3章ー2
あれから1週間後の事だった
経過は良好でなんの心配も要らないとお医者さんは言っていた
病院はエアコンもきいているしテレビもあって快適だ
健太もちょこちょこ会いに来てくれて着替えと家にある本を持ってきてくれた
ただ暇を持て余していた
「それにしても暇ね〜」
ゆめが、だ
「しょうがないだろ〜、もうすぐ退院できるって言ってるし我慢だ」
本を差し出したが今はいらないらしい
ベッドに上半身を投げ出してぐでーんとしている
「あー悠二のハンバーグが食べたい」
「帰ったら作ってあげるよ」
不思議に思っている事がある
ゆめは誰とも遭遇しないのだ
ちょっと散歩へ行くだの
売店に行くから小遣いをくれだの
ちょこちょこ席を外すのだが
面会のお客さんは絶対にゆめがいない時にくる
ただタイミングが良いだけなのか、、、
それにしても1週間そんな調子だ
まさか、、、、な
ふと、顔をあげるゆめ
「プリン食べたい
お小遣いちょうだい」
なんとも機嫌の悪そうな顔でぶつくさと言う
「あーはいはい、あんまりウロウロせずに帰っておいでよ?」
はいはーいと病室を後にした
読んでいる最中の本に再び目を落とす
この所本ばかり読んでいる
「元気そうね」
びくっとして扉に目をやると愛子さんが立っていた
「なによ、そんなに驚くこと?」
クスクスとおかしそうに笑う
さっきゆめが出て行ったばっかりだけど、、、
すれ違わなかったのかな
「あ、ああ、いや」
なんとも言えない感じで誤魔化す
「これ差し入れ、好きだったでしょ?いちご大福」
「え?!いちご大福?!大好きだよ」
「そんなに喜んでくれたのならよかったわ」
またクスクスと笑う
嘘ではない
いちご大福は好物なのだが
それを覚えていてくれた事が何より嬉しかった
「ありがとう、後でいただくよ」
「私ちょっとこの後予定があって、、
バタバタしてごめんね?
また来るわ」
そう言って手をひらひらさせながら出ていった
今日の彼女はロングスカートを履いていた
俺が好きだと言ったロングスカートを、、、
今日はいつもより綺麗に見える
デートの予定でもあるのだろうか
胸の奥が傷んだ
「なによ、また弱気?」
びくっと先程のようなリアクションを取ってしまう
皆気配を絶って病室に入る訓練でも受けているのだろうか
「い、いつ戻ってたの?」
「今よ、今」
買ってきたであろうプリンを机の上に置いて、ゆめはまたぐでーんと上半身をベッドの上に投げ出した
なんだ、プリンいらないのか?
「ねぇ悠二、いつ退院出来るのー?」
んー?と適当に返事をしつつ先程もらった白いもちもち達を眺めた
整然と並べられたもちもち達はとても綺麗で見た目も素晴らしいのに更に味まで美味しい
後でじっくりいただこう
「私もう暇で暇で干からびちゃうわよ」
そうだねーと相づちを打ちながらもちもち達を大切に冷蔵庫にしまった
「ちょっと聞いてるの?!」
その時だった
「ごめんごめん!忘れ物〜これ!新刊出てたから!後で感想合戦しましょうよ」
愛子さんがいつの間にか戻ってきていた
しまった、完全にゆめとかち合った
なんと言い訳をするべきか、、、
「え?なに?固まってどうしたの?
あ、プリン!いちご大福せっかく買ってきたのにー!甘いものばっかり食べてたら太るわよ」
ニヤッと意地悪そうな顔をして笑っている
「え?」
訳が分からなかった
ここに小さな女の子が座っている
俺の真横にだ
しかも、、、ゆめいわくだが
自分の娘だ、なんで何も言わない?
なんで何の反応もない?
「ん?どしたの悠二?」
「愛子さん、ここに、、、」
ゆめを指さす
「え?なになに?こわいよーやめてよね!」
クスクスと笑う
「見えないの、、、、?」
「どうしちゃったの悠二?大丈夫?」
うそ、、だろ
状況が全く掴めない
困惑していた
「あんまり寝れてないんじゃないの?
あ、もうこんな時間!ごめん!またね!」
完全に思考が止まっていた
愛子さんはそう言い残して小走りで去っていった
ゆめの顔を見た
彼女は
ゆめは
なにかに耐えるように
必死に我慢するように
泣き出しそうな顔で
笑っていた