112話(side ノア)真夜中の会話2
♦︎♦︎♦︎
ヘンリー達の卒業式まで残り1週間となった日の夜のことだった。
俺はその日、ミアの力になれないことに少しイライラした気持ちを抱えてベットに横になっていた。
色々な事について悶々と考えてしまい、暫く寝付けずにいると、突然天井から男の声が聞こえた。
「ノア殿下、起きていらっしゃいますでしょうか?」
唐突な事だったので、咄嗟に枕元に置いていた剣を掴み、臨戦態勢を取る。
「誰だ!」
だが、俺を殺しに来たのならば黙って殺せば良いだけのこと、と一瞬遅れて気がつく。となれば、トスルーズ公爵かミアの手の者だろうと考え、臨戦態勢を解いた。
「夜分遅くのこのような非礼な訪問、お許し下さい」
闖入者はヒラリと音も無く着地する。
顔を半分以上隠していたので誰だか分からなかったが、なんだか見覚えのある光景だ。
「…?」
「トスルーズ公爵からの命令で参りました、ヒューゴと申します」
…思い出した!こいつ、入学式前日の夜にミアに言われて俺を守りに来た奴だ。
道理で、俺の自室にこいつがいる、っていう光景に既視感を覚えるわけだ。
「ああ、お前のこと思い出したよ。それで、何の用だ?見張りも居ただろうに俺の部屋に来るってことは、よっぽどの事態って事だろ?」
トラプラ団の手引きの容疑をかけられてから、俺はずっと監視下に置かれている。
今も扉の前に2人と両隣の部屋に1人ずつ、騎士が待機している。
釈放されたとは言え、疑いが完全に晴れた訳では無いからだろう。
お陰で動きにくいったら無いけどな!
「王家のみが使用できるインクについて何かご存知ありませんか?」
「…は??」
思っても見なかった質問が飛んできたので、少し考える。
「もしかして、王家の秘密文書が手に入ったのか?」
「は、はい…」
ヒューゴの気まずそうな声で、大体の事情を察する。
3週間ほど前から、ミアがヘンリーの自室にある不正文書を集めているのは公爵から聞いている。その中に、王家の秘密文書もあったのか。
「確かあれは、日光に一定時間当てると暗闇でも光るっていう特殊インクだった筈だ」
随分昔に1度だけ聞いた話だから、確証は無いけどな、と付け足す。
俺の言葉に、心なしかヒューゴの声色が明るくなった。
「貴重な情報、ありがとうございます。では、これ以上長居すれば騎士達に気付かれる可能性があるので私はこれにて」
ヒューゴはそれだけ言うと、一礼して一瞬でいなくなった。
「あ、秘密文書がどんな内容だったのか聞きそびれた。…けどこれで、何かしらの進展があると良いんだが…」
実はこの2ヶ月半、公爵も俺も、ヘンリーが行っているであろう不正に関する情報を得られていなかった。
唯一、情報を得ていたのは、ヘンリーの自室を何度も行き来しているミアだけ。
だがそれもほんの些細な事ばかりで、ヘンリーを溺愛している国王夫妻が揉み消せるレベルのものばかり。
どうすれば良いか、悩んでいたところだった。
「残り1週間、俺もやれるだけの事をするしか無いな」
味方は多い方が良いに決まってる。
俺はペンを取り、アルバートへ手紙を書き始めたのだった。




