113話 2人の公爵
誓約書の設定について、特別感を出すために黒っぽい紙に白文字で書かれている、という設定を追加しました。
♦︎♦︎♦︎
卒業式まであと3日という日、私の家にベリージア公爵と息子のリアム、そしてノアが来ていた。
「え、えと…皆様どうしてここに?」
見たことのない組み合わせに違和感しかない。
頭の中でハテナマークを浮かべていると、その様子に気づいたリアムがにこりと笑った。
「卒業式に向けて、最終調整をする為ですよ」
「…はい?」
彼の言葉で更に訝しげな表情になった私に、リアムは更に言葉を付け足した。
「僕が以前、君に約束したのを覚えているかな。『僕に頼みたい事があればいつでも言ってくれ。可能な限り協力する』と」
「あっ!」
確か、留学中にリアムがそう言ってくれたような気がする。
「思い出してくれたようで何より」
少し嬉しそうに喋るリアムの様子を見たベリージア公爵は、ハァとため息を吐いた。
「全く、お前が約束などしなければ、こんな面倒な事にはならなかったんだぞ…」
ベリージア公爵は頬杖を突き、苦虫を噛み潰したような表情だ。
「私は自分の未熟な心と決別するため、ミア嬢と約束しました。後悔などしておりません」
「お前は後悔していないのだろうが、私にとっては良い迷惑なのだ」
「ですが父上…」
ベリージア親子は、互いに暫く言い合っていたが、私の父がゴホンと咳き込むと2人はぴたりと口を閉じた。
「本題に入らせて頂いてもよろしいだろうか?」
薄ら笑みを浮かべているが、目の奥が笑っていない。何なら寒気すら感じる。
「その前に1つだけ確認させてくれ。秘密保持誓約書とやらは、本当に本物なのか?」
ベリージア公爵は、父の様子を見て冷や汗が噴き出しているが、恐る恐るといった様子で父に質問した。
「ふむ。実際にご覧になると良いでしょう」
父は誓約書を持って来させると、ベリージア公爵の前に差し出した。
「なんだ、この紙は…」
ベリージア公爵は紙の色が黒いことに眉を顰め、内容を読み終わると頭を抱えた。
「何ということだ!こんなものが公になれば、王家の信用が根幹から揺らぐぞ!下手をすれば国がひっくり返る!いやそもそも、これは本当に王家の書類なのか…」
ずっとブツブツ言いながら考え込んでいるので、見かねたノアが説明を始めた。
「この紙に使用されているインクは、暗闇で見ると文字が光って見える、王家秘蔵の特殊なインクなのです。少しよろしいですか?」
ノアはベリージア公爵から紙を受け取ると、私に持たせ、自身は着ていた上着を脱いで紙に光が当たらないように被せる。
すると、ぼうっと文字が光って浮かび上がった。
「な、なんと…」
「すごいな…」
ベリージア親子は目を見開き、呆気に取られている。
暫くして思考が戻ってきたベリージア公爵は、ゴホンと咳払いをした。
「確かに、特殊な製法で作られた紙とインクなのでしょう。これが王家秘蔵の技術だと言われても納得がいきますな…」
ベリージア公爵は、ハァとため息を吐いて目の前に出されていた紅茶を一気に飲み干した。
「ご納得いただけて何よりです。では改めて当日の流れですが…」
そんなベリージア親子の様子を気に留めず、父と兄は淡々と話を進めた。
この後、5人で当日の詳細についてじっくり話し合った。
総長と第一騎士団長には兄が話をつけてくる、とのこと。
最後に2人の公爵がノアの次期国王承認の紙にサインをして解散となったのだった。




