第4話 incerta et numero
架空の国が出てきますので先に言っておきます。地図で調べても出ませんよ
ボストンのビーコンヒルにある煉瓦造りの一軒家。ここの家主であるメアリーはダイニングで朝食をとっていた。すると、2回から慌ただしく階段を駆け降りる足音がした。メアリーは同居している少女であるミナが目を覚ましたのだと気付く。休日のミナは正午直前まで寝ていることもザラなのだが、珍しく早朝に目を覚ましていた。
「メアリ!蚊に刺された、お薬!」
「テレビの横にあるわよ。」
ミナはテレビの横に置いてある虫刺されの薬を見つけて駆け寄り、患部に薬を入念に塗る。
「いっぱい塗ればいい訳じゃないのよ。それと、まだ早いけど二度寝する?」
「ううん、もう起きてる。」
「じゃあ、朝食用意するわね。トーストとサラダにオレンジジュースでいい?」
ミナが頷いたのを見てメアリーは朝食を用意し始める。
「テレビつけるよ。」
「ええ。」
ミナは薬の側に置いてあったリモコンを取り、テレビを付けて食卓についた。
「中東を中心に活動する過激派組織、岩蛇戦線の指導者、クタイバ・トゥタンジーは中央アジアの独裁国家、ダヴリィク人民共和国からの撤退を表明しました。クタイバは先月、同組織のトップ2であるカフワジー・ハーシュクジーらの離脱を表明しており、今回の件はその影響だと考えられております。ダヴリィクのヌールトドルコイ書記長は、『我々はテロと信仰などという無意味な物に勝利した。』と述べました。」
メアリーはミナの前ににサラダとドレッシングのボトルを置いた。ミナは片手で腕を掻きながら、もう片方の手でたっぷりとサラダにドレッシングをかけた。
「かけ過ぎよ。食べられなくなっても知らないわよ。それに、痒くても掻くのはやめなさい。悪化するわよ。」
「でも耐えられないもん。痒みを抑える魔術とかないの?」
「その手の"術"は全て自然科学になったのよ。そのおかげで安く痒み止めを買えるようになったの。もし未だに魔術師が痒みを抑える儀式をやっていたのなら、一般人は簡単に痒み止めを手に入れられなかったでしょうね。」
メアリーも座って、残していた朝食を食べ始めた。
「続いてのニュースです。ユダ・ジェネリク医学博士は、米、EU、日本の大学病院で行われていた、大規模なAS-DNAによるアトピー性皮膚炎の根本治療の第Ⅲ層試験による結果を発表しました。ユダ医学博士によると、2万人のアトピー患者に、この疾病を治療する為の遺伝子情報をコードしたAS-DNAを投与したところ、98%の患者が寛解したとのことです。完治したと結論付ける為には今後長年に渡って追跡調査をしていく必要がありますが、今回の発表によって、難病にのみ使われていたAS-DNAが、より身近になったのではないでしょうか。」
「メアリは、そのさ。悔しいとかって思わないの?」
「まさか、私達だって医療にはお世話になるのだからむしろ感謝してるわよ。それに、私が求めるものは私にとっての神秘であって、過去の魔術師がどうだったかなんて気にしても仕方無いわ。」
「ふーん。」
二人は黙々と食事を続け、ミナのトーストが焼き上がる頃にはメアリーは食事を終えていた。メアリーはトーストをミナの前に置き、さっと自分の食器を洗う。
「今日はお皿は自分で洗いなさい。私はお客様が来るまでに掃除を済ませるから。」
そう言ってメアリーは掃除機を抱えて玄関へと出て行った。残されたミナがボソボソとトーストを齧っていた。
午前10時を回った頃、メアリーの家を三十路程の女性が訪れた。
「どうぞ、お入りなさって。」
「失礼します。今日はお世話になります。」
メアリーは客人をリビングに案内する。
「今日はよろしくお願いします。研究科のデボラ・ポーターと申します。」
「私はメアリー・フェアウッド。メアリーとお呼びください。こちらこそ、研究科にはいつもお世話になっておりますわ。"ハデスのザクロ"や"ラーの右目の護符"の効果には目を見張りましたわ。」
「ザクロの方はうちの研究室のですね。役に立ったようで何よりです。」
簡単な挨拶を交わした後、デボラの方から本題を切り出した。
「来週月曜日から少し実家に帰省することになりました。まあ、毎年婚活の為に呼び戻されていますが。今年もそれで呼ばれているのですが、実家で曽祖父の遺言が見つかりまして。」
デボラは両親から聞いた内容を簡単に説明した。
「つまり、実家に隠し部屋があるかもということですわね?」
「実家と言っても曽祖父が残した邸宅のことでして、今は誰も住んでいません。ヴィクトリア様式の建築でして、州の文化財になっております。普段は資料館として使われております。」
「文化財にガサ入れしてもいいのかしら?」
「管理者は父です。その父が大丈夫と言うのですからいいのでしょう。」
「そ、そうですの。それじゃあ、詳しい遺書の内容は分かります?」
