12話 地獄の夕食会
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「記憶が、無いそうです」
この言葉を聞いた途端、血の気が引くのが分かった。
「記憶が無いって、一体どうして?どこまでの記憶が無いの?他に身体の異常とかは?」
もっと情報が知りたくて、矢継ぎ早に質問してしまった。そんな、一体どうして…
「詳しいことは何も、ただ記憶が無いとだけ…」
ヒューゴが申し訳なさそうに答える。
「…1度、頭を整理したいから、1人にさせて。私が良いと言うまで誰も入ってこないで」
この言葉を言うのが精一杯だった。うまく頭が回らない。
パタン、という音がして、ヒューゴが部屋を退出したのだと分かる。
どこまで記憶を無くしてしまったのだろう。自分が王子であることも忘れてしまったのだろうか。前世のことも全て?グルグルと色々なことを考えてしまう。
そのうち、涙が出てきた。心細いよ、太陽。どうして忘れちゃったの。
不意にコンコン、と扉を叩く音がした。
「ミア、夕食の用意が出来たから出ておいで」
兄だった。小さい子供を宥めるような、いつもより優しい声だ。だが、今はご飯を食べられる気がしない。
「いりません。どうか、私のことはほっといてください」
「…ミア、昨日何があったか、ヒューゴ達に聞いたよ」
この言葉にビクッとする。
そうだ、ヒューゴとエミリアはそもそもこの家の影なのだ。兄に何か聞かれれば、答える義務があるのだった。これは、死刑宣告だわ…
「ミア、とにかく1度、出てきなさい」
ひぃぃぃ!!!
怒ってる。声が、怒っていらっしゃる!
渋々、扉を開ける。もう、覚悟を決めなければならない。
「今日は父上も一緒に夕食を食べるそうだよ」
更なる死刑宣告を受ける。今、言ってほしくなかった…
「第2王子が倒れたなんて緊急事態に、宰相である父上には、家で食事を摂る時間なんて、ない筈では」
冷や汗を流しながら、兄に尋ねる。
「さあ、家で誰かに話したいことでもあったんじゃないか」
兄は普段、私を甘やかしてくれるけど、叱るときは叱ってくれる良い兄なのだ。そう、良い兄なんだけど…
今日は、誰も味方してくれないことにガックリと肩を落とした。
「さあ、行こう」
兄が手を差し出してくれる。
私が2人をノアのところへ行かせたことに、後悔してないもの。うん。怒られるのは仕方のないことだわ。
死刑宣告、上等!
涙目になりながら、自分を鼓舞し、食堂へ向かった。
♢♢♢
食堂に入ると、既に父は席に着いていた。こんな事、初めてだ。
「クラーク、ミア、まずは席に着きなさい」
威厳のある声でそう指示される。カタカタ震えながら、席に着いた。
「まず、食事にしよう、話はそれからだ」
こんな状態でご飯を美味しく食べられるわけないでしょう。
結局、ご飯の味はしないまま、しかも誰も一言も話さずに食事を終えた。