9. 6日目① 生活の改善。
娘にしたトーイラとネメを家へと連れ帰った翌々日、ミノリはきれいにしたばかりの庭に立っていた。
「さて……2人の母親となったからには今までのように行き当たりばったりの食生活は考え物だよねぇ。菜食のバランスを保つにはやっぱり野菜……となると畑かな。
あとお風呂もなんとかしないと。まだ夏だから川でもいいけどこれから寒くなっていく事を考えるとやっぱりお風呂を直した方がいいよね」
ゲームとしてこの世界をプレイしていた時は考えるはずもなかったのだが、この世界は既にミノリにとっての現実。衣食住という生活基盤をキチンと構築することが重要になっている。
さらに一昨日から二児の母となった為、今までのような腹が減ったから適当にモンスターを狩る、適当に川で水浴び、などというこの行き当たりばったりな生活を改める必要があった。
しかし畑づくりもお風呂づくりも全くしたことのない素人のミノリは当然ながらどうすればいいかわからず、一人でうーん……と悩んでいると……。
「おね……おかあさん、どしたの?」
まだお母さんと言いづらいのか言い間違えながらネメがやってきた。よそよそしかった昨日と比較すると、大分懐いてくれたようだ。
「あ、おはようネメ。ええとね、今畑とお風呂を作ろうとしていたんだけど、どうしたらいいのかなぁって考えていて……。どっちも作ったことないんだよね……」
たはは、と困った顔をしながらそうミノリがネメに答えると……。
「畑だったら私作れる。土魔法と植物魔法使えるから。あとお風呂もトーイラと私で作れると思う。ね、トーイラ」
「え?ネメとトーイラ魔法使えるの? ……って、あれ、トーイラも起きてたの?」
「うん。おはようママ」
ネメが呼びかけた方へミノリが振り返るといつの間にか起きてきたトーイラもやってきていたようだ。
「ネメは火の魔法使えるし、私は風と水の魔法が使えるからお風呂の材料があれば出来ると思うの」
トーイラはあっさりと答えた。
(6歳で既に魔法を習得している……それも複数なんてすごい!)
ミノリが一瞬感心したが……。
(……あれ、でもそんなに魔法が使えるのなら不吉な者として扱われる以上に町で重宝されるのでは……? 複数属性の魔法を使いこなせるのはこのゲームのメインキャラでも殆どいなかったはず……)
新たな疑問が浮かんでしまった。
すると、その表情から考えていることを察したのか、
「……キテタイハの町に生まれる双子は、生まれた時から色々な属性の魔法が使えるんだけどそれぞれ光と闇の魔法も使えるの。
あの町はそれを「光と闇の混沌」って呼んでいて、傍に置いたままにしてると災いを呼ぶからと嫌ってて、生まれちゃった子供は、6歳になった日に魔力を使うだけ使わせて魔力切れにさせてから、私たちみたいにこうして町を追い出しちゃうの」
と、トーイラは表情を消して、暗記させられたかのような言葉を暗唱するように流暢に応えた。
(……なるほど、ゲーム内では一切語られてなかったけど、町として二人を追い出したのはそういう事情があったんだ。
そして魔法が使えるはずなのにあの時、2人が魔物に抵抗できなかったのはそんな理由が……。でもやっぱりこんな幼い子を捨てるのは許せないな……。)
ミノリがもやもやした気分になっていると……。
「でもね、ママが私たちを拾って、ママになるって言ってくれたから、もうそんな事どうでもいいの」
さっきまでの無表情から一転、トーイラがミノリに笑いながら抱きついた。
「そうだよ、おね……おかあさん」
ネメもまた、嬉しそうにミノリに抱きついてきた。
そんな2人の笑顔を見てミノリは自分のしたことは間違ってなかったのか、良かった……。と心から安堵したのであった。
「だけどママ危なかったね。あそこの町で双子が追い出されるとどこからともなく光と闇それぞれの使いがやってきて、それぞれの巫女にするために連れ去っていくって言い伝えがあるからあと少し遅かったら私たち連れ去られてたよ。
確かに私たちがこの家に着いてから昨日いた場所の方から強い闇と光の反応がしたもの」
……トーイラが恐ろしいことを言った。
(間一髪すぎた……)
冷や汗でいっぱいになったミノリだったが、気持ちを切り替えて畑を作ることにした。
活動報告の方にミノリさんたちのキャラデザを追加しています。