ガバガバな管理体制に苦笑いしながらメアリーが尋ねた。
「余り公にしたくないとのことで、まだ私も知りません。しかし、意味不明な数列が書いてあると聞きました。」
「取り敢えず行って見てみましょう。ミナ!降りていらっしゃい。」
メアリーが2階の自室にいるミナを呼ぶと、すぐにミナが階段を駆け降り、リビングに入ってきた。
「こちらが私と同居しているミナです。ミナ、こちらが今回の依頼人でWSNCC研究科のデボラさんよ。」
「こんにちは。」
「こんにちは。時々ロビーで見かけるお嬢さんだよね?」
ミナは挨拶を交わした後、メアリーの横に座った。
「今回はデボラさんの実家のお屋敷を調査することになったの。来週の月曜日に同行することになるけど、大丈夫?」
「うん。私はいつでもオーケー。」
「では今から本部に連絡して飛行機をチャーターしてもらいます。実家はどちらに?」
「はい、バージニア州レキシントンにあります。ロアノーク空港で待ち合わせということでいいですか?」
「ロアノーク空港ですわね。」
メアリーは一時退室し、本部に飛行機をチャーターするよう頼むため電話を掛ける。
「お屋敷って言ってたけど、やっぱりデボラさんのひいお爺さんの家って大きいの?」
「そうだね。私が小さい頃はあの家に住めたらなぁ、なんて夢見ていたくらい大きくて豪華だよ。」
「それじゃあ、もしかしたら地下に迷宮があって、その奥にはお宝があるのかもね。」
ミナはデボラの回答に興奮して、机に身を乗り上げてながら言った。
「め、迷宮?」
「うん。昔の大きい屋敷の主は、自分の屋敷の地下にダンジョンって迷宮を作ったんだよ。ダンジョンには数々の罠とか怪物とかを配置して、冒険者を迎え撃つんだ。それを乗り越えられた選ばれし勇者だけが財宝を手にするんだよ。」
「そ、そうなんだね。」
デボラは目を輝かせたミナのマシンガントークに困惑しながら反応する。すると、扉が開いて電話を終えたメアリーが戻ってきた。
「ダンジョンについて勘違いしているようね。それはミナが好きなゲームの"ダンジョン"でしょ。本来のダンジョンってのは中世の城にある、文字通り最後の砦のことよ。城郭の中でも最も堅牢な建物の地下に作られて、戦時は砦、平時は地下牢として使われるのが一般的な場所なの。近世の建物にあるとは考えられないわ。」
「むぅメアリ、夢が無い。」
その後、世間話をして正午に差し掛かる頃、デボラは友人と約束があると言ったので、そこで会合はお開きになった。
翌週の月曜日、メアリーとミナはロアノーク空港でデボラと合流し、タクシーでデボラの実家へと向かっていた。
「バージニアのレキシントンはあまり高い建物が見当たらないですわね。」
「いい景観ですよね。ボストンに来た頃は全然違う環境からホームシックになりました。」
「そういえば、メアリの実家はどんなところなの?」
「メアリーさんの発音や話し方からするとイギリス出身ですよね。それも上流階級の。」
二人の質問にメアリーは悩ましげな表情を浮かべる。
「ミナにも言ってなかったわね。詳しくは言えないけど、私の過ごした家は静かな場所でしたわ。心地よい場所だけど、退屈な場所でもありましたわね。」
メアリーの哀愁を誘う雰囲気に、思わず他の二人も黙ってしまう。メアリーはそれに気付いてなんとか取り繕おうとするも、話がそこまで盛り上がることはなかった。それから20分くらい経った頃、タクシーはある豪邸の前に止まった。他の家の10倍はあろう広大な庭には色とりどりの花が咲き、噴き上げる噴水は夏の暑さを和らげている。奥に立つ豪邸はコンクリート造りの無難なモダニズム建築である。だが、多用された水平連続窓や、平面な壁に艶を出す純白の塗料、屋上の縁に植えられた数々の植物は、見る者に機能的な美を感じさせる。敷地は防犯の為高い金属フェンスで囲まれていて、閉ざされた正門には分かりやすく監視カメラが取り付けられていた。
「おっきい。ここがデボラさんの家?」
「そうですよ。あ、メアリーさん!お金は私が払いますので。」
代金を支払おうとするメアリーを制し、デボラが運転手にクレジットカードを提示する。メアリーは抵抗しても無駄だと悟り、感謝の言葉をかけ、ミナと共に先に下車した。デボラが手続きを終えて下車すると、正門傍に向かいインターホンを押した。
「デボラです。ただいま帰りました。」
それから2分程経つと壮年の女性が屋敷から出てきて、早歩きで正門へと向かってきた。
「お母さん、ただいま。」
「おかえりなさい、デボラ。そしてあなた方がデボラの職場仲間ですね。どうぞ上がってください。」
正門を開きながら、デボラの母はそう言う。
「初めまして。お世話になります、ミセスポーター。メアリーと申します。」
「ミナです。よろしくお願いします。」
メアリーはデボラに続いて敷地へと入る際、ポーター夫人に恭しく挨拶をする。それに倣ってミナも礼儀正しく挨拶した。
