115話(side ノア) 裏側
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王城の中でありながら、あり得ないほどジメジメとした廊下を歩く。
ここは、騎士団が管理する牢の中でも、重犯罪人が収容される場所だ。
なぜ、俺がこんな場所にいるのかというと、ある人物に話を聞くため、騎士団長に無理を言って鍵を特別に借りたのだ。
しばらく進むと、目的の人物が収容されている牢があった。
「なんだ、俺を笑いに来たのか?」
そこには、変わり果てた姿のヘンリーがいた。
体は驚く程痩せ、生気がない。王太子の時とはまるで別人だ。
だが、ヘンリーからは達成感が滲み出ているように感じる。
それだけでも、俺の考えが正しいものだったと確信した。
「そうじゃねぇだろ」
今回の一件、はっきり言って上手くいきすぎだ。
ミアも気づいているだろう。
ヘンリーが愚かだと片付けるにはあまりにも不自然なほど、親父達を処刑に追い込むための情報が、ミアが探して見つかる場所に置いてあった。
しかも、側近達や執事がそれを見落とすはずがない。普通ならミアが探す前に回収するはずだ。
こんな偶然、あり得るわけがない。
ヘンリー達が故意に、不正の証を置いておいたとしか考えられないのだ。
そもそも、王子の代理決済をしている間、王子の部屋にミア1人だけにされること自体も異常事態だしな。
「お前、俺達にクソ親父達を捕まえさせる為に、わざとあいつ直筆入りの紙を見つかりやすい場所に置いておいたんじゃないか?」
質問口調だが、俺の中では確信している。
だが、ヘンリーは俺を鼻で笑った。
「俺がわざわざ捕まるように仕向けたって言うのか。そんな訳ないだろ」
「お前の減刑嘆願書が来てる。しかもかなりの数な」
ヘンリーは言葉に詰まり、下を向いた。
はじめ、嘆願書を見た時は少し驚くと共に、何だかホッとした気持ちになったのをよく覚えている。
卒業式のその日のうちに3枚、次の日に5枚、その後も結構な枚数が届いた。そのどれもがヘンリーはやらされていただけ、本人は嫌がっていたのだと書かれていた。
1枚だけならともかく、ヘンリーの執事や側近候補から同様の内容が何十枚も届いた為、トスルーズ公爵達とも話し合って、この話は真実だと結論づけたのだ。
「お前は慕われてたんだよ。色んなやつから」
「…っ、そうか」
下を向いていたヘンリーから、グスッという泣き声が聞こえてくる。
こいつはずっと1人で戦ってきたんだろう。
誰にも助けを求めることもできず、言いなりになるしかないまま。
そのことについては、同情しかない。
それでも、国庫の横領や様々な不正は許されざる行為だ。俺はこいつを裁かないといけない。
でも、その前に話を聞いておきたかったのだ。
何がこいつに起こっていたのかを知るために。
「今更かもしれないが、話してくれないか。お前に何があったのかを」
「ああ、そうだな。聞いてくれるか」
ヘンリーはポツポツと語り始めたのだった。
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