10話(side ノア)真夜中の会話
♦︎♦︎♦︎
深夜。
俺は、ベットの端に腰掛けて、その時を待っていた。
明日は、入学式の当日。第2王子という肩書きもあって、今年の新入生代表として、色々と準備を進めてきた。
なのに、ゲームでは呆気なく殺されたノアは、どんな気持ちで最後を迎えたのだろうか。
慶都の話では、殺されたのは夜明け直前という話だったが、万が一寝込みを襲われれば大変だから、今日は一日中起きているつもりだ。
「大丈夫だって、あいつに言ったくせに…」
情けないことに手が震えている。「もしかすると、死ぬかもしれない」そう考えると震えるのは仕方のないことだった。
今日はオリバーが非番だから、自分の身を守れるのは、自分しかいない。
ガタッと微かに音がする。すぐさま、手元に置いていた剣を取り、臨戦態勢に入る。
「誰だ!!」
声をかけても応答はない。ややあって聞こえてきたのは、女性の声だった。
「我々は敵ではありません。とある方の命により、本日だけ貴方様の護衛をしております」
ミア、お前は本当に…
少し、涙が出そうだったが、なんとか堪える。
「とある方とは、トスルーズ公爵家のミア嬢の事だろう」
俺の言葉に、さっき話しかけてきた奴から僅かに殺気が放たれる。しかも、それとは別に殺気が放たれているのが分かる。
…あいつ、自分の護衛を2人も寄越してくれたのか。
「そう殺気立つな。別に知ったからといって特に何もないだろう。それとも、俺の命を狙え、と言われてきたのか?」
冗談混じりの俺の声に少し驚いたような雰囲気だった。
「そのようなことは決して」
「なら、別に構わないだろう」
それ以外に俺たちは言葉を交わす事なく、時間は過ぎていった。
♢♢♢
空が少し白みはじめたな、と思い、窓から空を見上げていると、その時は突然やってきた。
バタバタと数十人の足音が聞こえたと思うと、ドアが蹴破られ、数人が俺の部屋に雪崩れ込んでくる。
「お命、頂戴する」
そう言ったかと思うと、一人が飛び掛かってきた。
俺は剣を素早く抜くと、すぐにその1人を再起不能にする。だが、数が予想していたよりも多い。これは、1人だったら本当にまずかったかもしれない。
「なっ」「がっ!」
目にも止まらぬ速さで、襲ってきた奴のうち、2人が倒れている。代わりに黒装束に身を包んだ2人が俺を守るように立っていた。
シルエットから1人は女、1人は男であることが分かる。
「なんだ、もう帰ったのかと思ったぞ」
「不本意ですが、今日の朝まで貴方を守るように言われていますから」
軽口を叩くと、とても不機嫌そうな声が返ってくる。
「馬鹿な!今日、王子の護衛は扉前の2人だけだったはず…」
「騙されたのか!」
この言葉に驚きを隠せない。何故なら、俺の警備の予定を知る奴は少ないからだ。
王族を除けば、騎士団総長と、近衛騎士団長、そして国の上流貴族の一部だけだ。
この国の中枢の人間が俺の暗殺に関わっている…
全く反吐が出る話だ。これなら、何も知らないまま、殺された方がある意味幸せだったかもな。
俺が3人を倒した時、既に、20人はいた暗殺集団が全員、床に転がっていた。
この国の王子として、それなりに鍛えてきたつもりだが、さすが公爵家の影といったところか。
バタバタと足音が聞こえてくる。騎士の奴らがこちらの音に気付いたのだろう。
影の2人はいつの間にか消えている。
俺が生き残ったのは、吉と出るか、凶と出るか…
そう考えつつ、剣を鞘にしまい、騎士の奴らを部屋に入れようとしたまさにその時、太腿にピリッと痛みがしたと思うと、世界が回るような感覚がした。
「面白い」「続きが気になる」となど思っていただけたら、ブクマや『☆☆☆☆☆』マークより、評価を入れていただければ嬉しいです。