14話 見舞いに行こう
♦︎♦︎♦︎
学園に入学してから初めての週末。私は王城に来ていた。ノア王子のお見舞いのためだ。
あらかじめ、王家の方に許可を取ると、是非という回答をいただいている。
一応、ヘンリー王子に確認したところ、好きにしろ、と言われたので、好きにさせてもらう。
彼は、現在私室にて療養中とのことだったため、使用人に部屋に案内してもらう。
何度も見たことがある人だったから、おそらくヘンリー王太子付きの人だろう。
「ヘンリー王太子は、今回のこと、どうお考えのようですか」
歩いている間、何も話さないのは気まずい、と思い、案内役の人に話しかけてみる。
彼の方は、話しかけられるのが予想外だったのか、すこし驚いたような顔をされた。
「俺がヘンリー王太子の従者だと、知ってたんすか」
どうやら彼はヘンリーの従者だったらしい。だが、敢えて知らなかったという必要もないので、訂正しないでおく。
てか、口調!前に会った時はこんなに砕けていなかったはず…
「ヘンリー殿下は大層ご機嫌斜めですよ。いつも手につかない公務が更に手につかないくらい」
ハハッと笑って彼は答えてくれた。
彼、よく今までヘンリーの従者をクビにされなかったわね…
「あ、ヘンリー殿下の前では、こんな軽口を叩きませんよ。なので、こんな事、婚約者様の前で言ったって言わないでくださいね〜」
私の心の中での疑問に答えてくれた。私、そんなに顔に出てたかしら…
「ここです。ノア殿下の私室」
どうやら、もうノア王子の部屋に着いたらしい。
従者の人が、中に確認をとってくれ、恭しく扉を開けてくれた。
中に入ってみると、そこには、ノア王子の他に、オリバーをはじめとする数人の騎士、そして主治医と思われる先生がいた。
「ミア様ですね。お待ちしておりました」
先生はにこやかな表情で私を部屋に入れてくれた。対して、ノア王子は表情をピクリとも動かさない。
席に着くと、先生がノア王子の症状について話してくれた。
「忘れてしまったのは、自分が誰であるか、ということのみでした。日常生活に支障が出るようなことはありません。ただ、くれぐれもこの事は、誰にも話されませんよう。箝口令が出ておりますので」
そう、彼は一国の王子なのだ。記憶がない、という醜聞は王家としては何としても広めたくないだろう。
「そうなのですね。あの、1度、王子とお話しすることは可能でしょうか」
先生に聞いてみる。
だって、さっきから一言もノア王子は話さない。ノア王子と話してみなければ、何も分からない。とにかく、1度話をしたかったのだ。
この言葉にびっくりしたような顔をされる。それはそうだろう、私は、ノア王子と仲の悪い、ヘンリー王太子の婚約者だ。見舞いも形式的なもので、すぐに帰るだろうと思われていたに違いない。
「大丈夫ですよ。では、私は1度席を外しますね」
そう言って先生は部屋を退出した。
その後、オリバーの指示で、彼以外の騎士が退出していった。
部屋のドアがぴたりと閉まり、全員の足音が遠ざかるのを確認すると、すぐに口を開こうとした。
だが、すぐにノア王子が私の口を手のひらで覆ったため、口を塞がれてしまう。
「むぐっ」
お陰で淑女らしくない声をあげてしまう。
手のひらが口から離れたため、不満を述べようとすると、ノア王子がオリバーに目で合図をした。
何かあるのだろうか、と不平を飲み込むと、オリバーが紙とペンをノア王子に手渡した。
サラサラと書く文字は、とても綺麗だ。
うっとりしてノア王子の文字を見つめていると、書き終わったのか、その紙を私に見せた。
中を読んでみると、こう書いてあった。
『声を出すな、この部屋は今、盗聴されている』と。




