1章ー2
「さて!じゃあ話も纏まったことだし!」
ゆめが両手をパチンと叩き椅子から立ち上がる
「お買い物に行きましょう」
しばらくこの家にいるのだから生活必需品が必要だ
布団も1式買わないといけない
「そうだね、とりあえず近くのホームセンターに行こうか」
「え?なんで?家電屋さんにいくのよ?
エアコンを買うの
暑くて暑くてたまらないわ」
「エアコン??生活用品を買いに行くんじゃないの?」
全く噛み合わない会話
「生活用品?歯磨きセット着替えは持ってきてるもの
何もいらないわ」
いや、布団とか、、、、
と、口に出す前に手を引っ張られた
「まずはシャワーよ!私汗かいちゃったの!
悠二もひどい髪型だしお風呂にしましょう」
まだ知り合ってから30分ほどなのに完全に主導権を握られている
「あ、あぁそうだね
お風呂はここだよ
タオルは用意しておくから入っておいで」
お風呂場に案内して
タオルの用意をしようと振り返る
、、、、、
なぜかゆめが手を離してくれない
「あ、あの、、、、タオルを」
「一緒に入ればいいじゃない
その方が時間も短縮できるし、、
頭も洗ってもらうの!!」
すごく、、、、とてもすごくキラキラした目で見つめられている
だがこれは絶対にダメだ
誰の子かも分からない子のこと一緒に生活するだけでもかなり危うい、いやギリギリアウトなのに
一緒にお風呂?ありえない
それはダメだ
言わずもがな言いくるめられて頭も洗ってあげて
髪の毛も乾かした
「完璧よ、、、、自分の才能に驚きを隠せないわ」
と、いいながらゆめがしてくれたヘアセットはアニメで見かけた実験に失敗して爆発した後のようなヘアスタイルだった
「さぁ!エアコンを買いに行きます!」
万遍の笑みのゆめが支度を整えて高らかに宣言する
「あのさぁ、ゆめ
こんなこと言いたくないけど俺給料もそんなに良くないし蓄えだって少ししかないんだよ
だからエアコンはもう少し我慢できない?」
嘘ではない、決して嘘ではないが、、、
エアコンを買うくらいはなんとかなる
でも新調するとなると高くつく
親方の伝で修理業者を呼ぶつもりだったのだ
「あら?お金ならさっき渡したじゃない」
テーブルの上に置きっぱなしの茶封筒を指さす
一応その中身を確認する
「、、、、、っ!」
中にはざっと俺の給料の3ヶ月分くらいのお金が入っていた
「貰えないよ!こんなに!!!!」
こんな現金を手にしたことがない俺はあわてて茶封筒をゆめに返そうとする
「そうなの?じゃあ私が使う!」
いや、それはそれでダメだろうと
手を引っ込めた
「なによ!いらないなら私が貰うって言ってるの!!!」
ちょっと本気で欲しそうにしているから困る
悩みに悩んだ末に預かるという形にした
もちろんゆめはもう反論してきたが無視した
「悠二!これ!これにしましょう!」
大型の家電量販店ではしゃぐゆめ
その彼女が指をさしているのはエアコンではなく
大きなテレビだった
「いや、それテレビじゃん
エアコンを買いに来たんだろー」
このテレビすごく画質がいいの!とはしゃぐが
今度ねーと受け流す
そんなゆめだが不思議な点があった
この歳の子供にしてはおもちゃやゲームに全く興味を示さない
最近の子供はそんな事には興味を示さないのかもしれないな
独身の俺に子供の事情なんてわからない
「悠二じゃないの!」
突然肩を叩かれてビクッとなる
振り返ると親方とその奥さん、明里さんが2人で立っていた
「あ、こんにちは」
「あんたちっとも家に顔を出さないで!
ちゃんと飯は食ってるのかい?たまには食べに来なよ!」
明里さんは豪快な人で親方と一緒で俺にとても良くしてくれている
「ご無沙汰しております
今度行かせていただきます
ありがとうございます」
しまった!ゆめの存在を忘れていた、と振り返るがそこにはいない
子供を連れている言い訳をしなくても良かったのは幸いしたが、はぐれてしまった
適当に世間話をしてその場を離れた
冷や汗をかいた
迷子になったのだろうか
目を離したのがいけなかった
小走りで辺りを探すが見当たらない
迷子センターとかあったっけ?
とりあえずカウンターにいる店員さんに聞いてみようと踵を返したその時
「悠二なんでそんなに慌ててるの?」
目の前にゆめがいた
ほっとして胸を撫で下ろす
「迷子になったかと思っただろ!離れちゃダメだ」
「ご、ごめんなさい」
しゅんとした彼女の顔を見てはっとする
少し言い方がきつかったか
「手をつなごう、そしたら大丈夫だ」
しゃがんで手を差し出した
少し、ほんの少し嬉しそうに手を繋いでくれたゆめの頭を反対の手で撫でた
エアコンが展示されてるエリアで2時間ほどかけて悩み抜いた末に少しだけいいやつを買った
予想外の出費だからこれはこれで満足だ
ゆめはというと
もう完全に飽きてしまっていてお腹が空いたと不機嫌だった
外で食べても良かったが
「だめ!私ハンバーグが食べたい!悠二が作ったやつがいい!」
と、ゆめが1歩も譲らなかったためスーパーに寄って帰った
「あと5分よ!5分でお腹と背中がくっつくの!」
「5分は無理かもだけどもうちょっとでできるからね」
お腹ぺこぺこでも彼女は元気いっぱいらしい
そんなにハンバーグが好きなのか
「ゆめーできたよー
運ぶの手伝ってー」
「はーーーーい!!!」
めっちゃいい子じゃん
昼間のあの物言いが嘘かのように従順にお手伝いをしてくれる
奇妙な違和感を覚えながら残ったサラダを机の上に置いた
「いただきます」
行儀良くきちんと手を合わせていただきますをする
その様子は育ちの良さを感じられる
ハンバーグは大好評をいただいて、たくさんのお褒めの言葉を頂戴した
「悠二は天才ね!
コックさんになるべきよ!
でもでも、、、
このハンバーグの味を知ってるのは私だけがいいから、、、、
やっぱりダメ!!」
「ありがとう
そんなに褒められると照れるよ」
ビールを飲みながら彼女が食べる様子を見ていた
不思議と飽きずに延々と見られるような気がした
「ねぇ悠二」
不意に悲しそう顔をする彼女
「ん?どうしたの?」
よく見ると悲しそうな顔ではなく、どうやら眠いらしい
うつらうつらしている
今日はいっぱいはしゃいでいたから疲れたのだろう
お腹も満たされて一気に眠気が来たのかもしれない
「マ、、、、は、ず、、、後、、、、たわ」
「ん?なんだって?」
その答えは寝息となって返ってきた
限界だったのだろう
布団は1個しかないし俺はソファだな
ゆめをそっと抱き抱えて布団に寝かせた
外はいつのまにか大雨が降っていた
これは明日は休みかもしれない