107話 重要書類
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「ここ1ヶ月、ずっと呼び出され続けているのですよ。酷いと思いませんか、お兄様」
朝、王城へ行くために支度をし終えたところで、ばったり兄と会う。
毎日のように書類を肩代わりさせられている私は、偶然会った兄に愚痴をこぼした。
「ただ、その分証拠も着々と集まってきているけどね」
そうなのだ。ヘンリーは重要書類を本に挟む習性があるらしく、あれから本棚を漁ると証拠が出るわ出るわ。
逆に何かあるのではないか、と勘繰ってしまう。
「それに、ヘンリー殿下達の卒業式まであと1週間なんだ。もし本当にその時婚約破棄を宣言され、ミアに罪を擦りつけられた時、無実と証明するためには証拠が足りない」
「分かっています」
そうなのだ。兄や父が全力で捜査してくれているとは言え、無実を証明するのにはまだ弱いというのが現状。
今は、少しでも多くの証拠が必要なのだ。
「はぁ、行ってきます」
私は、げんなりしながら馬車に乗る。
「いってらっしゃい。今日も証拠が見つかると良いね、ミア」
兄は、にこりと笑って私を送り出したのだった。
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いつものように書類を片付けた後、本棚を漁りはじめる。
「昨日はここまで見たから…ってあら?」
昨日見た時は何も入っていなかったはずの本に何かが挟まっているのが見える。
その紙を取り出し、真っ先に目に飛び込んできたのは、赤色でsecret と書かれた文字だ。
明らかに重要な書類。ゴクリと唾を飲み、中を確認する。
「え…嘘でしょ」
内容は有名な山賊との密約だった。
内容は、とある貴族の領土付近でのあらゆる行為を見逃す、というものだった。通常、貴族であれ王族であれ、このような協定を結ぶことは禁止されている。
しかも、これはトラプラ団による仕業だと噂される一件だったはず。
本当はヘンリーが襲撃を許可していただなんて許せない!
これは重要な証拠だわ、と思いいつものようにポケットに仕舞おうとすると、カサッと2枚の紙が落ちる。
どうやら3枚が重ねて折り畳んであったようだ。
こちらもきっと重大な内容に違いない。
「さてさて何が飛び出すのやら…」
じっくりと内容を読んでいく。
私は読み進めるうちに自分の顔が険しくなっていくのが分かった。
それは国が王都整備のために使うお金の一部を不正に水増しする内容だった。
この書類の1番下には、財務大臣とヘンリー、そしてもう1人の人物が、実筆で名前を書き、さらに印章も押されている。
内容自体は、他にも似たような書類があった。だが問題は、財務大臣とヘンリー以外に書かれたもう1人の人物の名前だ。この名前は…
そして、もう1枚。
何故か黒い。焦茶色というか藍色というか…何せ黒っぽい用紙なのだ。
紙を開いてみると、そこにはクリーム色のインクで文字が書いてある。
どうやら古い書類のようだけど…
目に飛び込んできたのは、疑いたくなるような内容だった。
それは、王妃様の署名入りの誓約書だ。トラプラ団を名乗る際の規定が記されている。
この規定通りならば、トラプラ団の正体は…
これは間違いなく、国を揺るがす事態だわ。
私は震える手でこの紙をポケットに仕舞うのだった。




