22話 前途多難
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「お初にお目にかかります、国王陛下」
留学生の中で私が代表のため、私しか国王と話すことはできない。
「面をあげよ」
そう言われて初めて国王陛下の顔を見た。銀髪銀目で美形。
やはり乙女ゲームの世界で、殆どの男性は美形になるのだろうか。
だが、日頃から険しい顔をしているからだろう。眉間に皺が出来ている。
「よく来てくれた。今日は王城に部屋を用意してある。明日には歓迎パーティーも開く予定だ。本日はゆるりと休まれよ」
この国王は話すのが嫌いらしい。最低限な会話だけで退室してほしそうだ。
「ありがたく存じます」
それだけ言うと、私達は謁見室を後にした。
国王に謁見したのは1分にも満たない時間だったと思う。
♢♢♢
隣国であるこの国には、公爵家は1家しかない。
20年前は3家あったらしいが、うち2家は不正が発覚し、全員平民になったそうだ。本当なら、一家皆殺しでも、文句は言えないほどの不正だったそう。
それなのにフェルニーゼ公爵家も不正に手を染めているなんて…なんとも言えない気持ちでいると、2人が戻ってきた。
実は、謁見前、ヒューゴとミアに公爵家と深く関わっている家はどこか探ってきてほしい、と頼んでいた。
「え!アナンロス子爵家も、ベリージア公爵家も、クレシリス伯爵家もこの国の公爵家と深く関わっていることが分かった!?」
予想外の答えに目を丸くした。
「はい、逆に関わっていないのが、トスルーズ公爵家ぐらいしかいないほど、我が国にも影響力の強い家のようです」
…これには驚きだった。これでは、誰が犯人か絞ることができない。
「うぅ、これは予想外だわ」
頭を抱える。前途多難だわ…
「ちなみに、アナンロス子爵家は武器の売買。ベリージア公爵家は、彫刻品の売買。クレシリス伯爵家は、時計の売買を主に行っているようです」
エミリアが付け足してくれる。けれど…
「どれも、孤児達を一緒に密輸することができそうですよね」
ヒューゴが私の心を代弁してくれる。そうなのだ。この情報だけでは、どの家が犯人か、特定することができない。
うーん、と3人で悩む。
彫刻品が1番場所を取り、尚且つスペースが空きそうだから、ベリージア公爵家じゃないかとか、逆に時計が1番スペースを取らないから、孤児をたくさん詰め込めそうとか、色々な意見を言い合う。
だが、確信に至る証拠が何も無いため、私たちの考えは推測の域を出ないものばかりだった。
「まあ、何はともあれ。明日のパーティーで話をしてみたほうが良いわね」
今日はもうこの話は終わりにしようとした時、エミリアが、ポツリと呟いた。
「本当に公爵家が犯人なのでしょうか」
「…ノア王子がそう言ったのよ。何かしらの証拠がなければ、そんなこと言わないと思うけど」
彼が断片的な情報だけで、隣国の公爵家が売買の相手だと断定するとは思えなかったのだ。
「ですが…」
チラチラと、一向に何のことだか分からない私を見て、言いにくそうに口を開いた。
「気づいておられると思うのですが、公爵家は、王妃様のご実家ですよね」
「あ…」
「公爵家が孤児が売られた先なら、真っ先に王妃様が疑わしいことになります」
問題が振り出しに戻ったかもしれない。