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追放

 12歳の誕生日、シャーロット・レインズは胸を高鳴らせて魔法の適性検査の日を迎えていた。


 このユナイティア王国では12歳になると貴族階級の人間は魔法の適性検査を受ける。


 シャーロットの生家であるレインズ家はユナイティア王国の貴族の中でも優秀な魔法使いを多数輩出している名家だ。


 そのため王国への貢献が認められ、レインズ家の屋敷もユナイティア王国の首都であるクレイストラの中心地にある。


 幼い頃から魔法を使って一族の皆が活躍するのを見ていた彼女は自分もいつかあの一族の皆と一緒になって活躍するのだと思い、魔法使いに憧れていた。


 その夢の一歩が今日だと思うと気分も高揚してしまう。部屋に一人、その時を待っている彼女は椅子に座って鼻歌を歌っていた。


「早く検査を受けたいなあ」


 弾む声で呟くシャーロット、今の彼女は憧れに一歩踏み出す喜びに溢れていた。

 彼女が上機嫌て待っていると部屋の扉が軽く叩かれる。


「さあ、シャーロットおいで」


 扉の外から聞こえてくるのは優しい男性の声だ。


「お父様!!」


 その声を聞いたシャーロットは弾む声をあげて駆け寄り、扉を開ける。


 扉の外に立っていたのは壮年の男性だった。綺麗な金髪に威厳を感じさせる顔。細身だが引き締まった肉体を持ち威厳に溢れた雰囲気を纏っていた。


 アルフレッド・レインズ、シャーロットの父親でレインズ家の現当主だ。


 そして現在のユナイティア王国で有数の魔法使いでもある。


「よし。シャーロットそろそろ時間だから行こうか」


「はい! お父様、私今日の検査の日を楽しみにしていましたわ、早く行きましょう!」


 はやる気持ちを押さえ切れず、シャーロットは父を置いて駆けだしてしまう。駆け出した彼女をアルフレッドは慌てて追いかけて止めた。


「まあ、そう焦るな。検査は逃げやしないんだし。私もお前が偉大な魔法使いになる一歩を踏み出す始まりとなる今日という日を楽しみにしていたが」


「うふふ、お父様だって楽しみにしていたんじゃありませんか、早く行きましょう」


 魔法使いの名門に生まれた親子はそんな言葉を交わしながら適性検査の会場に向かう。


 父は娘が魔法使いとして一歩を踏み出すのを楽しみに、娘は立派な魔法使いになることを夢見ながら。





「なんだと……それは本当か!?」


 シャーロットの検査の結果を屋敷の自室で聞かされたアルフレッドは愕然とする。


「間違いございません、シャーロット様の魔法適正は皆無でございます」


 検査官のその言葉を聞いたアルフレッドは頭を抱える。


 レインズ家は代々高名な魔法使いを排出してきた家柄だ。


 代々魔法使いを輩出してきたこの家に生まれたシャーロットがなぜ魔法が使えなくなったのかは分からない。


 しかしこのことが外部に知れればレインズ家の家名に傷が付くことは確かだった。


「もういい、分かった。お前は下がれ」


「は、失礼します」


 アルフレッドは報告してきた検査官にそう命じ、部屋から退出させる。


「なぜ……なぜ……こんなことに。運命とはこうも無慈悲なものなのか……」


 誰もいなくなった部屋でアルフレッドの呟きが空しく響く。


 レインズ家の家名に傷が付くこと以上にアルフレッドが懸念しているのはユナイティア王国の風土である。


 この国では魔法使い達が国を動かしている。


 魔法使いとして優れた者達は貴族として特権を与えられ、国の中枢に迎えられる。


 しかし魔法使いでない者はこの国では平民として扱われ、下級市民と見なされるのだ。


 そういう者達の扱いはこの国ではあまり良くないのが現状である。


 ましてやシャーロットはユナイティア王国有数の魔法使いの名門レインズ家の者だ。そんな家のものが魔法を使えないとなれば周囲の貴族達から酷い扱いを受け、嘲笑の的になるのは間違いなかった。


 娘のシャーロットに降り掛かってくるであろう現実を想像し、しばらく頭を抱えていたアルフレッドだったが何かを決断したのか顔をあげる。


「許してくれ、シャーロット。お前に対して優しいことをなにもしてやれない情けない父親を」


 彼はそう呟くと自室を後にした。





 検査を終えたシャーロットはレインズ家の屋敷にある自分の部屋で検査の結果報告を待っているところだった。


「早く結果報告来ないかな~」


 シャーロットは椅子に座って足を揺らしながら、声を弾ませ、無邪気に結果報告を待ちわびていた。


 ようやく魔法を使える者として一人前に扱われる、そのことが彼女はなによりも嬉しかった。


 やがて彼女が待ち望んでいた適正検査の結果報告のために父であるアルフレッド・レインズが部屋にやってきた。


 彼は扉をノックしてシャーロットの部屋に入ってきた。その顔にはどこか沈痛な表情が浮かんでいる。


「……お父様?」


 アルフレッドの表情にシャーロットはどこかただならぬものを感じて恐る恐る父の名前を口にする。


「シャーロット…お前に魔法適正は……なかった。それが今回の検査結果だ」


「え……」


 アルフレッドの言葉にシャーロットは言葉を失う。魔法の適正が自分にはない……?


「どうしてですか? 魔法の適正が私にはない? なにかの間違いではないのですか?」


「間違いではない。検査結果は確かにお前の魔法適正がゼロであることを示していた」


「そんな……」


 何故自分だけ? 他の自分の家族は皆魔法適正があるのにどうして自分だけないのか?


 父から検査の結果を聞いたシャーロットは混乱し、そんなことを考えるのが精一杯の状態だった。


「お前は家から追放だ、シャーロット」


 そんな状態の彼女に父の言葉がさらに追い打ちをかけた。


「そ、そんな、レインズ家から追放だなんて!? ど、どうしてですか?」


「どうしてだと?」


 叫ぶように尋ねたシャーロットにアルフレッドは冷たく言い放つ。


「我が家は代々魔法使いとして優秀な人間を輩出し、権威を確立してきた。それなのに魔法に適正がないお前をこの家に置いていては我が家の権威は崩れてしまう」


「そ、そんな待ってください、お父様! 私は!」


「黙れ、この落ちこぼれめ!」


 アルフレッドの大きな怒鳴り声にシャーロットは肩を震わせて黙り込んでしまう。


 彼はそのまま無言で少し大きな袋をシャーロットの目の前に置く。袋からは金属の擦れる音がしていた。


「せめてもの情けだ、しばらく困らないだけのお金は渡すからこれを持ってどこへでも行くがいい。この一族の恥め」


 最後の言葉をアルフレッドは吐き捨てるように言った。


 こうしてシャーロットは生まれ育った生家であるレインズ家を追放された。


 ここまで読んで頂きありがとうございます。もし面白い、続きが読みたいと思って頂けたのならモチベーションの維持にも繋がりますので、下の欄の☆☆☆☆☆を★★★★★にしたり、ブックマークして頂けると嬉しいです。

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