7. 4日目③ 母親宣言。
そのミノリの言葉と行動に2人が驚いたような表情になった。
「……いいの?」
「でも私たち、多分おねえさんを不幸な目にするよ……」
「私はそんな迷信信じないから大丈夫だよ。それに既に人生詰んでるようなものだからせめて2人だけでも幸せにしたい!」
笑顔で2人に向き合うとそのまま抱きしめたミノリ。抱きしめられた2人はさらに驚いた表情をした。
そして、生まれてきてから今まで誰からも与えてもらえなかった人の優しさに6歳になって漸く触れられ、嬉しさのあまりそのままミノリの体に顔を埋めると小さく嗚咽を洩らし始めた。
ミノリは2人の背中をさすると優しい声で、
「お母さんとしては新米な上にモンスターの私だけど……よろしくね、2人とも」
と、語りかけるのであった。
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その後、2人が泣き止むのを見計らってから森にある家へ。3人で手を繋ぎながら、
「そういえば2人はなんてお名前なの?ちなみに私はミノリだよ」
自己紹介がてら、ミノリは2人に尋ねた。
「トーイラだよ」
先に金髪の方の女の子が答えた。
「わたしネメ」
続いて黒髪の女の子も続けて答えた。
2人の名前を聞いた途端、『あれっ?』という反応をしたミノリ。
(ん?確かその名前はゲームに出てくるキャラにいたような……。)
ミノリはその名前に聞き覚えがあったのだ。
(確か生き別れの双子キャラで、それぞれ光と闇の巫女……。光の巫女であるトーイラの方は、最初心を許してくれないけど最終的には主人公と打ち解け、主人公へ祝福と加護を授けると同時に一時的に仲間にもなるキャラ。
もう一方の闇の巫女であるネメの方は、ラスボスの魔力を増幅させる為の巫女で、ラスボスの配下にさらわれてからは人間に対する憎しみが強くなって、手始めに自分を追い出したキテタイハの町への復讐心で魔物を侵攻させて滅ぼすキャラだったような……。
そしてネメは、主人公と敵対して討ち取られちゃうのだけど自分の姉妹を手に掛けた事を悔やんだトーイラが後を追うように……。)
「どうしたのおねえさん……、固まって」
2人の名前を聞いて固まったから焦ったのだろう、まだおかあさんと呼ぶのが恥ずかしいのか、ミノリの事を「おねえさん」と呼んだネメが心配するようにミノリに尋ねた。
「あ、ううん、なんでもないよ?ごめんね、心配させちゃったかも」
ミノリは、ネメと同じ目線をになるようにしゃがんでからネメの頭をなでた。
(……なんてこった。せっかくお母さんになるって誓ったのに2人には悲しい結末しかないなんて……。いいや! そんな事させない! そんな辛い目に、この2人には遭わせたくない!
確か2人が死んでしまうのは15歳だからあと9年……。なんとしてでも2人を幸せにするまでは私は死ねない! せめて2人を幸せにしてからこの詰み状態の二度目の人生を終えてやる!)
固く決心したミノリなのであった。
(でも正直キテタイハの町は滅びようが滅びまいがどうでもいい!)
すっかりミノリの中でキテタイハの町の好感度は地に落ちてしまったようである。
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そのまま2人を連れて森の中を歩き、ようやく家の前までたどり着いたミノリ。
「ここが私と一緒に2人が暮らす家だよ」
2人の方を振り返ってみると、何故か家の方は見ずに斜め上の方角を、まるでネコが何もない壁の方を見るかのように眺め、小声で何かを話している。
不思議に思ったミノリは、2人ともどうしたのかとつい尋ねた。
「「……あ、なんでもないよ」」
2人は声をそろえて答えた。疲れてボーッとしちゃったのかな、と深く考えないことにしたミノリ。
「さて、それじゃ私はご飯作るから、2人は川で水浴びをしてきてね。あとで新しい服渡すから」
「「はーい」」
返事をした2人はそのまま川の方へと直行していった。
その後ろ姿を眺めていたミノリは、ふと、ある事を思い出した。それは転生前に読んだこのゲームのインタビュー記事だ。
(そういえば、本当は2人とも最後まで仲間になる予定で作っていたけど、不具合が生じたからお蔵入りになって、結局トーイラが一時的に仲間になるだけになっちゃったんだよね。
……私もだけど、一度そういう風に設定されたのにボツになって運命変えられちゃうの、ゲーム開発者の掌の上で踊らされているみたいで切ないなぁ……。)
簡単に人生が変わってしまう今の状況に、なんだか悲しくなったミノリだった。
「……っと、いけない。まずは2人に合いそうな服を探さないと。それにご飯も作らなきゃ」
2人が水浴びを終える前にしなくちゃいけない事を思い出したミノリは、急いで家の方へと駆け出すのであった。
一方その頃、川へ水浴びに来た二人……。
「トーイラが言ってた事って本当だったんだ。さっきおねえさんが母親になってくれた瞬間から私にも見えるようになった」
「でしょ?……でもそれがなんなのか全然わかんないの」
「ほんとになんだろ。触れるわけじゃないから自分だけに見えるのかな」
「不思議だよね。本当に何なのかな……」
「「この視界に入る私たちの名前が書かれた変な透明な板」」
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──その夜、ミノリが2人を連れて森の中へ向かって暫くして、先程ミノリが2人に向かって母親になると宣言した場所へ、何者かが空から降り立ち、辺りを見回していた。
「オカシイ……確カニコノアタリニ強イ闇ノ気配ガアッタハズナノニ……。既ニ誰カニ先ヲ越サレタカ……」
その者は残念そうにそうつぶやくと再び夜の空へと飛び去っていった。更にそれから暫くして、同じ場所に光の柱が現れ、中から別の者が姿を現した。
「あらあら……おかしいですね。確かにここから強い光の力を感じたのに……。先に誰かに連れて行かれたのかしら……」
その者も先程の者と同様に、残念そうにつぶやくと柱の中に消えていくと、再びあたりは静寂に包まれた。
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