「いえいえ、むしろこちらがお世話になります。さて、堅苦しいのはやめて取り敢えず入りましょう。」
ポーター夫人に促され、メアリー達は屋敷に入った。エントランスの空間だけでも日本の一般的な一軒家程の面積がある。内装は一般的な洋館のエントランスを現代風にアレンジした感じであり、壁際には高価そうな壺や前衛的な彫刻などが置かれている。二階への螺旋階段もエントランスの奥に設置されていて、二階のバルコニーへと続いている。一階は左右には3つずつ小さな片開き扉があり、奥には一つの大きな両開き扉が取り付けられている。その内、左手前のドアが開いて壮年の紳士が使用人達と共に出てきた。
「おかえりなさい、娘よ。」
「お父さん、元気そうでよかった。」
「デビーも元気そうで。」
互いに抱擁を交わした後、デボラの父ロナルドがメアリーに声をかける。
「あなたが娘の言っていたメアリーさんですよね。我が家の為に態々ありがとうございます。本当にあるのかも分からないのであまり力まずにお願いします。」
「はい、できる限りのことはします。それで、件の遺言について教えて欲しいのですが。」
「それは明日にしましょう。今日はデボラと貴女方が来るとのことでいつもより豪華なディナーを用意しております。準備ができ次第お呼びしますので、まずはお部屋に。」
ロナルドは使用人に目配せすると、2人の女性使用人がメアリー達に近付いてきた。
「お荷物をお預かりしてもよろしいですか?」
「ええ、お願いします。」
「お預かりします。では、お部屋までご案内します。」
「デボラも荷物を自分の部屋に置いてきなさい。」
片方がメアリーとミナの、もう片方がデボラの荷物を持って二階へと運ぶ。メアリー達もそれに続いて二階に上がる。
「私の部屋はここですので何かあったら遠慮なく来てください。では。」
デボラは荷物を受け取って自室へと入っていった。その二つ奥の部屋の前で使用人が止まり、扉を開けた。
「こちらの客室です。困ったことがあれば直接、或いは内線でロナルド様に言って頂ければすぐに伺います。今日は20時半、明日以降は19時には帰りますので、それ以降は申し訳ありませんがご対応できません。」
「ええ、分かりました。」
使用人は荷物と部屋の鍵を渡し、一礼して立ち去った。メアリー達は部屋に入り、荷物を整理してくつろぎながら、ディナーに呼ばれるまでゆったりと過ごした。
18時過ぎ、使用人に案内されて会食用の広間へと案内された。部屋の広さの割に、使用人合わせて8人しか入っていないため広く感じさせる空間だ。軽く挨拶を交わした後、次々と運ばれてくるコース料理を順に食べていき、デザートを食べた後に大人にはワイン、子供にはジュースが配られて談話が始まった。ワインを一口飲んだロナルドがまず口を開いた。
「メアリーさんがいますので、軽く自己紹介を。私はロナルド・ポーター。代々続く運送会社の代表取締役会長をやっております。そして、曽祖父の残した邸宅の管理人も勤めております。」
「私は妻のクリスタベルです。夫の補佐をしてます。邸宅については実務は主に私が預かってます。」
「それでは私も。私はメアリー・フェアウッド。デボラさんと同じWSNCCに勤めています。」
「ミナです。苗字はウラナカ。メアリーの相棒です。」
どちらとも面識のあったデボラ以外が互いに自己紹介をした。
「今日はくつろいで欲しかったのでお見せしませんでしたが、例の遺書を見たいのでしたら今から取ってきますよ。」
「いえ、お心遣いに甘えさせて今日は仕事から離れさせていただきますわ。デボラさんも折角実家に帰ったのですし。」
メアリーとデボラが顔を見合わせて微笑む。それを見たロナルドがメアリーに聞く。
「娘は職場ではどのような感じでしょうか?」
「生憎、部門が違うので普段は顔をあまり合わせないのです。しかし、娘さんの研究室の発明品は凄いです。私も良くお世話になっておりますわ。」
「国家機密もあるのでとても聞き辛かったです。なのでそれを聞けて私も誇らしいです。」
メアリーの答えを聞いて、ロナルドが満足そうに頷く。しかしメアリーには何故かデボラの表情が沈んだ気がした。
「ミナさんがメアリーさんの相方というのは本当ですか?」
次いでクリスタベルが尋ねる。
「うん。」
「ええ、そうですわよ。頼りになる相棒です。」
「ミナさんは平日にもWSNCCに顔を出してますが、学校なんかは行ってないのですか?」
普段のミナを思い出したデボラが聞いた。
「家庭教師が来てます。」
「ミナが言った通り、家庭教師が来たり、オンライン授業をしたりと人並みの教育はしておりますわ。」
その後も談話は深夜まで続いた。
次の日、皆で朝食を取った後、ロナルド、デボラに連れられて、メアリー達はロナルドの書斎へとやってきた。
「そちらにおかけください。デボラもそこに座るといい。」
ロナルドは、メアリー達を来客用のソファーに座るよう促し、自身のデスクに向かい、鍵の掛かった引き出しを開く。
