11話 予想外の事態
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入学式当日の朝。学園に行く準備をしながら、2人から大体の話を聞いた。
自分1人で暗殺集団を迎え撃とうとしていたこと、私が予想していたより人数が多かったこと。情報が色々ありすぎて、驚くと言うよりも、茫然としてしまう。
だけど、何よりもノアが死ななかったことにほっとした。
制服に着替え、学園に行こうと部屋を出た時、急に1階の玄関ホールが騒がしくなった。
何事かと覗いてみると、王家からの使者だった。
「ノア王子が、現在意識不明の重体です」
使者から告げられたのは、驚きの一言だった。
「な、なんで…」
エミリアとヒューゴが守ってくれたはずでは…
一体、何がどうなっているの!
「詳細は話せません。ですか、ノア王子は本日、学園の代表挨拶を務められる予定でした。ですか、緊急事態のため、同じく今年ご入学される、公爵家の長女、ミア様に代理で務めていただくことになります」
使者の人はそう言うと足早に去っていく。
膝から崩れ落ちてしまう。太陽、どうか死なないで。
茫然としつつも、ヒューゴに何があったのか調べてきて欲しい、と言ってから馬車に乗り込んだ。
♢♢♢
「続きまして、新入生代表です。ミア・トスルーズさん」
「はい」
生徒達がザワザワするのが分かる。
そうよね、今年はノア王子が入学する年だもの。私ではなく、ノア王子が挨拶すると思っていたに違いない。私もそうなることをずっと願っていたもの。
痛々しい程の視線を浴びながら壇上に立つ。
「この麗かな春の日に〜」
既に頭に叩き込んだ挨拶を述べながら、生徒達を見回す。
やはり、いた。このゲームの主人公、ソフィア。穏やかな春のようなピンク色の髪に、蜂蜜のような金の目。可愛らしい顔立ちで、いかにもヒロイン、という感じだ。
どうか、彼女と対立する未来なんてありませんように。
そう思いながら、挨拶の言葉を終えた。
♢♢♢
色々なプログラムが滞りなく進んでいく。最後に、学園長の挨拶が行われ、皆がザワザワしつつも、入学式は終わった。
来週から本格的な授業が始まるため、今日はこれで解散となる。急いで馬車に乗り込んで、家への帰路についた。
ヒューゴは、もう調べがついたかしら。ノア、どうか無事にいて。色々なことに思いを巡らせながら、窓に流れる景色を見ていた。
「暗殺集団23人全員を倒したのは間違いありません。ですがどうやら、暗殺者のうちの1人が最後の力を振り絞って、ノア王子に、毒が塗られた短剣を太腿に刺したようです」
家に帰るとすぐ、ヒューゴが報告してくれる。
「それで、ノア王子の容体は?」
そこが1番重要なところだ。もし、仮に死んでしまったら…
「命に別状はないということです。ただ…」
そこで1度言葉を切り、私から顔を背ける。
体のどこかが動かなくなってしまったのだろうか、それとも切除を?この間に色々と嫌な事が頭をよぎる。
「ただ?一体何なの?」
痺れを切らした私は彼に尋ねる。だが、ヒューゴはそれでも言わない。
「仮令、どんなに悲しい事になっていたとしても、私は受け入れるわ」
私はヒューゴをじっと見つめる。すると、彼はやっと重い口を開いた。
「…記憶が、無いそうです」