魔道具開発②
「さて、それじゃさっそく採掘してきた魔法石を使ってあなたの武器を作ってみましょう」
工房に戻ってきたミレアはさっそくシャーロットの使用する魔道具の制作に取りかかろうとしていた。
「はい。でもどんなものを作るつもりですか?」
「んー、そうだねえ、とりあえずあなた自身に作ってもらいたいっていうのがあるからまずは指輪とか簡単なものからにしようか」
そういってミレアは工房の棚に近付く。
棚の扉を開け彼女が取り出したのは宝石をはめ込むくぼみのある指輪だった。
「今回はこれを利用して作って見ましょう。この指輪に魔法石を埋め込むから取ってきたやつの中から好きなのを選んで」
ミレアに促され、シャーロットは先程採掘してきた魔法石の中から自分が使いたいものを選ぶため、思案する。
なにがいいのだろうか? ここはやはり扱いやすいものにすべきだろう。
「それじゃこれにしますね」
そう言ってシャーロットは大量にある魔法石の中から赤色のものを一つ選んだ、火属性の魔法石だ。
火属性の魔法は攻撃魔法としてよく使われる魔法である。
今のシャーロットには自分を守る道具も武器もなかったため、攻撃手段として使い勝手のいい火属性魔法を選んだのだ。
「お、火属性の魔法石にするんだ、まあ使い勝手がいいし、最初に作る魔道具としてはいいかもね。よし、それじゃ作業を始めましょう」
「そうですね、でもこの魔法石をどうやって魔道具にするんですか?」
「まあ、まずはこの魔法石を加工するところからね、次は術式を刻んで指輪として使えるように加工するの、最後にこの用意した指輪に石をはめ込んで魔力がちゃんと通るかを確認したら完成。作業は徹夜になるから覚悟しておいてね」
「ええ……」
にこにこ笑いながら徹夜作業になると言い放つミレアにシャーロットはがっくりと肩を落とすのだった。
2日後。
「よーし、できたあ!」
ミレアが大きな声をあげて叫ぶ。
その声には喜びの感情が込められていた。
彼女の目元には大きなくまができており、髪も手入れがされておらず、ボサボサになっている。
彼女も普段はそれなりにきちんとした生活をしているが魔道具の作業が始まるとそういったことはおろそかになる。完全に研究者体質の人間だ。
「……うう」
ミレアが喜んでいる隣で女の子にあるまじきうめき声をあげている人間が一人、シャーロットだ。
彼女もミレアと同じように目元にはくまができ、髪もひどい有様になっている。貴族令嬢として蝶よ、花よと育てられた彼女には徹夜など初めてで苦行そのものだった。
「つ、疲れました……」
シャーロットの声はミレアと違い、気力を使い果たして最後の力で絞りだしたような疲れ果てたものだった。
「お疲れ様、よく頑張ってくれたね。あなたのおかげで作業が普段より捗ったわ、やっぱり人手って大事だね!」
疲労困憊のシャーロットの肩を軽く肩を叩きながらミレアは彼女にねぎらいの言葉をかける。
「ミレアさん、結構人使い荒いんですね……」
「最初に言ったじゃん、働いて貰うって」
シャーロットの文句をミレアは軽くいなす。
この人結構傍若無人なところがあるかもなどとシャーロットが思っているとミレアは疲れて床にへたり込んだシャーロットの前にかがんで、
「さあ出来上がった指輪をはめてみて」
そう言ってシャーロットの手に出来上がった指輪を握らせた。
指輪を受け取ったシャーロットはそれを右手の指にはめる、赤い宝石がとても綺麗だ。
指輪には術式が彫り込んである。
二人で徹夜して作り上げたものだ。疲れてはいたが妙な達成感が心を支配する。
「うん! とっても似合ってる!」
ミレアはシャーロットの指にはめられた指輪を見てとても嬉しそうに言った。
「それじゃ後は魔法を発動するだけだね」
そうだ、それが一番肝心なことだ。
魔法が使えない自分でも魔法が使えるようになる。
その言葉に惹かれてシャーロットはミレアについてきたのだから。
「あ、でもまずは睡眠を取って休憩しよう、体力がない状態で道具を使用すると魔力の扱いが狂ってろくなことにならないからね」
「はい、とりあえず疲れたのでベッドで休ませてもらいます……」
ミレアの言葉を聞いたシャーロットは工房内に用意された自分用の寝床に飛び込み、まどろみの中へあっというまに落ちていくのだった。
睡眠をとり、体力の回復したシャーロットとミレアは作成した魔道具を試すためにミレアの工房の近くにある開けた場所に来ていた。
「ここは私が普段魔道具を作成した時によくテストに使っている場所なんだ。とりあえずこの岩をその指輪に術式を刻んで発動できるようにした火属性魔法のフレアで破壊してみて」
そう言ってミレアシャーロットに示したのは巨大な岩だ。
普通の人間には破壊などまず不可能だろう。
しかし魔法を使えば。
シャーロットは深呼吸をして岩の前に立ち、指輪をした腕を岩のほうへ向ける。
そうして魔力を指輪に込めるよう集中する。
魔力を通した指輪が赤い光を発していき、シャーロットの目の前に大きな火球が形成される。
「フレア!」
シャーロットのかけ声とともに巨大な火球は岩に向かって放たれる。
火球が直撃した岩は轟音とともに消し飛んだ。
「よし、成功だよ。シャーロット! これが君のために作られた初めての魔道具だ!」
試し打ちの結果を見たミレアは喜びの声をあげる。
シャーロットはしばらく起きた結果に呆然としていたが
「使えた、私にも魔法が使えた……!」
ずっと憧れていた魔法を行使できたことを噛みしめるように彼女は何度もその言葉を呟いていた。
「おめでとう、シャーロット。この指輪は君のための魔道具だ、好きに使うといいよ」
いつのまにかシャーロットの側にミレアが近付いて来ていた。
その顔には笑顔が浮かんでおり、心底嬉しそうだ。
「君は自分で憧れていた魔法を自分のものにしたんだ。自分で魔道具を開発することでね、もっと誇っていいよ」
「ありがとうございます、でも私だけの力じゃありません。ミレアさんが手助けしてくれたおかげです。だからこれは私とミレアさんの成果ですよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいな」
「ミレアさん、私まだ魔道具を作ってみたいです。だからこれからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくシャーロット」
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