「これが例の遺書です。邸宅にある書庫の蔵書を調査している際偶々発見しました。」
ロナルドは古びた2枚の書簡を取り出して、メアリー達の対面のソファーに座り、それらを机の上に置いた。
「『隠し部屋を用意した。信頼できる魔術師を頼るといい。』ですか。彼の友人に魔術師がいたのでしょうか。」
「友人にいたかは分かりませんが、小さい頃祖父はこの辺で有名な魔術師だったと聞きました。ほら話だと思っていましたが、まさか。」
メアリーの疑問にロナルドが苦笑いしながら答える。
「魔術師にしては技術を伝えようという意欲がないですわね。彼が本当に魔術師なのかは置いておきましょう。本当に隠し部屋があるのなら真偽が分かるでしょう。で、問題の数列がこちらの紙ですわね。」
メアリーが次に手に取った書簡には法則性のない数列が書かれていた。
『・25 241 26 410 474 91 26 60 81 65 56 501 26 100 95 501 213 167 74
・25 401 20 100 100 940 506 449 486 401 1101 940
・257 26 376 925 304 513 170 355 60 107 100 647 47 25 241 338 120 152
・317 355 31 345 942 257 56 23 676 1103
・60 210 26 26 692 501 311 738 685 304 799 206 26 45
・26 133 100 50 1101 940 26 100 610 106 57 1048 288 545 52 1101 940
・115 299 490 248 206 26 45 501 31 20 71 182 942 770 621 80 80 475
・30 601 741 406 368 401 120 115 53 248 208 537
・257 26 31 345 64 514 100 955 31 808 100 1101 940 356 808
・446 50 228 1103 920 268 355 317 100 87 74 228 398 501 209 823 56 228 52』
5分ほどメアリーは繰り返し数列を読み返した。そして自身の籠った声で言い放つ。
「これは恐らく聖書の記述でしょう。」
「この数列がですか?一応旧約聖書、新約聖書は読んだことがありますが、数字だけの節なんて覚えてません。」
「メアリーさん。やはりゲマトリアですか?」
何も分かっていない父親とは違い、何か心当たりのあったデボラがメアリーに聴く。
「はい。これはゲマトリアの一つ、ミスパル・ガドル法によって聖書の記述を数字に変換したものです。」
ゲマトリアというのは、文字はそれぞれ数価を持っているという数秘術思想に基づく手法だ。例えばヘブル文字のא(アレフ)は1、ב(ベート)は2と当てはめられる。ここで使われているミスパル・ガドル法は最も一般的なゲマトリアであり、通常のヘブル文字に加えて語末系にも数価を付与したものである。
「本来のゲマトリアなら、文全てを足し合わせ、それと等価な文に置き換えるのですが、ここでら単語ごとに足し合わせた数を並べていますわね。」
「でもメアリ。どうして聖書の記述だってわかったの?」
「そうですよ。私がゲマトリアの理解を諦めたのも、数字だけで分かるかぁって思ったのです。」
「まあ、ゲマトリアは何のヒントも無しに読み取れる物では無いですわね。私がそう思った理由は、繰り返し現れる26という数字ですわ。」
それを聞いて3人は数列を読み返す。
「本当だ。11個も26がある。」
「全てとは言いませんが、この26という数字は"י ה ו ה"の数価です。」
「うわー、なんだこれ。」
メアリーの書いたヘブル文字にミナがくびを傾げて嘆く。
「この"י ה ו ה"をアルファベットに直すとYHVH、つまりはユダヤ教の唯一神ヤーウェの意味です。」
「成る程、だから聖書だと。でも、聖書のどこなのかは分かるのですか?」
「推測ですが、これは旧約聖書の出エジプト記でしょう。聖書の記述だとしたら、十個箇条書きにされてることから十の災いに関するものじゃないかと。取り敢えずタブレットにヘブライ語の聖書がありますので確認してみましょう。」
メアリーはタブレットを操作して聖書の出エジプト記を開く。そこから十の災いに関する記述と数列を照らし合わせていく。
「はい、一つ目は7章17節の記述と合致しました。ナイル川の水を血に変える場面の最初の節です。」
確証を得たメアリーは一気に照合していく。
「終わりました。二つ目は8章2節、三つ目は同16節、四つ目以降はそれぞれ同21節、9章3節、同9節、同18節、10章4節、同21節、11章5節に合致します。これらは十の災いそれぞれの内容が初めて出てくる節です。」
