戦闘訓練
「とりあえず集合場所は街の中心にある大広場みたいね」
ギルドの受付でシャーロットのギルド登録を終え、建物を出た二人は受けた依頼の集合場所である大広場に向かっていた。
「そういえばシャーロット、剣の扱いは多少心得ているって言ってたけど元々居た家で手ほどき受けてたりしたの?」
「はい。と言っても護身用程度で魔物と本格的に戦ったことなんてありません。ユナイティアも魔法重視の風潮があって剣術の訓練も最低限でした」
「あちゃー、それじゃ大規模討伐のクエストの前に一回本格的に訓練したほうがいいのかな、よし」
ミレアはそういうとシャーロットに向き直る。
「集合時間まで少し時間もあるみたいだし私と訓練場で一回戦おうか」
「ええ!?」
ミレアのいきなりの提案にシャーロットは驚いてしまう。
「い、いきなりミレアさんと戦うんですか・・・・・・」
「戦いでいきなり勝てって訳じゃないよ、今持ってる武器の性能とかをあなたが正確に把握する意味もあるのよ。戦いで自分が使っている武器の性能が分からないのは致命的だしね」
「確かにそうですね……」
実際シャーロットはミレアから貸してもらっている剣を帯剣しているがこの剣の性能やなにができるかは把握できているとは言いがたい。
あとはこの前ミレアと二人で作成した火属性魔法の術式を刻み込んだ指輪があるだけだ。確かにこんな状態では武器の使い方を理解するためにも一度誰かと手合わせしておくべきかもしれない。
「ごめん、本当はここに来る前にこういうことをしておくべきだったよね。ギルドでそういう依頼受けようとしてたんだし。私の注意不足だ」
「いいえ、私もいざ実戦になった時に足をひっぱりたくないから。やりましょう、戦闘訓練」
「オッケー、それじゃ訓練所に向かいましょうか、ギルドの建物の近くにあるから行きましょう」
シャーロットが自分の提案に頷いて了承するのを確認したミレアは目的地に向かって歩きだす。しばらく歩くとその訓練場の建物が見えてきた。
ミレアが教えてくれたがギルドの人間でも利用者は多いそうだ。
訓練場に入るとミレアはさっさと手続を済ませ、訓練を行う部屋に向かう。
「そういえばこの剣って術式はなにが埋め込まれてるんですか?」
「下級風魔法のエアロカッター、風を刃にして飛ばす術式よ。あなたが今使える魔法は火属性のフレアと風魔法のエアロカッター。今回の戦闘ではこの二つの魔法の使用も可。剣を使うことも含めて魔法での戦闘の感覚も掴んでね」
「はい、わかりました」
部屋に入るなり、ミレアはシャーロットの返答を聞くと鞘から剣を抜き、上段に構える。
「それじゃ剣を構えて」
ミレアに言われるまま、シャーロットは剣を鞘から引き抜き、正眼に構える。
「それじゃいくよ」
そのかけ声とともにミレアはシャーロット目がけて突っ込み、上段から大きく剣を振り下ろす。
(早い……!)
シャーロットはかろうじて振り下ろされる剣を受け止め、押し返す。
押し返した勢いを利用してミレアに斬りかかるがあっさりと躱されてしまう。
攻撃を躱したミレアは息つく暇もない斬撃を繰り出しシャーロットに猛攻を仕掛けていく。
(動きについていくのがやっと……!)
ミレアの猛攻についていけなくなってきたシャーロットは魔法を発動させる。
(この前やったのを思い出して……魔力を道具に通すイメージを……)
身につけている指輪に魔力を通し、魔法を発動させる。
「フレア!」
「!?」
魔法の発動に気付いたミレアは咄嗟に横に飛んで魔法を避ける。
シャーロットは魔法を避けたミレアに上段から斬りかかる。
しかしそれはミレアにあっさり受け止められてしまった。
「まだです……!」
それでもシャーロットは諦めず、連続で斬撃を繰り出す。
そのすべてがミレアに受け止められたり、躱されたが気にせず剣を振るう。
(実力差があり過ぎるから一瞬できたこの機会を利用して攻め立てるしかない……!)
シャーロットは剣を振るう手を止めない。
相手に攻める隙を与えないよう斬撃を繰り出す。
ふとミレアの表情が目に入った。
ーーその顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。
この戦闘を心から楽しんでいる、そんな笑みだ。
「いいよ、シャーロット、凄くいい。諦めずに食らいついてくるのは最高だ」
そういうと同時にミレアはシャーロットの剣を自分の剣で思い切り弾く。
剣を弾かれたシャーロットは大きく隙が出来てしまう。
「あ……」
「エアロカッター」
ミレアがそう唱えると同時に風の刃が形成される。
「行け」
ミレアの低く冷たい声とともに風の刃が射出される。
射出された刃は容赦なくシャーロットに叩き付けられ、彼女の意識を奪った。
「ん……」
「気がついた?」
ミレアの声が聞こえる。
シャーロットが薄く目を開けると彼女が顔を覗きこんでいた。
頭には柔らかい感触がある。
どうやらミレアが膝枕をしてくれているらしい。
「私……」
「私の魔法を食らって気絶してたのよ。大丈夫? 回復魔法は掛けておいたけど」
「大丈夫です。そっか、私負けたんですね」
「そうね、でも凄かったわよ。実戦経験がなくてあそこまで諦めず戦える人間はなかなかいないわ。あなた大人しそうに見えて結構根性あるのね」
「それ、褒めてます?」
「褒めてるわよ」
そうしてミレアはシャーロットの髪を優しく撫でながら優しい声でささやく。
「初めての戦闘お疲れ様、シャーロット」
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