謎の少女ミレア
これからどうしていけばいいのか。
生まれ育ったレインズ家を追放されたシャーロットはパニックに陥りながらユナイティア王国から出て行った。
行く当てもなく彷徨い続けた彼女は気付けばユナイティア王国の側にある魔の森まで来ていた。
王国を出てから随分時間が経っており、日はもう暮れようとしていた。
「まずい……この森は魔物が出るから日が暮れると危険です」
本で読んだ知識を思い出してシャーロットが呟いた時、背後から獣の唸り声のようなものが聞こえた。
彼女が振り返るとそこには犬のような姿をしたモンスターが涎を垂らしてシャーロットをじっと見つめていた。
「……っ!!」
身の危険を感じたシャーロットは全力で逃げ出す。
モンスターはその彼女の後を逃さないと言わんばかりの勢いで追いかけてきた。
「いや! 来ないで……来ないでぇ!」
悲鳴にも近い声を上げながら、シャーロットは必死に逃げ回る。逃げ回る中で彼女の中に湧き上がってきたのはどうしてという感情だった。
どうしてこんなことになったのか。
魔法の適正がないことが分かってからすべてがおかしくなってしまった。
どうして自分ばかりこんな目に遭うのか。
「あ……!!」
全力で走っていたため、躓いて転んでしまう。
後ろからは先程のモンスターが追いかけてきていた。
家を追放されるという惨めな目に合い、最後はモンスターに食われて死ぬという救いようのない結末を迎えるのか。
そんなふうに思うと悔しくて仕方がない。
「嫌だ! このままこんなところで終わるのは嫌だ……!!」
シャーロットがあらん限りの力を込めてそう叫んだ時、何者かの声が響く。
「それじゃ私が手を貸そうか?」
涼やかで凜としたその声が聞こえたのと同時に、モンスターを炎が包み込む。
「え……?」
何が起きたのか分からずシャーロットは呆然とする。
シャーロットを追いかけて来ていた魔物はすでに炎に焼き尽くされ息絶えていた。
「可愛い金髪のお嬢さん。もう日が落ちたこんな時間に魔物がいっぱいのこの森で一人は危ないよ」
シャーロットが声がしたほうを振り向くとそこにはローブを纏った少女が立っていた。
その少女は赤眼で黒髪ショートヘアーの少女だった。
纏っているローブも髪と同じ黒色で、年はシャーロットより少し上の16歳くらいだろうか、言葉使いや見た目からは快活な印象を受ける。
彼女はシャーロットの側まで寄ってくると転んだシャーロットに目線を合わせるために、しゃがみこんだ。
「こんにちは」
にこやかな表情で彼女はシャーロットに挨拶をしてくる。
「あ、あなたは?」
「あ、ごめん、名乗ってなかったね。私の名前はミレア。にしても本当に女の子一人でこんなところでどうしたの? 夕方から夜にかけてのこの森って魔物も出やすいから人間はあまり近寄らないし」
ミレアと名乗った少女は第一印象の通りに物怖じをあまりしない性格なのか遠慮なしにシャーロットに質問を投げかけてくる。
「そ、それは……家を追放されて行くあてもなく彷徨っていたらここに辿り着いたんです」
「家を追放ってこんな幼い女の子に酷いことするなあ」
しみじみといった感じで呟くミレア。そういう彼女もまだ自分とたいして年が変わらないように見えるがとシャーロットは内心で突っ込みをいれる。
ただ彼女は妙に落ち着いた雰囲気を纏っていた。
「しかしまたなんでそんなことに?」
彼女は訝しむようにシャーロットに尋ねてくる。
「……私が魔法を使えなかったからですよ」
「魔法が使えないから追放って……君、もしかしてあの魔法王国ユナイティアの出身?」
「はい……」
シャーロットのその答えを聞いたミレアは深い溜息をついた。
「……ほんと、変わんないな。あの国の魔法が使えない人間に対する仕打ちは」
そう呟いたミレアの言葉には底冷えするようなどこか暗い情念が込められていた。
