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憂き人  作者: えにあおじ
4/12

1章ー3

窓に激しく打ち付ける雨の音で目が覚めた

バチバチと不規則に打ち付ける雨

光ったかと思えば遠くで雷鳴が轟く

外は豪雨だ

ソファはやはり寝心地が悪く腰が痛い

うーんと伸びをしてゆっくり立ち上がった

ゆめは、、、、まだ寝ているようだ


キッチンでコーヒーを入れタバコに火をつけた

やはり不味い

今日は作業できそうにない

これは中止だろうな


「ん、、、ゆーじー、、、、、」


起きたのかな

ゆめがよんでる

寝室を覗き込んでみる


「おはよ、ゆめ」


ボサボサの頭でちょこんと座り込みぼーっとしている

その時一際大きな雷鳴が鳴り響いた

ゆめが大慌てで抱きついてきた


「なになに?!何事?!」


やはりまだ子供、雷は怖いんだろう


「外は大雨だよ

雷様が元気いっぱいに太鼓を鳴らしているんだろうね」


「は?なに?雷様?なんて近所迷惑なのかしら!文句を言ってやらないと!」


反応に違和感を覚えたが

強がりながらも必死で抱きついて離してくれない様をみると多少の情も湧く

なるほど、これが親心なのか


もう一度雷が鳴る

ゆめがびくっと先程より強い力で抱きついてくる


「もう!なんなのよ!!雷様ってどこにいるの?何階の何号室?ちょっと文句を言ってきてよ!!」


面白い返しもできるんだなこの子は

なかなかやるじゃないか


「なんで笑ってるの?こんなの近所迷惑でしょ?

こんなに朝早く太鼓を叩いているなんて

やめるように言いに行きましょうよ」


思わず笑ってしまい頭を撫でた

その時スマホの着信音が鳴った

画面には健太と出ている

大雨だから中止の連絡だろう


「あ、もしもし悠二?

今日休みだってよー」


「おはよう健太、そうだと思った

かなり降ってるもんね」


「んだなー、、、

悠二大丈夫?病んでない?」


突然の質問に胸の奥がまたチクリと痛む

昨日のゆめの突然の訪問から少しだけ忘れていた辛さを思い出す


「あぁ、大丈夫だよ

ありがとうね健太

時間が解決してくれる」


「んんんん、、、

まぁそうだな!

あんまり悩むなよ!また飲みに行こうぜ!」


気遣ってくれたお礼を言い電話を切った

心が重くなる


「時間は解決なんてしてくれないわよ」


ぎゅーっと抱きつきながら

顔もあげずにもごもご言うゆめ


「え?」


「時間は解決なんてしてくれない、ただ風化させるだけよ」


その言葉が胸の奥に突き刺さった

本当にその通りだと思う

大切な想いは、きっといつまでも心に残る

愛子さんへの想いも、夢見た未来も

きっと消えやしない

この先違う人を好きなって

その人と家族を築くかもしれない

それでも、、、いつかこの事を思い出して苦笑いする日がくる

それは心の傷が癒えた証拠ではなく

時間が風化させたにすぎない


「お腹すいたー」


顔を上げてさっきのセリフなんて嘘かのように子供っぽいあどけない表情を見せる


「ああ、朝ごはんにしようね」





その日は夕方まで一緒に本を読んだりテレビを見たりして過ごした

驚いたのだけど

ゆめは10歳にして俺と同じような本を読む

昔から本が好きで今でも小説やら哲学書やらなんでも読むのだが、

ゆめはどれも興味津々で手に取って読みふけっていた

将来は作家さんにでもなりそうだ


「あ!見て悠二」


窓の外を指差すゆめ

外を見るといつの間にか雨は止んでいた


「私、本屋さんにいきたい!!!」


久しく行っていなかった本屋さん

まぁ理由はあるのだけど、、、、


「よし、じゃあ準備して行こうか

ついでに夕飯の買い物も」


ゆめが言うんだから仕方ない

そう自分に言いきかせて言い訳をした



「本の匂いがする!!!!

私この匂い大好き!!!!」


入店し、目を輝かせるゆめ

とてもわかる

俺も大好き

だけど書店では静かにしましょうね


「ちょっと見てきていい?」


まぁこの店はそんなに広くないし大丈夫だろう


「いっておいで、その辺にいるからね」


わかった!と元気いっぱいに返事をする姿は何とも愛らしい

親心がわかってきた気がする

走らないように早足で店内の奥へ進むゆめをみながらなんとも言えない感情に浸っていた

しかし、まぁ今朝のセリフには驚かされた

時間は解決なんてしない、風化させるだけ

、、、、もしかしたら本の一節にそんな文章があったのかもしれない

普段は普通の女の子なのだが

たまに驚くような言葉を使う事もある

本当に、、、

彼女は何者なんだろうか、、、


思案しながらいつもの小説エリアをざっと流す

いつもの、、、


そう、この書店は行きつけの書店なのだ

最近の来ていなかった理由は、、


「まーた考えながら本を眺めてるのね」


心臓が跳ね上がる

冷たい汗が吹き出す


「久しぶりね、元気だった?」


別れた元恋人がそこに立っていた

長かった髪をバッサリ切って

俺が好きだと言った髪色を落とし

真っ黒なショートヘアの彼女は

そこにいた



この書店は、俺と愛子さんが出会った場所でもあった




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