19話 厄介な夜会
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今日は、隣国へ留学に行く人達を送り出すための夜会に来ていた。
こんな派手な髪と見た目じゃ、ドレスもある程度、派手にしないと似合わない。
私はもっと控えめなデザインが好きなんだけどな…
そう思いながら、会場に入る。いつもなら、人に囲まれてしまうのだが、今日は皆が私を遠目から観察していた。
私が交換留学に参加したのは、ソフィアというヘンリーと仲良くする女の子から逃げるためではないか。そういう噂が広まっていたため、仕方がないといえば、仕方ないか。
「あ、ミア様。こちらにいらっしゃったのですね」
貴族のルールをわざと破って話しかけてくれたのは、フェリシアだ。今日は貴族だけが参加できるパーティーのため、アイリーンは来ていない。
ちなみに、友達である3人には、私が交換留学に参加しなければならなくなった、本当の理由を話した。皆、私と一緒に怒ってくれて、話してよかった、と思ったのは私の記憶の宝物だ。
「まあ、フェリシア様、これから2ヶ月間会えないと思うと寂しいですわ」
「ええ、私もです」
その後、私達はたわいも無い話を続けた。
「王族の方々の、ご入場です」
この声を聞いて、しん、と静まった会場に王族がぞろぞろと入場してくる。
ちなみに、第2王子であるノアは現在、病気にかかり、療養中ということになっているため、不参加だ。
余談だが、国王陛下は、この数年で劇的にお痩せになった。
噂では、ご病気に罹ったんだとか。1年後、ヘンリーが学園を卒業すれば、王を退くのではないか、と密かに噂されている。
乙女ゲームでは、ヘンリーは、卒業してすぐに国王になった筈だから、噂は本当なのかもしれない。
「本日は、集まってもらい、感謝する。今宵は、我が国の繁栄のため、隣国へ留学に行ってくれる者達を激励するパーティーだ。皆の者、我が国の勇気ある若者達に労いや激励の言葉をかけてやってくれ。それでは、パーティーを始めよう」
王による開会宣言の後は、貴族達による王族への挨拶だ。
ただ、今回は、留学に参加する家から挨拶する決まりになっている。
筆頭公爵家である我が家は、1番最初に王族の方々に挨拶しなければならない。
父と共に王族の目の前に進み出ると、完璧なカーテシーをする。
「よく、来てくれた。トスルーズ公爵家のミア嬢。未来の王太子妃として、隣国と関係を深めていきたい、と自ら志願してくれたと、ヘンリーから聞いたよ。君の良い働きを期待している」
にこにこと王様から言葉を頂く。
だが、その言葉を聞いた私は、不敬にも腹を立ててしまった。
あの、王子め。私が自ら志願したと嘘をついたのね。この大嘘つき!!
「勿体ないお言葉です。ご期待に沿えるよう、努力して参ります」
そう答えるしかない。
「隣国は私の母国でもあるから、是非あなたにも親交を深めてほしいわ」
そう笑って話しかけてくださったのは王妃様だ。一見、仲が良さそうに見えるけど、実は口も利かないってノアが言っていたっけ。
いけない!私ったら、王族の前なのに、別のことを考えてしまったわ
「ありがたきお言葉です。王妃殿下」
そういって、パーティーへ戻った。
ちなみに、ヘンリー王太子には、一言も話しかけられなかった。彼の視線の先には、ソフィアが居た。
うわ、自分の婚約者が目の前にいるのに、ソフィアに釘付けとか…
その浅慮に少しびっくりしてしまった。
♢♢♢
兄や他の方々と数回踊った後、私はバルコニーに来ていた。
「はぁ」
ため息をつきながら、さっきもらったジュースを飲む。
「我が国と隣国との新たな架け橋を担う、ミア嬢がため息とは」
不意に後ろから声をかけられ、驚いて振り返る。
そこには、髪と目の色を変えたノアが、バルコニーのドアにもたれかかって立っていた。