39話 事件の結末
いつもより長めです
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1時間後、騎士の人達も時計塔に入って来て、私達は無事に保護された。
アルバートは、薬と毒ガスを軽く吸い込んでしまったため、何日か安静にしなければならないが、幸い、後遺症などは残らないそうだ。
国王からの強い要望で、王城で医師の診察を受けた後、その日はそのまま城に泊まることになった。
「なんで私達がいない間にこんな事になってるんですか!!」と、エミリアに怒られたが、最終的には、「本当にご無事で何よりです」と言われたので、気にしないことにする。
翌日、国王陛下と謁見の場が開かれた。まず、アルバートの命を救ったことのお礼から始まり、色々な事を根掘り葉掘り聞かれた。
国王陛下って、こんなに喋る方だったんだ、と驚いてしまった事は内緒である。
私への質問攻めが一段落つくと、今度は国王が色々な事を教えてくれた。
まず、フェルニーゼ公爵家が、孤児を違法に買っていたことが今回の事件で明らかになった。
理由は、時計塔のメンテナンスのため。
危ない仕事であるということと、食事を満足に与えられていないことから、かなりの数の子供が亡くなったのではないか、というのが、調査を行った騎士団の見解だった。
この話を終えると、陛下から私に聞きたいことがあるか、と聞かれた。それならば、とフェルニーゼ公爵家の歴史と公爵夫人について聞いてみた。
そう言って、陛下から聞いたのは、今から20年前の話だった。
当時、この国は3つの公爵家が絶大な権力を誇っており、王権を凌ぐほどだった。そのため、公爵家は裏で色々な悪事を働いていたという。
中でも、1番酷かったのが、フェルニーゼ公爵家だ。違法に孤児を買っていること、他にも残虐な行為を繰り返しているのは分かっていたが、中々尻尾が掴めない。
結局、2つの家を処罰することには成功したが、フェルニーゼ公爵家を処罰することは出来なかったのである。以来、国王はずっと公爵家に対し、密偵や諜報員を放っていたが、何も引っかかる事はなかった。
転機は3年前。何故か、報告される時計塔事業の数字がおかしくなり始めたのだ。原因は、この事業にジャスパーが関わりはじめたから。彼はお世辞にも頭が良い、とは言えず、学業面も落第寸前らしい。
これ幸いと調査を進めており、あと一歩という所で、アルバートが攫われてしまったんだそう。
しかも、彼から私も公爵家について調べていると聞き、協力してもらおうと頼もうとした矢先の出来事だった。
だが、国王達には、アルバートが誘拐された場所に心当たりはない。そこで、私に何か知っていることはないか、と尋ねて来たんだそうだ。
公爵夫人についてだが、実家は貧乏伯爵家で、やはり弱みを握られて結婚を強要されたらしい。
なんでも、フェルニーゼ公爵家というのは、昔から悪名高く、婚約者がなかなか見つからなかったんだとか。
それに加え、我が国の王妃も、公爵家が王家に強く要望して決まった縁談だったそう。
今回の事件で、王妃の立場が危うくならなければ良いな、と密かに願った。
「今回は、本当に君に助けられた。実はな、あの時計塔は我ら王族も手出しすることができないようにされていたのだ。
君がたまたま時計塔に迷い込んでしまい、たまたまアルバートが誘拐されていたところに居合わせ、助けてくれたのだ。本当に礼を言う」
「いえ、私はたまたま時計塔に迷い込んだだけですので」
そう言って、私達はふっ、と笑った。
「それで、今回の公爵家の処分についてだが」
気を取り直し、真面目な顔をした国王は、ここで一度言葉を切った。そして、私の方に向き直って、こう言った。
「君の意見を尊重しようと思う」
「………え!私のですか?」
たっぷり30秒ほど固まってから、私は国王に聞き返した。
普通、他国で起きた不祥事に対し、隣国の貴族はおろか、王族ですら口出しする事は出来ない。
ましてや、他国の公爵家の意見が尊重された事件なんて片手で数えられるくらいだろう。
「今回は、君に多大な迷惑を掛けてしまった。何の詫びにもならないだろうが、君の怒りが収まる限り、どのような処罰を決定してくれて構わない」
国王にここまで言わせておいて、国王陛下のお思いのままに、とは言えない。
「…でしたら、公爵家は取り潰してください。ですが、フェルニーゼ公爵夫人には何らかの恩赦を」
「…相分かった」
陛下はずっと横で控えていた人に何かを伝えると、私にもう一度向き直る。
「改めて、今回の事は本当に申し訳なかった。また、ありがとう。あなたのお陰で踏ん切りがついたよ」
国王陛下直々に頭を下げられる。一歩間違えれば、国際問題になっていたのだ。当然と言えば当然かもしれないが、人から頭を下げられるのは、居心地が悪い。
けど、踏ん切りがつくとは?
「いえ、私は出来る限りの事をしただけですから」
頭を上げてください、と言う。
取り敢えず、踏ん切りがつくという国王の発言は、事件が解決したんだから、と頭の隅に追いやる。
付け加えて、我が国の王家や実家の公爵家から抗議がいくかもしれませんが、それはどうぞよろしくお願いします、と軽い調子で言った。
我ながら図々しい事を言ったかもしれないが、国王は困った顔で、承知した、と答えてくれた。
重い空気が少し和らいだ所で、長い長い謁見時間は終わった。
一応、部屋に戻った後、国王から聞いた話が本当かどうか、ヒューゴとエミリアにも確認したので、間違いないだろう。
こうして、アルバート誘拐事件は幕を閉じたのだった。