31話 届いた手紙
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「お疲れ様でした」
運動会が終わった後、ホテルに戻り、ぐったりとしている。やっと緊張が解けたからなのか、何もやる気が起きない。
「どうぞ」
コト、と何かテーブルに置く音が聞こえる。ヒューゴが疲労回復効果のある飲み物を入れてくれたようだ。
椅子に座り、のろのろとティーカップを口に運んだ。本当に今日は、めっちゃ疲れた。
柑橘系の味が、さっぱりして美味しい。
「そういえば、借り人競争で、アルバート殿下を指名したって話題になってましたよ」
「ぶっ」
思わず、吹き出しそうになる。
危なかった…いきなり、その話題するのやめて…
後から考えてみれば、アルバートをこの学園で1番イケメンだと思う人に選んだのだ。
しかも、彼自身から自分はどうだ、と言ってきた。
…これは、明日には噂が広がり、居心地が悪くなることだろう。
「はぁ…」
今の会話で、更に疲れた気がする。
ティーカップを机に置き、ため息をついた。
「ミア様、お手紙が届いていましたよ」
ガチャリという音がして、エミリアが部屋に戻ってきた。
さっき、部屋を出て行った時は、何をしに行ったのだろうと思ったが、どうやら手紙を取りに行っていたようだ。
以前、家族や友人、ノアと一応、ヘンリーにも手紙を送ったから、その返事が返ってきたのだろう。ウキウキしながら、エミリアから手紙を受け取る。
「公爵夫人については、明日には調査が終わりそうです」
手紙を開封しようとしたら、不意にエミリアからこう告げられた。
その瞬間、私の顔が強張ってしまう。
2人は優秀だ。生粋の貴族の子女ならば、1日もかからずに、素性などを調べ上げることができるだろう。
なのに、2日も掛かるなんて。
…なんとなく、嫌な予感がする。
「ミア様、まずはお手紙をお読みになっては、いかがでしょう」
エミリアが遠慮気味に提案してくれる。
多分、私の様子を見て、話題を変えようとしてくれたんだと思う。
今、どんな憶測を出しても意味がないわね、と思い直し、改めて手紙に目を向けた。
差出人を見てみると、父や兄、ディアナ、フェリシア、アイリーン、ノアからは、手紙が届いていた。けど…
「ヘンリー王子からは無いようね」
呆れてしまって乾いた笑いしか出てこない。
ヒューゴが口を開き、何かを言いかけたが、そのまま閉じた。
実際、ヘンリーが私の事を好いていないのは、2人も知っているのだろう。
ここで、何か励ますような言葉をかけても、意味はない、と考えたのだろう。
むしろ私は怒っていた。仮にも婚約者に手紙1つ寄越さないなんて。
私の方は、手紙を送ったのに返信がないなんて、そんな非常識な事ってある??
「まあ、良いわ。とにかく中身を見てみましょう」
そう言って、父の手紙から開封してみた。
♢♢♢
父や兄の手紙には、ひたすら私を心配している内容が書かれていた。
ディアナ、フェリシアも、留学生活を頑張って欲しい、という内容の手紙だった。
そして、アイリーンからは…
「ヘンリーが、特定の男爵令嬢と親しげにしている、か」
どうやら、人目を気にせずイチャイチャしているようで、本当にあり得ない、憤りを感じる、という内容が書かれていた。
しかも、ヘンリーだけでなく、積極的に複数の男性に話しかけに行ってるとか。何という肉食女子!
私には出来ない。…しようとも思わないが。
手紙に本人が落ち込むような事を書くのは、皆、遠慮してくれるけど、アイリーンはそうではないらしい。まあ、そういう所が好きだったりするけど。
どうやらソフィアは、ヘンリールートか、逆ハーエンドに進んでいるらしい。出来れば、逆ハーエンドだけはやめてほしい。
高位貴族の誰かが、誰も私に味方してくれないのならば、仮令、ヘンリーを断罪し返したとしても、揉み消される可能性がある。そんなの、絶対に嫌だ。
「さて、ノアからは…」
高級そうな紙に、綺麗な字が書かれている。昔は雑な字だったのに、王子になってから相当キツイ教育されたんだな、なんて変な所に感動しながら読み進めた。
ただ、読み進めるうちにそんな事はどうでも良くなって。
「…え、そんな、嘘でしょ」