8. 5日目 遠慮しがちな2人。
昨日、町から追放されたネメとトーイラを拾い、2人の親になるとミノリが誓った翌日。
頑張って母親らしくなろうとしたミノリだったが、どうも少し気になっている事があった。それは……あまりにも2人が素直で、聞き分けが良すぎる事。
転生前は自分の妹や近所の子供達のお世話をするほどに子供好きだったから感じるのだが、今の2人ぐらいの年齢の子供ならもう少しわがままを言ったりイタズラをしたりするものなのだが、2人にはそういった素振りが全く見られない。
「町でひどい目に遭わされてきた事が影響してる……のかなぁこれは」
キテタイハの町では奴隷のように扱われて、さらに6歳になったと同時に町から追放された2人。
2人の懐きようから、心を開いてきているのはわかるのだが、まだ完全にとは言えず、どこかでよそよそしさもミノリには感じられた。
まるで、ここで何かしでかしてしまったらまた捨てられてしまう。そんな不安を持っているかのように。
「うーん……2人にもっと信用してもらって、もっと甘えたりしてもらいたいな……」
その夜、2人と向かいになって、ミノリは問いかけた。
「2人とも、もしかして私に遠慮してる……?」
そうミノリが聞いた途端、ビクッと体を震わせる2人。まるで、何か失敗したんじゃないかという、そんな反応。
「あ、落ち着いて2人とも。怒ったりするわけじゃないよ。ただ気になっただけ」
2人を落ち着かせるように、優しく語りかけるミノリ。
「うん、昨日の今日でまだ慣れてないし、完全に私を信用しきれていないってのもあると思うよ。第一私モンスターだもん、仕方ないと思うんだ。私も母親らしくなれるようにもっと頑張るよ」
その言葉を黙って聞いている2人。
「大丈夫、私は2人の母親になるって決めたんだもの。2人を捨てるはずがないよ。だから、もっとわがままを言ったり、甘えたりしてくれていいんだよ。それが親子なんだもの。ね?」
ミノリはそう言いながら立ち上がると、2人の頭を優しくなでた。その行動に、一瞬驚いたような顔をした2人だったが……。
泣きながら、ミノリに向かって笑顔を向けた。それは、ミノリが初めて見ることの出来た2人の笑顔。
そして……。
「うん」
小さく聞こえた2人の言葉。この時、ミノリはようやく親子としてのスタートラインを切る事ができたと感じたのだった。
「よし、それじゃそろそろ寝ようか」
そう言って、ミノリが寝る準備を始めると……。
「マ……ママ、お願いがあるの……」
トーイラの突然の初おねだりである。さらに初めて「ママ」と呼んでくれた。その予想外のおねだりに思わず振り返るミノリ。
「昨日、ママがはじっこで寝てたけど……ママを真ん中にして寝たいの…………」
「ネメも……おね……おかあさんとそうしたい」
あまりにもかわいらしい2人のおねだりに思わず叫びたくなるミノリだったが、突然興奮したら2人が怯えるのは間違いないのでなんとか気持ちを鎮めた。
(……というか、ネメの初「おかあさん」呼び、まだ言い慣れていないせいで噛んじゃったね。でも、それもかわいいよね)
その後、2人のおねだりに二つ返事で了解したミノリは、ミノリを真ん中にして3人一緒に寝る事に。
「ほら、おいで。2人とも」
そのミノリの言葉を受けて、とてとてと布団の中へと入ってきた2人。そして、ミノリの両サイドに来たのを確認すると、ミノリは2人を抱き寄せた。
そのミノリの行動に驚いて、思わずあたふたとする2人だったが、背中を優しくぽんぽんと叩くそのミノリの仕草で安心したのか、そのまま静かに寝入ってしまった。
(……これなら、きっと大丈夫かな。明日にはもっと心を開いてくれるはず……。)
そんな事を考えていたミノリだったが、直に両サイドから伝わってくる子供特有の高い体温。
その温かさに目がトロンとしてきて、いつしかミノリも深い眠りに入るのであった。