「私にはよく分からないが、手掛かりは出エジプト記にあるということですか。十の災いは川を血にする、カエルを放つ、ぶよを放つ、あぶを放つ、家畜に疫病を流行らせる、腫れ物を流行らせる、雹が降る、イナゴを放つ、暗闇で覆う、そして最後にファラオの子を殺すでしたね。」
「何か思い当たることはあります?」
「あるような、無いような。取り敢えず屋敷に行きましょうか。」
「それがいいですわね。」
全員が頷いて同意を示す。
「では、車を手配します。出かける準備をお願いします。」
各々は自室に戻って支度をし、30分程して一行は目的の邸宅へと向かった。
邸宅はパーカー家から車で30分ほどの距離にあった。広大と言える現パーカー家だったが、それの倍以上は裕にある敷地で、そこに建つのは赤煉瓦の屋敷だ。入り口は中央にあるが、右端には時計台があり、左端にはそれを超える高さの塔があるため左右非対称な形となっている。また、正面からは分からないが邸宅はL字状になっており、時計塔が丁度その角に位置している。二次大戦直前の建築ということもあり、外見的には目立った劣化は見て取れない。
「本当におっきい。」
「私は10歳までこの屋敷で暮らしてましたが、友人と隠れん坊をした時、彼が迷って泣いていたのを覚えてます。」
「割と最近まで住んでいたんですわね。」
「40年も前の話ですよ。起工は1910年代末と聞きますし、背伸びして建てたのもあって1980年代には既に設備の面で不備だらけでした。」
ロナルドの説明を聞きながらエントランスに向かう。両開きのドアを開いて中に入ると横に受付カウンターがあり、そこの受付員がこんにちはと声をかけた。
「お疲れ様です。彼女達は娘とその友人です。」
本来は入館料を請求されるのだが、オーナーのロナルドとその連れということで顔パスだった。そこからロナルドは3人を一般公開されていない"STUFF ONLY"の部屋から地下室へと案内した。
「こちらのダイヤル錠なんですが。」
ロナルドは地下室の壁に付いているダイヤル錠を指差して言った。
「遺書を読んだ時から怪しいと思っていたんですが、十の災いのことを聞き確信しました。これは10桁の暗証番号で開くのではないでしょうか。」
よく見ると、ダイヤル錠を中心に1m四方の正方形を象る歪みがある。
「災いそれぞれに関する数字は思いつかないわね。でも、10の十乗もの組み合わせを試すわけにもいきませんわ。ロナルドさん、気になったのですが、この本はなんですの。」
メアリーは部屋の隅にある机の上にわざとらしく置かれた本を指して聞いた。そこまで厚くない本で、壁に刺さった杭と鎖で繋がれていた。
「それは昔の屋敷のアルバムです。繋がれていたので書庫に移しませんでした。確かにこれが地下にあるのは不自然ですし、何かヒントがあるかもしれませんね。」
「割と良心的な謎解きアトラクションですわね。」
「ごめんなさい。もしかしたら本当に曽祖父のお遊びかも。」
メアリーの皮肉にデボラが謝罪する。
「いえ、取り敢えずはアルバムを見てみましょう。」
メアリーはそんなデボラを宥め、アルバムを開く。正面から撮られた邸宅の白黒写真から始まり、敷地内のありとあらゆる場所の写真が載っていたら。中にはカラー写真も見受けられた。
「広間での家族写真ですね。これが祖父です。その隣が祖母で前にいる二人が両親です。」
ロナルドがメアリー達に写真を説明していく。メアリー達はそれを聞きながら、何か手がかりがないか写真を確認していく。5枚ページを巡った頃、ミナが何かに気付いた。
「この写真。」
「ん?これは庭の池で撮った写真ですね。」
「違う、池の中にいるのおたまじゃくしじゃない?」
水面に映る影を必死に指差しながら訴える。
「確かにそうかもしれませんね。」
「もしかしたら、蛙の!よく見つけたね、ミナちゃん。」
デボラに褒められたミナは得意そうな顔をする。引き続きアルバムを確認していくと、アブの止まった花壇、家畜小屋、バッタを捕まえたデボラの祖父の写真が候補として浮上した。
「今から私とデボラで手分けしてこの写真が撮られた場所を探してきましょう。しかし、他の6つが不明ですね。」
「それは考えておきます。あと、一応聞きますがこの謎々を作ったのが実は貴方だというオチは無いですよね?」
怪訝な顔でメアリーが聞く。
「はい、言いたいことは分かりますが誓って私ではありません。」
「そうですか。では捜索をお願いします。」
ロナルドとデボラの親子は地下室から出て行った。残ったメアリーとミナは残りの6つを考えるために再びアルバムを見返した。
「メアリ、聖書の方も確認してみない。」
「そうね。丸暗記してるわけじゃないし、見落としがあるかもしれないから開いてみるわ。」
メアリーはタブレットを取り出して聖書のファイルを開いた。
