103話 本当のエミリア
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キンッと金属音が鳴ったと思うと、兄がエミリアの首に短剣を突きつけている。
「っ!!」
まさか、兄が剣を向けるなんて。
ていうか、その短剣どこから取り出したの?
ひと呼吸した後、父も、私とフェリシアを背に庇うようにしてエミリアの前に立ちはだかった。
「よくノコノコとうちへ戻って来れたものだ。一歩でも動けば、その首切り落とす」
目が本気だ。兄はエミリアが動いたら、殺す気だ。
「ちょっ、落ち着いてください」
私は兄に青ざめながらも、言葉をかける。
兄が人を殺す瞬間なんて見たくない。それに、今殺すのは兄も犯罪者になってしまうのでは無いだろうか。
「既にこいつは犯罪者だからね。情けをかける必要は無い」
剣をエミリアの首に突きつけたまま、先程よりはいくらか冷たさが和らいだ声で、兄は言った。
「そーですよ。既に殺されていてもーおかしくありませんよー」
兄の言葉に賛同するように、エミリアは言った。
「お前、本当に何をしに来たんだ」
まるで、気持ち悪いものを見たような目で兄は言う。
「えー、何をしに来たのかって言われてもー」
変に語尾をのばし、首をコテンとかしげると、エミリアは衝撃的な事を言い放った。
「密告?ですかね♡」
最後に♡がつきそうな声だが、話した内容は全然可愛くない。
「「何をふざけた事を」」
父と兄が思わずといった様子で言った。
タイミングもバッチリで、流石親子。なんて考えたのは、私が今の状況から逃れたくて考えた拒否反応なのだろう。
「実は、No.12にもうお前は用済みだってー、集合場所にいた使者に言われて殺されかけたんですよねー。ま、送られて来た暗殺者は逆に殺しましたけどー」
ケラケラと笑うエミリアは、いつもの優しい雰囲気とは違う、独特の怖さのある笑みだった。
そんな様子に、私とフェリシアは青ざめ、兄と父は言葉を挟む事なく黙って聞いている。
いつも、私の愚痴を聞いてくれたり、ノアとの仲介役だったエミリアが実はトラプラ団の一員で、こんな人だったなんて…
何だろう、今の気持ちを言い表せない。
「私、自分が捨てられたのが癪なので、知っている情報は全てお話ししようと思って」
「お前が持っている情報が正しいかどうかの確証なんてない」
冷たい兄の言葉にも動じず、エミリアはニコリと笑った。
「1人殺し損ねたので、もうすぐ騎士の方々がここにやって来るでしょう。私を捕まえにね」
「ちょっと待て、騎士を独断で動かせる人なんて、王族しかいないんだぞ」
父と兄の顔がサァーと青ざめる。そんな2人に彼女は笑みをさらに深めた。
「だって、私の主人、トラプラ団のNo.12は、王妃殿下ですから」




