1章ー1
「それにしても暑いわねぇ、この部屋」
オレンジジュースを飲みながら
ゆめ、と名乗った少女が不満を隠さずに言う
「あ、今エアコンが壊れててさ、ごめん、、」
その態度に気圧されて謝ってしまう
「いや、じゃなくて!君は誰?なんで俺を知ってるの?ここに来た理由は?」
ゆめが少し面倒くさそうにこちらを見る
「一度に何個も質問しないで!私の名前はゆめ!さっき言ったでしょ?」
何故かすごく機嫌の悪い少女は、玄関口で自己紹介をした後
ずかずかと入り込んで来てジュースを催促した
その顔は整っており、、、、
いや、俺はロリコンではないのでその辺はきちんと理解していただきたい
整っており、誰かの顔を彷彿とさせた
ん、、?その態度も怒ってる時の誰かみたいだ、、
「ああ、名前はわかったよ。ゆめちゃん
なんで俺の所に来たの??ご両親は??」
「ちゃんはいらないわ」
「え?」
「ゆめ!それでいいの!両親の事も悠二の事を知ってる理由も言えないの」
「わかった!わかったよ、ゆめ。
じゃあここへは何をしに来たの?」
はぁ、、、と大きくため息をつくゆめ
「あなたの根性を叩き直しにきたの
そうゆう所よ悠二」
露骨に上から目線の少女
その態度に次第に苛立ちを覚える
なんだ、なんなんだこの子は
なんでこんな言われ方をしなくちゃならないんだ
こんな見ず知らずの、、、、
見ず知らず?あれ?どこかで見たことがあるぞ、、?
「お父さんとお母さんの名前は??」
「もう一度言うわ。いえ、言い直すわね
言わないんじゃないの
言えないの」
その真剣な表情からは鬼気迫るものすら感じた
これ以上はその話題に触れるな
そうハッキリ伝わった
でもこの子は恐らく小学生くらいだ
そんな子を男の一人暮らしの家にあげては倫理的に完全にアウトだ
「よ、よしわかった。言えないんだね
よくわかった」
慎重にいこう
落ち着け
言葉を選んで情報をひきだそう
「ゆめのご両親はゆめがここに居る事を知ってるのかな?」
「あら、当然じゃない
あ、これ、しばらくお世話になるのだから渡しておきなさいって言われたの」
少し膨らみがある茶封筒をリュックの中から取り出して、こちらに渡してきた
「え?!まって、しばらくお世話になるって?!」
ゆめが呆れた顔でため息をついた
「当然じゃない?私にどこで寝泊まりしろって言うの?小学生が1人でホテルに泊まれると思うの?」
話に着いていけない
突然現れた少女は名前以外何も言わないが
どうやらこの家で寝泊まりするつもりらしい
この子は親戚の誰かの子供、という訳ではないしありえない
俺には親族はいない
いや、どこかにはいるのだろうが知らない
俺はいわゆる孤児院で育った
28年の人生の中で俺の親族を名乗る人は1人もいなかった
それが突然現れて子供をよこした?
そんな話があるだろうか
いやいやありえない
そんな思案を巡らせていると
目の前に座る少女が口を開く
「私の事誰かに似てると思わない?ほら、聡明な所とか綺麗な整ったお顔とか」
いや、自分で言うなよなんて思いつつ
確かにその顔には、その態度には面影があることを再度確認する
嫌な予感しかしない
変な汗がにじむ
元恋人、愛子さんに似ている
「あなたが今思い浮かべた人、その人が私のママよ」
驚愕した
子供がいたのか
それもこんなに大きな、、、
え?大きな?
大きすぎないか?
愛子さんは俺の3つ年下の25歳だ
「ゆ、ゆめは今いくつなの、、、?」
「ピチピチの10歳よ」
どや顔の少女
なんでどや顔?
いや、そんな事は今はいい、、
10歳、、、?ありえない
15の時に子供を産んだことになる
ありえ、、、なくないのか?
それでもやっぱり可能性は限りなく低い
「はい!質問タイムはこれでおしまい!
とにかく詳しい事は話せないの!」
謎は深まるばかりだ
なにも解決していない
「と、とにかくだ!ここに寝泊まりするなんておかしいと思うんだ!俺は君を知らない!」
「君じゃない、ゆめ」
突然真剣な表情でこちらを見つめる
「そう、わかったわ
電話を貸してもらえるかしら?」
ゆめはにっこり笑っててを差し出した
家に電話して迎えに来てもらうつもりだろうか
ほっとして、携帯電話を快く渡す、、、
渡そうとしたが、なんとなく見覚えのある笑顔に一瞬躊躇して尋ねた
「どこに電話するの?」
「警察」
「なんでっ!!!!!」
あわてて渡しそうになった携帯電話をひっこめる
「誘拐されてまーすって言ってやる
ここで大声で叫んでもいいのよ?」
「わかった!落ち着こう、よしわかった」
なにもわかってないし落ち着かないといけないのは俺だが
それは1番恐れている事だ
「落ち着くのは悠二の方ね」
「で?どうするの?」
涼しい顔でオレンジジュースを飲みながら少女は答えを求めてきた
いや、脅迫してきた
簡単に言えば
ここに置いてくれないのなら大声で叫ぶか、もしくは警察に通報してやるって事らしい
このアパートの大家は親方だ
大声で叫ばれたりなんてしたら、、、、
詰んだ
「1つ、、、、条件がある」
「なに?」
「今は夏休みだよね?」
「ええ、そうね」
「夏休みが終わるまで
それまでだ」
「いい判断ね」
何故かゆめはとても嬉しそうな笑顔を見せ
その笑顔を見た俺は
何故か心がざわついた
俺とゆめの一夏の奇妙な共同生活は
こうやってスタートした