3話 お茶会に行ったら、悪友と再会しました
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翌日、私はなぜか、王城に呼ばれていた。
「すまない、ミア。突然の体調不良により、王子との月に一度のお茶会は、今回は欠席させて頂きたいと言ったのだが。どうしても来いと言うのでね。数時間だけ耐えてくれ」
とても申し訳なさそうな顔の兄が、馬車の対面に座っている。
幼い頃、私は王太子妃教育のため、王城で過ごしていた。
毎日、立派な淑女になるため、色々な礼儀作法や、基礎知識、外国語などを学んだのだ。その頃はずっと王城にいるということもあり、ヘンリー王太子とは毎日のように顔を合わせていた。
だが、王太子妃教育も終わり、家に帰った後は、必然的に王太子と顔を合わせることも無くなる。そこで、月に一度、親睦を深めるための茶会に呼ばれることになったのだ。
「まあ、お兄様。婚約者である第一王子様との茶会ですもの。耐えるという言い方は…」
「…ミア。君は蔑ろにされてきたんだ。いくら婚約者だからといって、ここでは顔を立てる必要はないんだよ」
そうなのだ。実はこの国の第一王子、ヘンリー王太子は、ゲームの中では格好良くて、紳士的な人として描かれていた。
だが、実際にミア・トスルーズが婚約者として何年も接してきた彼は、高飛車で、傲岸不遜などうしようもない男なのだ。
でも、だからこそ今私は会って彼があと数ヶ月であんなに紳士的になるのか、知る必要がある。
正直、絶対関わりたくないタイプだけど…
たわいも無い話をしていると、王城に到着したみたいだ。
馬車が王城の目の前で止まる。
「気が進まないだろうけど、行こうか」
「はい」
兄から差し出された手を取る。
たった数時間だもの。そのぐらい耐えられるわ。そう思っていた私はこの時の考え方を後悔することになる。
♢♢♢
「つ、疲れた…」
はっきり言って、この数時間は時間の無駄でしかなかった。
お茶会で、ヘンリー王太子は自分の自慢話ばかり。
しかも誉めないとすぐ不機嫌になるし。物にすぐ当たるし。
結構、腹が立った。
とても小さな声で「なんなの、気持ち悪い。ゲームでは爽やかイケメンだったじゃない」と言ってしまったのは、彼に聞こえなかっただろうか。
…もう、早く帰ろう。頭が痛い。彼には婚約破棄してもらわないと、いつか気が狂いそうだ。
「お久しぶりです、ミア様。体調がすぐれないとのことでしたが、大丈夫でしょうか。」
とぼとぼ道を歩いていると、不意に声をかけられる。振り返ると、そこにいたのは第二王子、ノア王子だ。
「ええ、お気遣いありがとうございます。少し気分が優れないため、もう家に戻ろうと思っていたのですが…」
「先程、クラーク様がどなたかとお話ししているところを見かけまして。まだ続きそうだったので、もしよかったら、サロンでお休みになられませんか?もちろん2人きりではなく、騎士も同席しますので、ご安心を」
「…お邪魔してもよろしいでしょうか。今、本当に気分が優れなくて」
控えめな笑みを浮かべたノア王子は、軽く頷いて、エスコートしてくれる。互いに喋ることのないまま、サロンへとたどり着いた。
席に着くと、メイド達がテキパキとお茶の準備をしてくれ、サッと退出していった。今、部屋には私達と1人の騎士だけだ。
何か話をしなければ、と考えていると、突然ノア王子がハッと笑った。
「本当、あんなのが兄なんて意味わかんねえ。しかも、お前があいつの婚約者とか、笑えるな」
「え、えと…」
突然の態度の変わり様に、元から頭が働いていなかった私は着いていけない。え、これ誰…
「なんだ、俺が分からないのか」
そう言いながら、指をポキポキと鳴らし、足を組む。これは、私がよく知る『彼』と同じ癖だ。でも、そんなことって…
「久しぶりだな、慶都」
そう言った彼は私のよく知る『彼』そのものだった。