目に遭わせた、ということで、多額の賠償金が、トスルーズ公爵家に支払われたらしい。
エミリアから聞いた時は、やっぱり、父や兄はこの事について、抗議したのね、と苦笑いした。
あの事件後、時計塔は国が直接管理する事になった。
もう2度と、同じような悲劇は繰り返さない、強い決意を持ったアルバートが私に宣言してくれた。
この国はこれから、もっとより良い方向に向かっていくだろう。
「ミア様!置いて行ってしまいますよ!」
「あ、ごめんなさい」
いつの間にか、立ち止まっていたようで、急いで皆の元へ駆け寄る。
「次は、ケーキ屋に行きましょうよ」
「まあ、さっき軽食を食べたばかりではありませんか!」
「ミア様はどこか行きたい所はありませんか?」
ああ、平和だなぁ。なんだが、高校生の部活帰りの雰囲気に似ている。こんな日々が続けば良いのに。
「ふふ、私は皆様が行きたいと思っている所に行きたいわ。まだ時間はあるから、ゆっくり見てまわりましょう」
「それもそうですね。今日でミア様は祖国に帰られてしまいますから」
「ミア様がいなくなられたら、きっと寂しくなりますわ」
あはは、うふふと笑いながら、私達は街を探索して行ったのだった。
♢♢♢
午後には友達と別れ、夜会の準備を始める。
この夜会では、ドレスの何処かしらにアルメリアを付けなければならないそうだ。
3日前にこの事を知り、急いでドレスをお直しして貰ったのは記憶に新しい。
この国に来て、本当に色々な事があった。
でも、まだ私の死亡フラグは半分も折れていない。これから先、もっと大変な事になるのだろう。
この夜会も、そしてこれからも、気を引き締めていかなきゃ!
そう決意して、私はある人物のもとへ向かった。
♢♢♢
私は(まだ)ヘンリーの婚約者だから、今日は彼にエスコートしてもらう事になっている。
ヘンリーに用意された部屋はここね。
コンコン、と扉を叩く。部屋から「入れ」という不機嫌丸出しの声が聞こえた。
「失礼します」
部屋に入れば、ヘンリーの他に以前、ノアの自室に案内してくれたヘンリーの従者が、部屋の隅っこで、ピシッと姿勢を正して立っていた。
うーん、この姿だけを見た人は、彼の事をとても忠実な騎士だと思うんだろうなあ。
「ふん、自分の婚約者に挨拶すら出来ないのか」
しまった。ぼーっとして、ヘンリーに挨拶するの忘れてた。
「大変失礼致しました。お久しぶりでございます、ヘンリー王太子殿下」
「はぁ…お前はどうして王族への敬意を表することも出来ないんだ。ソフィアなら…」
グダグダとソフィアとの惚気話を始めた。ヘンリーめ、ソフィアとの関係を隠す気も無いってこと!!!
「殿下、そろそろお時間です」
良いタイミングで、従者の人が声を掛けてくれる。だが、ヘンリーは自分の話を遮られたのが気に入らなかったようで、一層不機嫌になってしまった。
「…分かった。不本意だが、今日はお前をエスコートするようにと父上から命令されているからな。せいぜい、我が国の面目を潰さぬよう努力するんだな」
この言葉には、流石にこちらもムッとしてしまう。
こっちだって貴方にエスコートしてもらいたいわけでは無いのに。
けれど、私は(精神的にも、前世を含めて生きた年数的にも)大人なので、不満を飲み込み、素直にエスコートしてもらった。
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