「? どうされたんですか?」
「いいや、なんでもないよ。そっかそれは大変だったね」
ミレアはそう言ってシャーロットを抱きしめ、頭を優しく撫でる。
突然のことで戸惑ってしまったが彼女の体温が今のシャーロットには暖かく感じられた。
(なんだか落ち着く……)
ミレアの優しさにレインズ家から追放されてから張り詰めていた緊張の糸が切れたのか抵抗する気力も失せてシャーロットはしばらく彼女に抱きしめられたままとなる。
「ねえ、私があなたを追放した人間達にやり返す力をあなたに与えるって言ったらどうする?」
「えっ……?」
ミレアが突然言ったことに対して、シャーロットは思わず息を呑む。
「そんな力があるのですか?」
シャーロットは縋るような声でミレアに尋ねる。彼女の質問にミレアはニヤリと笑い、
「あるにはあるよ。ただし条件がある」
と自信に満ちた声て答えた。
ミレアはそこで言葉を一旦区切り、話を続ける。
「私の助手になること。あなたが私を助けてくれることが条件よ」
「助手? 一体なんのですか?」
「これ」
そう言ってミレアは指にはめている指輪をシャーロットに見せる。
指輪には赤い宝石のようなものが付いていた。
「これは魔法石を使って作成した指輪。これで何が出来ると思う?」
「……分かりません」
「魔法が使えない人でも魔法を使えるようになれるんだよ」
「!?」
ミレアが自信に溢れた声で告げたその言葉に私は驚きを隠せない。
この世界では魔法は適正のあるものだけが使えるものだ。それはこの世界で生まれた者なら誰でも知っている常識である。
ミレアの言っていることはその常識を覆すとんでもないことだ。
「ほ、本当なんですか!?」
気づけば驚きのまま彼女に尋ねてしまっていた。シャーロットにとってミレアの言葉はそれくらい信じられないものだったのだ。
「まあ、言葉で言っても信用しないよね。ちょっと実演してみようか、見てもらったほうが早いだろうし」
こう言った反応には慣れているのかミレアは指にはめた指輪を近くの岩に向ける。
指輪は光を帯びだし、彼女の前に火球が形成される。
「フレア!」
ミレアが叫ぶと同時に火球が岩に向かって飛んでいく。火球は岩に直撃し、粉々に吹き飛ばした。
その様子を見ていたシャーロットは呆気に取られる。
「今のはどうやったんですか!?」
「ああ、この指輪の魔法石に術式を刻んで魔法を発動出来るようにしてるだけ。私だって魔法が使えないんだもの。さっきの魔物もこれで倒した」
魔法が使えない人間でも魔法が使用出来るという事実を改めて突きつけられてシャーロットは言葉を発することが出来ない。
今まで聞いてきた魔法とは適正がある者が使えるものという前提が覆り、
シャーロットの中で悲しさが込み上げて来た。
こんなことが出来るのなら魔法が使えないからと家を追放された私はなんだったんだと虚しさに襲われる。
「ちょ、ちょっと! だ、大丈夫?」
ミレアが慌てた様子でシャーロットに声を掛ける。
「え……?」
「あなた、泣いてる」
彼女の言葉にシャーロットは頬に手をやる。
自分でも気付かないうちに涙が溢れ、頬を伝っていた。
彼女は慌てて涙を拭う。
「あ、すいません。いきなり涙なんか流して。その道具を見てたら私が魔法を使えず追放されたのってなんだったんだろうって思ってしまって」
「なんかごめんね、嫌なことを思い出させたみたいで」
シャーロットの様子を見たミレアは申し訳なさそうに謝ってくる。
「いいえ、ミレアさん」
シャーロットは涙を拭ってミレアをしっかり見つめて言う。
「私にその道具についてもっと教えてもらえませんか」
シャーロットのその言葉にミレアは柔らかい笑みを浮かべて答える。
「いいよ、それじゃ私の工房で説明しようか」
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