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似た者同士

 ミレアに連れられてシャーロットは彼女の工房に来ていた。


「どうぞ、大したものはないけど上がって」


「お邪魔します」


 工房の中には道具の作成に使うのだろう、大量の魔法石が置いてあった。


 他には道具の設計図のようなものが散乱している。


 どうやらミレアはあまり部屋を綺麗に片付けるタイプの人間ではないらしい。


 レインズ家でも魔法の研究に没頭していた人間の部屋が似たような状態だったがなにかに打ち込むタイプの人は皆こうなのだろうか。


「凄い魔法石の量ですね」


「まあね、この魔の森は魔法石がよく取れるから私も居付いてる訳だし」


 ミレアはテーブルの近くにあった椅子に腰掛け、足を組む。


 そして反対側にあった椅子を顎で示し、シャーロットに座るように促した。


 シャーロットはそれに従い椅子に腰掛ける。


「それでさっきの道具はどう作ったかって話だっけ?」


「はい、先程その石は魔法石とおっしゃっていましたが魔法石はあまり使い道がないというのが一般的な常識です。魔力を帯びてはいるがそれだけの石というのが普通の認識と私は思っていますが、その魔法石を利用して先程の道具を作られたのですよね」


「うん、一般的な認識としての魔法石に関することはそれで間違ってないよ。付け加えて言うと、この魔法石って様々な属性を帯びてる。ここで聞いておきたいんだけど魔法の基礎体系についての知識はあるかしら?」


「はい、一通りは。基本魔法は地水火風の属性に分けられます。それ以外にも属性がない無属性の魔法の区分もあります、これは身体強化や回復魔法などの属性が関係ない魔法が分類されていますね」


 シャーロットはミレアの質問に淀みなく答える。レインズ家の魔法に関する教育はしっかりしていたため、これくらいなら簡単に答えられる、追放された身とはいえ勉強をしっかりさせてくれたのには感謝だ。


「正解。さてそんな風に魔力を帯びた魔法石をただの石ころとして終わらせるのはもったいないと思わない? そこで私はこの魔法石を使ってなにかできないかと考えた」


「それで開発したのが先程の魔道具というものですか?」


「そういうこと」


 ミレアは指輪を手に持って弄びながら魔道具の開発についての説明を始めた。


「まず私が魔道具を開発していくに当たってなぜ魔法が使えない人が出てきてしまうのかを徹底的に調べた。それで分かったのはね、魔法が使えない人は魔法を発動するための魔力はあってもそれに属性を与えて術として使用する術式を自分で構築できないのよ。それが私が調べて判明した魔法が使えない原因」


「……だったら自分が術式を持っていない代わりに最初から属性を持っている魔法石に術式を刻んで魔法を使用できるようにすればいいと考えた?」


「そう、理解が早いわねー、凄く助かるわ。それで一番最初は簡単なものから作り始めたんだけど……まあ全部が全部問題を解消できるわけでもなく。まず使える術式は一つの魔法石に対して1つだけ。魔法石に術式を刻むんだから当たり前の話なんだけど。どうしても元から術式を構築できる人間と行使できる魔法に差が生まれてしまうのは解消できなかったわ」


 ミレアはシャーロットの回答と話の理解力に満足したようだった、自分の話を理解できる者がいるのが嬉しいのかその顔には笑顔が浮かんでいる。


 シャーロットもユナイティア王国で魔道具の話なんて聞いたことがないからこの摩訶不思議な道具はミレアが独自開発したもので今まで誰も彼女の話を理解出来なかったのだろう。

 シャーロット自身もさっき実際に見るまでは信じられなかったのだから無理もないことだ。


「にしても話の理解が早いのにはびっくりしたわ。あなたどこかで魔法についての教育を受けてたの?」


「……これでもそれなりの魔法の名家で育ちましたので」


 シャーロットの言葉を聞いていろいろ察したのかミレアもそれ以上聞こうとするのをやめた。


「成る程。まあどこの家なのとかは敢えて深く聞かないでおこうかしら。しかし神様ってやつも残酷だね、そんな生まれの子に魔法の才能も与えないなんて。あの魔法万能のユナイティア王国で魔法の名家に生まれて魔法が使えないっていうのは本当に酷だよ」


 聞かされたシャーロットの生まれと今の境遇になんだかなぁといった感じで呟くミレア。


「ミレアさん」


 そんな彼女にシャーロットは静かに問いかける。


「さっきの話、本当ですか?」


「ん? ああ、私があなたを追放した奴らを見返す協力をする代わりに私の助手を手伝って欲しいって話?」


「はい」


「そうだよ、本気だよ」


「どうしてそこまでしてくれるんですか……?」


 普通出会ったばかりに人間にここまでのことはしないだろう。


 シャーロットは何故ミレアがここまで自分に世話を焼くのか疑問だった。


「あー、そこは気になるよね、まともな人間は知り合ったばかりの相手にここまでしないだろうし、普段なら私もそう。そうね……端的に言うと私と同じだったからかな」


「同じ?」


「そう。私も魔力の適正がないってあの国を追い出された人間だから。魔法が使えないことが悔しかったのがここで魔道具の研究を始めた理由なんだけどね」


 魔道具開発のきっかけをなんでもないことのように言ってのけたミレアは、一旦言葉を区切ると穏やかな瞳でシャーロットを見る。


「だから、うん、きっと似たもの同士だと思っちゃったんだろうね。あそこで死にたくないと言ったあなたを放っておけなかった。昔の私を見ているようでね。もちろん少し話をしてみてあなたが私の研究に利用出来そうって打算もあってのことだけど」


 優しく語られるミレアの言葉にシャーロットはどこか安心感を覚えていた。


 自分と同じ境遇の人間もいることに、そして彼女の優しさに。


「ミレアさん、だったら私をあなたの弟子にしてください」


 シャーロットはミレアに対して告げる。どの道今の彼女にはミレアにすがりつくしか生きていく道がなかった。


 ミレアの側にいることが今の魔法が使えない自分が道を切り開く上での最善の選択肢だと思えたからだ。


「お、やる気があっていいね。こっちとしては人手が足りてないから願ったり叶ったりだよ。そういえば名前を聞いていなかったな、あなた名前はなんて言うの?」


「シャーロットです。私もミレアさんに助けてもらった恩を返したいです。これからよろしくお願いします」


「シャーロットか、いい名前だね。これからよろしく!」


 こうして奇妙な出会いを果たした魔法が使えない似たもの同士に共同生活が始まった。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。もし面白い、続きが読みたいと思って頂けたのならモチベーションの維持にも繋がりますので、下の欄の☆☆☆☆☆を★★★★★にしたり、ブックマークして頂けると嬉しいです。

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