6. 4日目② 救出。
あたりはもう陽が沈む頃合い、町から出て森の方とへ向かうミノリだったが気持ちはなかなか晴れない。
(人間からモンスターへと転生してしまった今、仕方ないとはいえ、心は前世の人間のままだから化け物のように扱われているのを知っちゃうとやっぱり堪えるものがあるなあ……)
普段は楽観的なミノリが珍しく落ち込みながら歩を進めていると、どこからか子供と思われる悲鳴が聞こえてきた。その声がする方へミノリが急ぎ向かうと、そこには町で見かけた姉妹と思われる小さな女の子たちがモンスターに襲われていた。
女の子たちを襲っているのはヤワニクウルフ。あれもウマミニクジルボアと同様に見た目の割に弱い部類で、倒した時にたまに落とす肉は名前の通り柔らかさに定評があり、回復量が大きく、さらに売ると高く買い取ってくれるのでゲームではいい金づるとして頻繁に倒されるモンスターである。
……が、いくらそんな金づるでも生身の小さな女の子では流石に敵うはずがない。
(……きっと助けても怖がられてしまうだろうな。でも助けないと一生後悔しそう……よし! 正体を明かしてでもあの子たちを助けよう!)
葛藤する間もなく矢を射るのに邪魔なローブを脱ぎ捨てたミノリは急いで駆け寄った。
「そこの2人、伏せて!!」
ミノリが叫ぶと、その声を聞いた2人がとっさに身をかがめた。よし、これならあの子たちに間違って当たることはない。そう確信したミノリは走りながらヤワニクウルフに向かって矢を放った。ヤワニクウルフは眉間を貫かれ、その場で絶命したようだ。
ミノリは無事女の子を助けることに成功したのだった。
「大丈夫? どこも怪我無い?」
ヤワニクウルフを倒したミノリは、女の子たちの側まで向かうと声を掛けた。
「う、うん……ありがと……おねえさん……」
黒髪の子がそうミノリに向かってお礼を言った。
(あ、あれ? モンスターとして認識されてない……?)
予想外の反応に目が点になったミノリだったが、金髪の女の子が次に口にした言葉は……。
「でもおねえさんもモンスターなんだよね……? なんでモンスターがモンスターを倒したの……? 共食いするの……?」
残念!やっぱりモンスターとして認識されていた! 心で涙を流しながらもミノリは……、
「違うよ、ただあなたたちを助けたかっただけ。あ、でもこのヤワニクウルフは結局私が食べるから結果的には共食いになっちゃうのかな。ほら、町の外は危ないから早く帰った方がいいよ」
そう言いながらこの場から去ることにしたのだが……何故か2人に服を掴まれた。
おや?と思ってミノリが振り返ると2人は暗い表情のまま、
「町にはもう帰れない……」
「私たち捨てられたの……」
ミノリは2人のその言葉に思わず耳を疑った。
「え? 捨てられたって……どういう事?」
思わずミノリは聞き返した。町の中で2人を見つけた時、かわいそうだとは思っていたが、流石に町の外へ捨てるという行為までは予想外だったのだ。
「キテタイハの町では双子は不吉な子なの」
「町の掟で双子は6歳になると外へ捨てるの。私たち今日で6歳になったから捨てられたの……」
(……ひどい。ただそれだけの理由で何の罪のない子を捨てるなんて……)
ただでさえ印象の悪い町の印象がさらに悪くなるミノリ。沸々とわき上がる怒りの感情を抑えながらミノリは尋ねた。
「それで、2人はこれからどうするの……?」
「わかんない」
「たぶんしぬだけ」
2人の口から出てきた、ただ事実を述べているだけの一切感情がのらない言葉と諦観したような曇りきった表情が非常にミノリには辛かった。
そんな2人の表情を見たミノリは思わず……。
「よしわかった! 私が2人の面倒をみるよ! これからは私があなたたちのお母さんになるよ!」
脊髄反射でその言葉を口にし、2人に手を差し伸べた。