118話(sideノア) これからの人生
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「どうして俺に相談してくれなかったんだよ」
ヘンリーの話を全て聞いた俺は、思わずヘンリーを怒鳴ってしまった。
「俺じゃなくても良い、ミアや他の人達にどうして相談しなかったんだ。いくら周りが信用出来ない奴らが多くても、お前の味方になってくれる人はいたはずだ!」
俺の言葉にヘンリーは困ったように笑う。
「どうして、なのだろうな。何故だか、誰かに相談するってことがはじめから頭に無かったんだ」
ヘンリーの様子に、俺はすぐに申し訳なくなった。
実の兄弟のことなのに、何も見えていなかったのは俺なんだ。ちゃんと話したり、関心を持っていれば気づけたかもしれないのに。
「いや、悪い。俺がお前のことをずっと避けてたから…本当にすまなかった」
俺はヘンリーに頭を下げる。
「よせよ、ノアらしくもない」
ヘンリーは俺を笑ってくれた。
本当は、こういう性格なのだろう。
なのに、俺は…
「それに、王になったらもっと大変なことなんて山程あるはずだ。俺達のことを糧にして、お前は前に進んでくれ」
「…っ、分かった」
自分の不甲斐なさを痛感し、前に進む。これから1番必要なことをヘンリーに教えられたような気がした。
「その…処罰を言い渡させる前に聞くことでは無いと分かっているのだが…俺は父上や母上と一緒の場所に幽閉させるのだろうか?」
ヘンリーは下を向き、少し震えている。
あんな父母とこれからも一緒に暮らせ、なんて酷なことを言うつもりはない。
「そんなことするわけないだろ。…今お前には2つの道がある。1つは王家所有の領地を治めて子爵になること。もう1つは神官になること。
どちらの道を選んでも王位継承権は破棄してもらうことになる。それに、もし子供が生まれても俺に子供が出来なかった場合を除いて王位継承権が発生することもない」
罪を犯した王族の処罰にしては、甘すぎると言われるかもしれない。だが、親という絶対的強者に支配されていた点、証拠集めに協力した点を踏まえてのこの判断だ。
どちらの判決が良いか、本当は俺が判断すべきところだが、これからの人生については本人に決めてもらいたかった。
「そうだな…俺は神官になりたい。俗世から離れて暮らしたいんだ」
「ああ、分かった」
兄の性格を知った今なら、神官になりたい、と答えるだろうと思っていた。
「それじゃあ、俺もう行くわ」
「ちょっと待ってくれ。最後に1つだけ」
ヘンリーの言葉に俺は足を止めて振り返る。
「ミア嬢には…俺のことは何も言わないでくれ」
「何でだよ。あいつだってこのことを知ったら「罪悪感を抱くだろう?」」
「あいつの性格を考えると、そうだろうな」
…何も言われなくても、言いたいことは分かった気がする。
「俺は彼女に対して、敢えてずっと冷たく接してきたし、心無い言葉を吐き続けた。だから、彼女には罪悪感なんて持ってほしくないんだ」
「………ああ、分かったよ」
ヘンリーの言葉に俺も納得する部分がある。
だからこそ、最初で最後の兄からの頼みは断れないし、断るつもりもない。
「元気でな、兄貴」
「ああ、これから頑張れよ、弟」
これからは別々の道を歩いていく。
だが、2人の顔に後悔は見られなかった。




