51. 8年目昼② (生命と乙女の)危機。
話の関係上、本日2回更新となります。続きは午後3時に自動投稿予定です。
R15要素と暴力要素強めなので苦手な方はご注意ください。
粗暴そうな男2人に見下ろされているミノリ。それでもなんとかここから逃げようと立ち上がり、駆け出そうとしたが……。
「おう、逃げんなや。モンスターのくせに」
背中に走る激痛でうまく走れなかったミノリは逃げる事が出来ず、あっという間に男たちに追いつかれると背中に蹴りを入れられてしまう。
「ひぐっぁ……」
再び地面にミノリは倒れ込んだ。
「いやぁそれにしても、何かされたわけじゃないけど邪魔だから駆除してくれって町から頼まれたモンスターがこんな人間型のメスだなんて最高だな」
「そうッスねアニキ。俺いっぱいたまってたンスよ!」
男たちの発した言葉の中に、ある種の欲望が秘められているのを感じたミノリは、顔を青ざめさせながら、男たちの方を振り向き叫んだ。
「や、やめてよあなたたち! 私、討伐なんてされるような悪い事を一切してない! 何もしてないのにそんな事をしようとするなんて人として最低すぎる!」
転生した初日に行商人が荷物を投げ捨てていったが、あれはもらったものだからきっとセーフ。そしてミノリは狩りと称して周辺のモンスターを狩っている。それはつまり周辺地域の安寧に貢献しているようにも思える。
その点を考慮すると、ミノリの発言は明らかに正論なのだがこの男たちには通じなかった。
「何言ってんだモンスターのくせに。何もしてなかろうが、モンスターはモンスター、化け物だろ。
あと、討伐じゃなくて駆除な、駆・除。存在自体が邪魔って事だっての。それに人間型のメスは殺す前に楽しませてもらうのが俺たちの決まりだから黙って従えや。おとなしくしてりゃ殺すまでは気持ち良くさせてやるからよ」
「いくらかわいらしくてもモンスターなんスから仕方ないッスよ、奴隷ですらあるような人権すら無いモンスターに生まれた自分自身を恨んでほしいッスね。ひっひぇひぇ」
男たちの卑しさがにじみ出た笑いがあたりにこだまする。話が通じるような相手ではなく、かつてシャルから聞いた女性型モンスターが生き残るための生存戦略すらも効かない相手だというのも言葉の節々から感じられた。
「おい、抵抗できないように腱切っとけ。ついでに腕も折っときゃもう抵抗できないだろ」
「げへへ、そうッスね!」
「や……やだ!」
ミノリはそれでもなんとか逃げようするが、やはり男たちに回り込まれてしまい、今度は鳩尾を殴打され、その場に蹲ってしまった。
「ぐ……うぇ……」
「だから逃げんなって言って……ん、なんだこりゃ?」
「あ! か、返して!」
殴打された衝撃でミノリのマントから紙が一枚、ひらりと男の前に舞い落ちてしまった。それはミノリがお守りとして大切に持っていたミノリとネメ、トーイラの3人が写った写真だった。
「あー? なんでモンスターのお前が写真なんか持ってるわけ?」
男は、拾った写真をひらひらと動かしながら不快そうにミノリに尋ねた。
「む、娘の写真を持っていて……何が悪いって……言うの……」
そのミノリの答えを聞いた男は信用する要素が無いと言わんばかりに厭悪の眼差しをミノリに向けて怒鳴り散らす。
「はぁー!? モンスターのくせして親子ごっことかなんの冗談だよ! どうせ非常食にする為にどっからかさらって飼い慣らしてんだろうがよ。やっぱりモンスターはモンスターだな!」
「ち、違……! 私は本当に2人の母親として……ぁぐぅ……!」
反論しようと顔を上げたミノリだったが、男達に黙れと言わんばかりに腹部を蹴り上げられ、その反動で今度は地面に仰向けに倒れてしまった。
「……お前、町でなんて言われてんのか知ってんのか? 共食いモンスターだよ。そんな奴が人間の子供を育ててるだなんてしょうもない嘘を誰が信じるんだ? どうせこの写真も人間をだますための罠だろうがよ!」
「!! やめて!!」
男は写真をミノリの目の前に落として踏みにじろうとしたが、ボロボロの体をなんとか動かしたミノリの方が早かった。ミノリは写真に覆いかぶさるようにしてかばい、代わりに背中を男に踏みつけられてしまった。
ミノリの背中に激しい痛みが続く。ミノリの体力はもうほとんど残っておらず、これがずっと続いてしまうときっとミノリは死んでしまう。それでもミノリは写真を死守したかった。
大切な想い出を踏みにじられたくなかったが為に……。
……踏みつけが何回か続いただろうか。男たちはミノリを足で横腹を押すように蹴るとミノリはひっくり返り、再び仰向けになった。しかし、ミノリはもう満身創痍で体を動かす事ができないほどの瀕死の状態だ。
