13話 お転婆でも良い
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「それで、一体どうして、あんなことをしたんだ」
食事を終えて、1段落した時、やっと父が口を開いた。
声は平坦だったため、怒っているのか、どう思っているのかは分からない。
「あんなこと、とは具体的にどういったことでしょう」
深呼吸をしてから答えた。ここで、声が震えてしまえば、悪いことをしたと思っているようになると考えたからだ。
だが、父はそんな私の態度を予想していたのか、特に驚く様子もなく、話を進める。
「ノア王子の寝室に、ヒューゴとエミリアを向かわせたことだ。幸い、王家には気づかれていないようだが、もし知られれば、お前が処罰されていたかもしれないんだそ。しかも、王子に暗殺者を仕向けた最有力候補になる」
父の声はいつになく、厳しいものだった。
「もし、私が2人を向かわせていなければ、ノア王子は確実に殺されていたでしょう。私は間違ったことをしたとは思いません」
これだけははっきり伝えなければ。
父は、私の態度を見て、ふぅっとため息をつくと、こめかみを押さえた。
「では、質問を変えよう。どうして、あの日、第2王子の部屋に暗殺者が来ることを知っていたんだ」
この質問がくることは分かっていた。
だが、良い答えが思いつかなかった私は、どうせ記憶を無くしているなら、ノアが言い出したことにすれば良いと、いう答えに至った。すごく卑怯な気もするけど。
「ノア王子から直接伺いました」
この答えに父が眉を顰める。
「それで、援護を要求されたのか?」
父に怒ったような声で聞かれた。そんな事はないので、慌てて否定する。
「いいえ、そのような事は決して。ですが、どうしても心配で…」
家族にこんなに私が叱られたことはない。
それだけ、父と兄に心配をかけただろう。後ろめたさから声がだんだん窄んでしまう。
私の心境の変化に気がついたのだろう。
父は立ち上がって、私の所に来ると、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「人を助ける事は決して悪いことではない。ただ、もう少し、周りを見られるようになりなさい」
「はい…以後、気をつけます」
私がそういうと、父は明後日の方向を向いて、笑った。
「ミアを見ていると、亡くなった妻のことを思い出すよ」
「ええ!!母は、淑女の鑑と言われるほど、お淑やかだったはずでは…」
母の顔と私の顔が似ているとは言われるけど、性格は全然違うと思っていた。
「いいや、ミアぐらいの年の時は、とてもお転婆だったよ。私と結婚してからは、公爵家の名誉の為に、淑女の仮面を被るようになってくれたんだ。家ではずっとお転婆だったけどね」
これには、私だけでなく、兄も驚いている。でも、兄は小さい時には母と過ごしていたはずでは…
私が言いたいことに気付いたのか、兄が私の方を向いて口を開いた。
「確かに私が3歳の時まで母は生きていたけど、もう記憶が朧げだよ。ずっとお淑やかだったって聞いていたから、私も勝手に母は、深窓の令嬢のような人だったと思っていたよ」
そうだったのね…
じゃあ、本当に根からお淑やかな人ってこの世にいるのかしら。まあ、いるんだろうな…
意外なところで母の昔の話を聞けた私は、なんだかほっこりした気持ちになった。
この時間だけは、不安を忘れる事ができた。