83. 12年と11ヶ月目 肩もみ。
R15の範囲に入りそうな表現があります。苦手な方はご注意ください。
「うーん……流石にちょっと疲れたなぁ。目がしょぼしょぼする……」
ここ最近トーイラとネメの着ていた衣服にほつれや破れが目立ってきたので、朝ごはんの片付けや買い出し、そして家の掃除を娘たちに任せる代わりに今日は一日衣服を修繕することに決め、朝からずっと縫い物をしていたミノリ。
自分が縫ったり直したりした衣服よりも町で売っている既製品の方がいいのではと思い、新しい服を買おうかトーイラとネメに尋ねたのだが、2人ともとてもがっかりした顔を見せた為、2人が望むならとこの機会に全ての衣服を直そうとしたのだが意外と細かい作業の連続で少し疲れが出始めてきたようだ。
「それになんだか肩も凝ってきたかも。ちょっと腕回してみるかな……」
ずっと同じ姿勢での作業でもあった為、ためしにミノリが軽く腕を回してみるとポキポキと高い音が鳴った。
「……ママの肩、なんだかすごい音鳴ったね」
「あ、トーイラにも聞こえちゃってた? あはは、自分でもちょっと驚いちゃった」
自分の予想以上に大きな音が鳴ったことと、それをトーイラに聞かれてしまったことでミノリはちょっと恥ずかしそうに笑った。ちなみにネメとシャルは朝ごはんの片付けを終えた後買い出しに出かけていた為、現在家にいるのはトーイラとミノリの2人だけである。
「ねぇママ。ちょっと休憩した方いいんじゃない?」
「うん、そうしようかな」
トーイラの提案にミノリは頷き、持っていた服と針を一旦テーブルに置き大きく伸びをしていると…。
「細かい作業いっぱいだったからママ疲れてるでしょ? 私、ママに肩もみしてあげたいなー。」
トーイラからそんな申し出があった。ミノリにとってはなんとも嬉しい提案で早速その申し出を受ける事に。
「え、いいの? ありがとうトーイラ。それじゃお願いしようかな」
「はーい」
ミノリからお願いされたトーイラは立ち上がると、ウキウキとした様子でミノリが座っている椅子の背後へと回った。
「それじゃ肩もむねー」
「うん、お願い………ひゃっ!?」
しかしトーイラの手がミノリの肩をもみ始めたその瞬間、ミノリは自分の意思に反して体がビクッと反射してしまったのだ。
(しまった! もしかして私、肩を触られるの…弱い!?)
実はこの時、ミノリはおろかトーイラすらも気がついていなかったのだが、トーイラは武術の鍛錬をし続けていた結果、知らず知らずのうちに相手の急所を的確に狙うようになっており、ミノリの肩の中で特に弱い部分を無意識のうちに真っ先に触っていたのだ。
肩が弱いことにミノリが気づいた時には既に手遅れ、トーイラはその事に気づくこともなくもみ続ける。それでもトーイラの好意を無碍にしたくないと我慢するミノリだったが…。
「あっ、ひぅっ……」
「……マ、ママ? 今の声どうしたの?」
結局我慢しきれなかったミノリの口から変な声が出た。それは明らかに感じてしまっているような声で、そんなミノリの艶っぽい声が2人しかいない居間に響いた為、思わずトーイラまで驚いたような声を上げた。
「う……ごめんトーイラ。なんだか変な声出ちゃった……」
まさか肩もみでそんな声が出るとは思ってもみなかったミノリは、そんな恥ずかしい声が出てしまったことをトーイラに詫びた。
「えっと……続けるね?」
「うん、おねが……あっ、やっ……ぁんっ!」
「……ママ」
「……はい」
再びトーイラがミノリの肩を揉み出すと、それに呼応するかのように、喘いだかのような声が再びミノリの口から漏れ出た。そんな声を出してしまった事に赤面するミノリと、その声を聞いて同じく赤面するトーイラ。
既にトーイラも手を止めてしまっている。そして、この気まずいような雰囲気が漂う居間で、暫しの沈黙の後、それを破るようにトーイラが口を開いた。
「……えっとね、ママ……声がえっちすぎ……」
「ごめん……」
次からは肩もみじゃなくて、肩たたきにしてもらおうと思ったミノリであった。
その後、ミノリの色っぽい声によって昂ぶってしまった気持ちを鎮めたくなったトーイラは、出かけるとミノリに伝えて狩り場に一人向かうとその気持ちを発散させるべくただひたすらにそこらにいたモンスターを手当たり次第ボコボコにしていた。
「あーダメダメ! ママのあんな声聞いちゃったら気持ちを抑えきれなくなって今度こそママを襲っちゃう!! 落ち着け私ーー!!!」
そんなトーイラの心からの叫びは、幸い誰にも聞かれることはなかった。




