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68. 11年と11ヶ月目 大きかった背中。

 その日はネメがシャルに会いに行ったので、家にいるのはミノリとトーイラの2人だけだった。ミノリがそろそろお昼を作ろうかなと考えていると、トーイラが恥ずかしそうな顔をしながら、ミノリにあるお願いをしてきた。


「えっとねママ……。この年でこんなお願いするのは恥ずかしいだけど……できたらママに久しぶりにおんぶされたいな」

「え、おんぶ? んー……、構わないよ。けど私の方がもうちっちゃいからできなかったらごめんね」


 急に変わったお願いだなぁと思ったミノリだったが、トーイラの最初のおねだりもおんぶだったことを思い出したミノリ。きっとあの後も何度かお願いしたかったのだろうけど、ネメに見られたらと思うと恥ずかしくてできなくて、ネメが不在の今がチャンスだと思ったのだろう。


 先ほどミノリが口にしたように、今ではミノリの方が小さいし、なんだったら他人から見ればミノリが母親でなく妹にだって見える可能性まである。しかしそれでもトーイラはれっきとしたミノリの娘だ。そのためそんなお願いされたとあってはがんばるしかない。


「はい、いいよトーイラ」


 ミノリがトーイラの前に屈んでいると、ミノリの背中に重みが加わり始めた。


「よし……、んぐぅ……っ」


 体格差はあったが、それでもなんとか踏ん張りながらミノリは立ち上がり、無事にトーイラをおんぶする事に成功した。


「どうトーイラ? あんまり景色は変わらないと思うけど……」

「ううん、いいの」


 自分の方が小さいからと申し訳なさそうに話すミノリだったが、トーイラはそれ以上にミノリのおんぶされる事自体が大事だったようだ。


「あの時のママの背中、とても大きくて、あったかくて、ママの方が背は高かったから少しだけ世界が違って見えて……。今では確かに私の方が大きくなっちゃったけど、それでもあったかいのは変わらないし、ここが大好きな場所なの」

「……そっか」


 その言葉を聞いて、ミノリも笑みをこぼした。

 

「だからこれからも、私たちの……私の大切なママでいてね」

「うん、……トーイラも、これからも……私の大切な娘でいてね」


 そしてしばしの間、トーイラはミノリの背中で降りようとはせず、ミノリの背中の感触を懐かしむように頬をスリスリとするのであった。


 その時だった。閉まっていた玄関の扉が突然勢いよく開いた。


「ただい……!?」

「あ」


 ネメが帰ってきたのだ。そして部屋の中でミノリにおんぶされているトーイラを見ると、ものすごくショックを受けたような顔になった。


(あ、あれー……!? なんだかこの状況すごい既視感があるぞー!?)


 既視感も何もこの状況こそ、トーイラが最初にミノリにおんぶをお願いした時と完全に一致しているのだ。ということは次にネメが起こす行動も自然とミノリには予測できた。


「トーイラずるい。トーイラがおんぶなら私は抱っこ!」


 どうやらネメもトーイラと同じようにミノリにもう一度抱っこされたかったらしい。そしてあの時と同じようにネメは一直線にミノリの元へとやってきてミノリの体にしがみつくのであった。


「わ、ちょっと待ってネメ!もうおかあさん2人よりもちっちゃくて同時にはできないから順番で順b」



 *****



 流石にほぼ12年にも及ぶ歳月の変化は著しかった。6歳の頃とは比べ物にならないほどに成長したトーイラをおんぶするだけでも限界だったのに同じように成長したネメも同時に抱っことあってはミノリの体力が耐えきれることはできなかった。


「ぐげぇ……痛くて動けない……」

「「ごめんなさい……」」


 ミノリは背骨と腰をひどく痛め、数日間ベッドから動く事が出来なかったそうな。

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