番外編1-2. 知ってるだけの私と初めて会った彼女。【黒ネメ視点】
ネメが夢で出会った「闇の巫女ネメ」のその後の話です。
本日2更新目で、前回の続きとなりますので、未読の方は先にそちらをお読みください。
「…………結局叶わなかったね」
もう何千、何万回かもわからない回数、私に生まれ直し続けてきた私だったけれど、今回はいつもと違い、過去の記憶を引き継いでいた。
初めてのことに戸惑いながらも、私は心のどこかで思ってしまっていた。
生まれ直す際に出会った、別の世界の私のように、私にも今度こそ救いの手が……と。
だからつい、トーイラにもその事を話してしまっていた。私たちは町から追放された後、『ミノリ』という名前で褐色肌のモンスターのお姉さんに助けられるかもしれない、と。
私と違って記憶は受け継がれていないようだったトーイラは半信半疑だったけど、一応は心に留めてくれていたようだった。
でも、結局私たちに救いの手は差し伸べられず、私たちはまた引き離されてしまった。
どこかもわからないこの場所に幽閉され、気がつけば6年の月日が経過して、私は12歳になっていた。
今日もまた、私は闇の魔力増幅のために色々なことをさせられている。何処からかさらってきた魔力のある人間やモンスターから魔力を奪ったり、より強力な闇魔法を使うように訓練をさせられたり。そのせいか少しずつ私自身もモンスター化していってるようで段々と私の感情も乏しくなっていく。
だけど、まだ私は人間でいられた。きっとキテタイハの町を滅ぼそうとした瞬間に、私は私じゃ無くなる。
「おい巫女、今日は終わりだ。とっとと部屋に戻れ」
「……はい」
今日の訓練を終え、見張りのモンスターたちに連れられて隔離されている部屋に戻ろうとしたその時だった。
「げぁっ!」
見張りのモンスターが急に地面に倒れたのだ。絶命したらしいそのモンスターの頭には五本の……矢。
「え?」
驚いた私が辺りを見回すと……、物陰から誰かがこちらを覗き込んでいるのに気がついた。
「大丈夫だった? えっと……ネメ」
私の視線に気づいて姿を現したのは……、生まれ直す時にたまたま見る事ができた別世界で、私じゃないネメと暮らしている弓使いの女性型モンスターと瓜二つの人物だった。
「み……ミノリ……さん?」
「私の名前を知ってるって事は……やっぱりあなたがネメでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「そっか、……遅れてごめん。迎えに来たよ」
信じられなかった。だって、彼女はこの世界では私との接点が何一つ無い。それなのに、彼女は何故かこうして私を助けに来たのだ。
その上彼女はこのあたりにいるモンスターと比べると弱い。途中で死んでしまう可能性も非常に高かったはずなのに6年もかけてそんな無謀な事までして私を……何で……。
「どうして…………どうして来たのよ!! あなたとはこの世界では私と関わりなんて全くないじゃないし、あなたとても弱いじゃないの!! それなのになんであなたは私を助けに来たのよ!!」
どうしてだろう。私は助けに来てくれた彼女に対して怒鳴っていた。確かに私は誰かに救いの手を差し伸べてもらいたかった。そして別世界のネメのように幸せになりたかった。
でもそれの為にこんな無謀なことをしてもらいたかったわけじゃない。
しかし、助けに来てくれた彼女も、これが無謀だったことはわかっていたようだ。
「そんなの、私が一番わかっているよ! ここまで来るのだって怖かったし、死にたくないって気持ちももちろんあった! だけど私の心が訴え続けてたの! あなたを……あなたたちを救って一緒にまた暮らしたいって!! だから私はここまで来たの!」
「バカ……バカでしょあなた……。なんでそんな……」
恐怖心を抑えて助けに来てくれた彼女。面識すら無いのに助けに来てくれた彼女。そして、こっちの世界でも家族になりたいと言ってくれた彼女。
私はもうわけがわからないのに涙が止めどなく溢れていた。
「うん、バカだよ。だって私モンスターだもん……。あなたたちと家族になりたい心のままにあなたを迎えに来たバカなモンスターよ」
彼女はそう言いながら、うずくまって泣いている私を抱きしめてくれた。それは私が何千、何万回と繰り返した人生の中で初めて味わった温もりだった。やがて、私から離れた彼女は、立ち上がりながら私に手を伸ばしていた。
「ほら、早く行かないと追っ手が来ちゃうよ。急いでここから抜け出して、次はトーイラを助けに行かなくちゃ。
そしてトーイラも救い出せたなら、……別の世界の私たちと違ってかなり不格好なスタートになるけれど……私たちも始めようよ。…………私たちなりの家族を」
「あ…………うん、おか…………さん」
私は、別の世界の私のように、彼女をおかあさんと呼んで彼女の手を取った。しかし、どうしてだか私は彼女をおかあさんと呼ぶのをためらってしまった。そして、彼女もまた、ムズかゆそうな顔をしている。
「……呼び慣れないだろうからいいよ呼び捨てで。見た目だと私もあなたも大して変わらないしね。私たちの関係はそれでいいんじゃないかな」
「う、うん。……ミノリ」
微笑みながらそういった彼女……ミノリの手を取ると彼女を初めて名前で呼んだ。その時だった。どうしてだか私の胸は早鐘を打つように高鳴ってしまっていた。
「……さてと、今回は私がモンスターだったから他のモンスターたちに比較的怪しまれずに忍び込めて、なんとかネメを迎えに来れたけど…………次は大変よ。
場合によっては完全に敵陣へと乗り込まないといけないわけだから」
「わかってる……でも、折角手にしたチャンス、諦めたくない」
お互いに一度見つめ合った私たちは、手を繋いだままダンジョンの出口へと駆け出していた。私たちの背後からは私が逃げ出したことに気づいた闇の使いやほかのモンスターたちの騒ぐ声が聞こえたけれど知ったことじゃない。
私にはこのダンジョンの出口の先にある最後の希望という名の光しか見えていないのだから。
次は11時更新予定で、それをもって番外編完結となります。
そして12時には本編後のミノリさんのお話を更新する予定です。(こちらは1日1更新です)