「えっと、杖で川の水を叩いたら血となった。杖で砂埃を叩いたらブヨになった。窯の煤を撒いたらそれが人や家畜について腫れ物となった。モーセが天に向かって杖を掲げると雹が降った。モーセが天に手を伸ばすとエジプトは暗闇に覆われた。パロの正妻から側室全ての長子を皆殺しにした。」
「窯なら写真あったよね。」
「砂埃なら、外のバスケットコートの写真でレフェリーをやっていたひいお爺様が目を覆っている写真がありましたわね。杖ならこの写真、ほら自由の女神の真似をしているお爺様の写真が。」
「無理矢理かもしれないけど、赤ちゃんを高い高いしてるのがそうじゃない?」
「無理矢理というなら、お爺様がご友人達と兵隊ごっこしていて、死体の振りをしているのも考えられますわね。」
他に考えられるものがないか探していると、ロナルドから電話がかかった。
「カエルの池を探したのですが、ビンゴです。立て札の裏にRと彫られていました。」
「R?数字ではなくて?」
メアリーは手掛かりが見つかったということに安堵しつつも、アルファベットが見つかったということが引っ掛かり、ダイヤルを見る。ダイヤルはやはり0〜9の数字で構成されており、アルファベットはない。
「ダイヤルは数字ですわね。うーん、これも何かの暗号かしら。取り敢えず他をお願いします。あと、他の災厄に関してもそれらしき写真が見つかりました。なので写真を撮って送りますので、この場所もお願いします。」
メアリーは通話を終えて写真を送る。送信が終わった頃にデボラから電話がかかる。
「花壇の立て札にNと彫られていました。これがもしかして。」
やはりアルファベットが見つかったので、メアリーはロナルドに言ったことと同じような事を伝えて通話を終える。
「それじゃあ、私達も厨房を見に行きましょうか。その後にリビングと工房に。」
メアリーはアルバムを閉じて、ミナと共に地下室を後にした。
メアリー達はロビーの受付員に各部屋の位置を聞き、まずは厨房へとやってきた。
「あった。あれが写真にあった窯じゃない?」
ミナは部屋の隅にある巨大な石窯を指した。メアリーは写真と見比べてから、「そうね」と頷き近寄って調べ始めた。
「外には立て札があったらしいけど、流石に室内には無いわね。」
まずメアリーは周囲を確認し、次に石窯の中を調べ始めたが、それらしきものは見つからない。
「メアリ、これじゃない?」
すると、窯と壁の狭い隙間に入り込んでいたミナがメアリーを呼んだ。
「ごめんなさい。あなたが入っていると私が見れないわ。それに、私じゃあ狭すぎるしなんと書いてあるか教えてくれる?」
「Eだって。」
「アルファベットが10個あるってので間違いなさそうね。」
厨房を後にした二人は次にリビングに向かった。
「シャンデリアにスクリーン、壁の絵画と。この部屋で間違いないわね。」
このリビングはデボラの曽祖父が幼い頃の祖父を高い高いしている写真の場所だ。
「この壺かな。無いなぁ。」
「絵画の裏も無いわね。」
「やっぱりあれを災いの記述と重ねるのは無理があったのかしら。」
どこを探しても見つからないので、諦めて部屋を出ようとドアに向かった。
「あら、他の部屋のドアには文字の刻まれたプレートなんてあったかしら。」
するとドアの内側にはOと刻まれた金属プレートが取り付けられていた。
「うーん、内側にあるのもおかしいよね。」
「0号室とも思ったけど、そんな番号つけるのかしら。」
「隣の部屋見てくる。」
ミナは隣の部屋のドアを確認して戻ってきた。
「やっぱりここだけ。隣はなかった。」
「全部確認してないから確信は持てないけど、一応メモしておきましょうか。」
最後に二人は工房へと向かった。
「あった、自由の女神像だ。」
ミナが部屋に入るや否や写真にあったミニチュアを見つけて駆け寄り、アルファベットがないか確認する。
「上には無いか。メアリ、下も確認したいから持ち上げて。」
「持ち上げるのは無理ですけど、これなら見れるでしょ。」
メアリーは慎重にミニチュアを傾け、ミナが下から除く。
「あった。えっと、B。」
メアリーはミニチュアを元に戻してメモを取る。
「取り敢えず地下室に戻りましょうか。そろそろ二人も戻ってくるでしょうし。」
「うん。」
二人は工房を出て、地下室へと戻っていった。
メアリー達が地下室に戻って間もなく、後の二人も地下室に戻ってきた。まず、4人は各々が見つけたアルファベットを照らし合わせた。
「一つ目のは結局分からず終いですか。」
「写真を何度も確認したのだけど、これだけは分からなかったわ。」
唯一、一つ目のナイル川の水を血にするという災いに関する写真だけが見つからなかった。しかし、他の9つが分かったら一つが不明でも答えは出るだろうということで、一つ目を敢えて探さないことにしたのだった。
「9つのアルファベットを取り敢えず順番に並べたら、rangebookになるわね。」
「book、捻りもなく英語ですか。」
「なんか、力尽きてない?」
