20話 行ってきます
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「な、んで、ここに」
もし、療養中とされている第2王子がここいいるってバレたら…
「俺はこういう夜会には、ほぼ顔を出したことない。色も変えてるし、誰も俺だって分かるわけないだろ」
いや、王族の方達には分かるでしょう。
私の言いたい事が分かったのか、むすっとした顔をされた。
「お前に伝える事があった。それを言ったら、さっさとこんなパーティー会場から出ていくさ」
そう言いながら、私に近づいてくる。
私の隣まで来ると、城下に広がる灯りを眺めながら彼は言った。
「実は、孤児院について、だいたいの調べがついた」
何でもないような口調だったため、言葉を咀嚼するのに少し時間がかかる。
「……え、もう!」
最低でも2週間はかかると思ったのに。一体どんな手を使ったのかしら…
「ああ、もうすでに孤児の売り飛ばしは行われていることが分かった。しかも、相手は隣国の、フェルニーゼ公爵家だ」
…え?今なんて?今の少ない言葉だけでも、情報量が多すぎて、頭が混乱している。
「しかも、この取引は10年前には既に始まっていたようだ」
「ま、待って!今の聞いた話だけでも驚きの情報ばっかりだったんだけど…」
今までの情報だけで頭がパンクしそうだ。一体誰がそんなことを…
「子供達が売られた先が隣国の、公爵家なんて。しかも、少なくとも10年間は、続けられているって…」
「余程、最初に取引を始めたやつは狡猾だったんだろうな。証拠の隠し方とか素人とは思えない。ただ、ここ数年は、あからさまなんだ」
「あからさまって?」
私の質問に彼はうーん、と悩んだ。そんな難しい質問だったかしら…
「何つーか、数の改竄の仕方が雑。後から、適当にこじつけました感が半端ない。計算が出来るやつなら、誰でも違和感に気づくだろうな」
それは、本当におかしな話だ。悪いことをしているなら、もう少し、隠す努力をするはずなのに…
「麻薬とか、国庫の横領についてもこっちで調べておく。お前は、普通に留学楽しんでこいよ」
彼はパンと手を叩き、話は終わり、とばかりに早口に喋った。
「そういえば、この間俺に護衛として送り込んでくれたやつは、ちゃんと連れていくんだろうな」
急な質問に、きょとんとしてしまう。
「ええ、もちろん。でも何でそんなことを?」
「いや、何でもない。連れて行くなら、良いんだ。充分に気をつけてな」
そう言い終わると、彼はパーティー会場を出て行った。
最後のは何が言いたかったのかしら、考えてみたけれど答えは出ないまま、パーティーは閉会した。
♢♢♢
翌日。
「ミア、気をつけて行ってくるんだよ」
父が温かい言葉で送り出そうとしてくれる。
「はあ、やはり行くのはやめにしないか?」
兄は相変わらず、私に過保護だ。
今日から2ヶ月間、家族と顔を合わせることもないと思うと、少し寂しい。
今回の留学は、王子に無理矢理行くように言われただけでなく、1つの目的もできた。
出来る限りのことをしよう!
「はい、行って参ります」
そう言って、馬車に乗り込んだ。
(1章完)
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