パーカー親子が苦笑いする。
「もう捻りも無さそうだし、Orange bookが答えになりそうね。何か心当たりあります?」
「多分ですが、書庫にやたらとカラフルな本棚があるんですよ。三段程度の小さい本棚ですが、一冊一冊丁寧に仕切りが挟まれており、その奥には数字が刻まれてました。それじゃないでしょうか。」
「では見に行きましょうか。」
「待ってください。一応取った本は元の通りに戻してますが、全く同じ配置になっている保証はありません。」
「大丈夫よ、ほら。」
その横でミナがアルバムを開いて二人に見せる。ミナが指差した写真は過去に撮られた書庫のカラー写真だった。
「最初のゲマトリアと同じ出題者とは思えないわね。」
「本当に祖父の悪戯な気がしてきました。本当にごめんなさい。」
財宝を諦め始めたロナルドがメアリー達に謝る。
「いえ、まだ単なる遊びだと決まったわけではありません。取り敢えず書庫へ行きましょう。」
メアリーも財宝が隠されているとは1mmも思っていなかったが、引っかかることがあった。これがただの謎解きゲームだとしたら、ゲマトリアを最初に解かせる意味が分からないのだ。誰でも考えれば分かる後半の謎解きとは違い、ゲマトリアは知識がないと解くことはまず不可能だ。メアリーはそのギャップが気になっていたのだった。
書庫ではメアリーがタブレットで撮影した写真を確認しながら、かつてオレンジ色の背表紙の本があった場所を確認していった。
「FO8 N1 FI5。FOはfourth、Nはnineth、FIは fifthと順番を表しているのでは無いでしょうか。」
「そうみたいね。ピッタリ10冊ですし、これで間違いないでしょう。では、地下室に戻りましょう。」
再び地下室へと戻り、ダイヤルを数字通りに回す。
「開いたわ。」
ガチャりと音がしたので、そのまま扉を引いた。
「割と奥まで続いてますね。」
「本当にダンジョンかも!」
奥を覗いたデボラの言葉を聞き、ミナが楽しそうに言う。
「では行きましょうか。」
「閉じ込められたら困りますし、腰が心配なので私はここに残ります。」
ロナルドが残ると言ったので、3人で隠し部屋へと入っていく。ミナ以外は直立では通れないので、中腰で暗い通路を各々がスマホやタブレットの懐中電灯機能で照らしながら進む。
「これダンジョンだよね?」
「デボラさんが怖がってるのが分からない?」
「あの、罠とか大丈夫ですよね?」
ウキウキしているミナとは対照的にデボラは恐る恐る二人の後に付いていく。10m程進むとやっと直立できる空間に出た。
「キャッ!!」
「どうしたの?」
突如デボラが悲鳴を上げて腰を抜かす。デボラの指差す先には赤く染まった人型の何かが壁にもたれ掛かって地面に座っていた。メアリーはそれに近付いて確認する。
「ただのマネキンよ。この赤いのはペンキね。固まってる上結構剥げてるし、ずっと放置されてたのね。」
「な、なんだぁ。」
気を取り直して部屋の奥まで進む。すると、奥に何かが置かれているのが分かった。
「宝箱?」
「こんなイメージ通りの宝箱があるものかしら。」
部屋の奥には1mくらいの大きさの、漫画によく出てくるようなビジュアルの宝箱が置かれていた。
「鍵は掛かってないわね。」
「待って、メアリ。ミミックかもしれない。」
「開いたわよ。」
意味不明なことを言い出すミナを無視してメアリーは箱を開ける。
「何かありました?」
「ええ、色々と入ってますわね。魔術ではなく奇術の道具が。」
箱の中にはシルクハットやステッキ、トランプなどマジックでよく使われる小道具が大量に入っていた。
「ん?奥に紙があるようね。」
メアリーは数枚の写真と、一枚の文字が書かれた手紙のようなものを取り出した。
「これ、デボラのひいおじいちゃんじゃない?」
「そうだね。なんだ、魔術師ってそういうことか。」
デボラはガッカリした声で呟く。デボラの持つ写真はレストランやホテルでマジックを披露する若い頃の曽祖父の写真だった。
「メアリーさん、ごめんなさい。本当に迷惑おかけしました。宝物なんてどこにも無いのに、こんな馬鹿げた謎解きに付き合わせてしまって。」
「確かに財宝はなかったけど、ひいお爺様に取っての宝物が見つかったじゃない。」
失望しつつ真剣に謝るデボラを見て、メアリーは困った様に言う。
「宝物って、ガラクタじゃないですか。学術的価値のないものばかり。」
「それはあなたに取ってのでしょ。あなたはひいお爺様に憧れて魔術の研究をしようと思ったのでしたわね。思っていたのと違ってガッカリするのは分かるけど、見なさい、観衆の喜ぶ表情を。そして、彼自身の生き生きとした姿を。これは誇るべき曽祖父の像ではないのかしら?」
メアリーの言葉にハッとしたデボラは、しんみりと写真を眺める。
「親愛なる我が子孫へ。私はかつて世界中で活躍するマジシャンを目指していた。人を笑顔にするのが好きで、それを天職とするのをどれ程夢見ていたことか。しかし、それは叶わなかった。私は挫折し、別の道を歩むことになった。それによって富を築き、道を変えたことが正しかったと自分に言い聞かせてきた。良い人生であったが、やはり私はマジシャンを諦めたことを後悔していたのだ。これを読む子孫よ。お前は迷っているのか?ならば好きなことを思い切ってやるという選択肢があるということを忘れるな。迷っていないのなら、お前の子や孫に言い聞かせてやってくれ。」
メアリーが手紙を読み上げる。デボラはそれを静かに聞き、読み終えた頃に顔を上げてメアリーの顔を見た。
「そうですね。ごめんなさいひいじいちゃん。でも、お陰で分かりました。メアリーさん、実は私、WSNCCを辞めようと思ってたのです。」
「急にどうしたの?」
「不思議ですね。曽祖父は私がここに今日来ることを分かっていたみたいです。WSNCCの研究課って思ったより経済的にも厳しく、研究漬けだから恋人もできないのです。だから、両親に心配させない為にも実家の経営を手伝いつつ、本気で婚活しようかと思っていたのですが。」
「割と知っていたりするかもね。それよりも家って割とブラックなのね...。」
メアリーはデボラに聞こえ無いくらいの声量で呟く。
「でも決めました!私はやりたいことがまだあります。結婚なんかよりももっと大切なんです。それを終わらせるまでは辞める訳には行けません。独身過労死ドンと来いです!」
「デボラ、過労死は良くない。」
突如スイッチの入ったデボラに二人は困惑しつつ、ミナが代表してツッコミを入れる。
「なんか、いい話で終わったけど蛇足な追伸がありますわ。聞きたい?」
「はい、勿論です。」
「追伸、ねえねえ?財宝隠されてると思ったんでしょ?残念、そんなものありませーん。パーカー家の謎解きゲーム、これにて終了です。次回作もありませーん。」
「メアリ、これ面白いの?」
「私には分かりませんわ。」
「本当に余分でしたね。」
「帰ろ?」
折角のいい盛り上がりも白けてしまったので、3人は静かに隠し部屋から出ていった。心なしか、部屋は哀愁に包まれていた。
デボラはまだ休暇の続く限り実家に残るのだが、メアリー達はそうも行かないので次の日にパーカー一家から別れを惜しまれつつも帰路についていた。その帰りの飛行機で...。
「メアリ、収穫なくて残念だったね。」
「そうでもないわよ。」
そう言ってメアリーはポーチから一通の手紙を取り出した。
「何この手紙?」
「私も驚いたわ。まさかあの箱に私宛の手紙が入っているなんて。」
「え!?」
ミナが驚いてメアリーの顔をまじまじと見つめる。メアリーの取り出した手紙は宝箱の中に入っていたものだった。その宛先は"我が曾孫へ"。差出人はアーサー・ハーワード・グレイマス。
「もしかしてこの人がメアリーのひいおじいちゃん?」
「ええ、私の曽祖父よ。」
メアリーは手紙を広げてミナに見せる。
『我が曾孫へ。名は分からぬがこの手紙を我が友に託した。これを読んでいるということは無事手に渡ったのだろう。パーカーとは二次大戦中に軍務で知り合った。戦後、私が退役しても彼との交友は続いているんだ。さて、それよりも私が何故手紙を残したのか気になっていることだろう。手紙を書いている今から遡って一年半前、ギリシャに行っていた。デルフォイの神託を受けてみたくてな。それで玄孫が誤った選択から一大事を引き起こす、それを止める為にパーカーに手紙を託せとの神託が下ったのだ。因みに暗号は魔術師のみ分かる物にしろとのことだから適当なゲマトリアを使って、後はパーカーに任せておいた。本題に戻ろう。いいな、迷いは捨てろ。お前の正義を貫け。そして、迷った時には手紙の裏を見ろ。では、達者でな。』
そして、裏にはDon't lose yourself. And do what you believe is right.と書かれていた。
『今は特に心当たりはないけど、今後は周りに気をつけた方が良さそうね。』
その手紙をメアリーはポーチに大切にしまった。
遅くなりました。申し訳ありません。1〜3話見返して伝奇小説なのにこれじゃあ推理小説じゃないかと思って急遽考えたシナリオです。割と無理矢理な感じもして自分でもベストな出来だとは思いません。修正できるところを思いつき次第修正するつもりですが、落ちは変えるつもりはないのでご安心ください。次回は今月中に投稿します。
3月24日 最後に重要な記述を忘れていましたので付け加えました。
5月8日 手紙を少し変えました。
5月14日 玄孫→曾孫の設定に変えました。
次回予告 ヴェントは急にフランスへと呼び戻された。ミュンヘン国際空港でジェラールらしき人物を見かけたとドイツ政府から連絡があったのだった。そして、ヴェントは新たな相棒と共にミュンヘンへと向かうのだった。※次回はメアリーとミナは登場しません。しかし、内容的に本編としました。