「……う……」
もう声すら出す事も満足にできず、意識も朧気になりつつあるミノリ。
「もうこれぐらいやりゃ抵抗する体力も無いだろ。腱を切る手間も腕を折る手間も省けたな。よーし、お前腕を抑えとけよ。先に俺からな」
「ひひ、わかったっスよ」
ミノリには、もう抵抗できる手段が何一つ無い上に、今まで自分がネメとトーイラの為にこの8年間頑張ってきたことを全て否定されてしまった絶望から自分の体から力が抜けていくのを感じた。
確かに、自分はモンスターだからいつかはこうやって誰かに倒される日がくるかもしれないとは思っていた、でもまさかこんな奴らに……。
ミノリは涙を流しながら心の中でつぶやいた。
(──倒されるなら、こんな奴らじゃなくて……せめてネメとトーイラに倒されたかったな……)
ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべている男達が、1人はミノリを羽交い締めにしようと回り込み、もう1人がミノリの防具をつかんで引きちぎろうとしたまさにその時だった。
「おかあさんからっ!!」
「離れろーーっ!!!!」
どこからか声がしたかと思う間もなく、男たちが 「ぐあぁっ!?」 と叫びながら横へ吹っ飛んだ。何事かと思って、ミノリが顔を上げるとそこには……。
「おかあさん大丈夫? 遅くなってごめん」
「もう安心して、ママ!! ……ひどい、ママをこんなボロボロにして……」
ネメとトーイラが、ミノリを守るかのように立ちふさがった。どうやら男たちに気づかれないように側まで来てから、予め増強魔法で足を強化した上で男達に向かって跳び蹴りをして吹き飛ばしたらしい。
そして、ミノリが写真を持っていたことで時間稼ぎとなって、男たちに組み敷かれる前に2人は間に合う事ができた。ただの気休め程度とミノリが考えていた写真は結果的に、無事お守りとして効果を発揮したようだ。
「な、なんだこのクソガキども!!」
「ガキじゃない!オンヅカ・トーイラだもの!」
「おなじくオンヅカ・ネメ」
2人は過去にミノリが名乗ってもいいと言った、ミノリの苗字である「隠塚」を付け加えて名乗りを上げた。
「う、うるせえ! そこをどきやがれ!」
「あ、こいつら写真のガキ! バケモンをかばうとか正気じゃねえッスよこいつら!! 一緒にヤッちまいましょうよアニキ!」
怯んだ男たちが次々と2人に向かって罵声を浴びせるがミノリに対してのひどい行いに対して怒髪天になっている2人にそんなものは通じない。
「ママは化け物なんかじゃないもの!」
「私たちの大切な母親……、それを化け物呼ばわりとか……お前らみたいな人間は……許さない……」
男たちに対して2人は反論をしたのだが、……どうもネメの様子がおかしい。
言葉遣いが少々独特で、ボーッとしている事が多いながらもミノリから注がれてきたたくさんの愛情でニコニコしている普段の様子とは大きく異なり、憎悪しか込められていない瞳で男たちを見つめている。
それはまるで……敵としてゲームに出てくる「闇の巫女ネメ」そのものだった。
「あいつらをどうにかする前に……まずはおかあさんの怪我……直さなきゃ」
ネメはその表情を変えないままミノリの方を振り返り、回復魔法を唱えた。すると、ミノリは温かいものに包まれるような感覚の中、怪我がみるみる治っていくのを感じた。
「すごい……ネメの回復魔法、初めて掛けてもらったけど……こんな感じなんだ……」
そんなネメを見ながら、何かに気づき戸惑ったような表情をしたトーイラ。しかし、ハッと我に返るとミノリを抱き起こした。
「ママ、ここはネメに任せて一旦離れよう!! ネメなら大丈夫だから……!」
怪我は治ったもののまだうまく歩けないミノリを支えながら、トーイラはその場から急いで離れた。
*****
……それからどれぐらいの時が経っただろうか。激昂したネメによって放たれた数多の魔法により、周囲の地面が何カ所も大きく抉られていた。
男たちも敵わないと判断したのか、情けない悲鳴を上げながら脱兎のごとく遠くへ逃げ去っていた。
男たちの姿が完全に見えなくなったのをネメが確認すると、振り返ってミノリたちの方へと駆け寄った。
その表情は先程までの溢れんばかりの憎しみがこめられた顔とは打って変わっていつものネメだった。
「おかあさん、大丈夫だった?」
ネメが心配した表情でミノリに尋ねた。
「う、うん。私は大丈夫だよ。それにしてもネメの魔法はすごいね。あれ範囲攻撃の魔法なの?私、ネメの範囲攻撃魔法初めて見たけどあんなにすごいんだね。びっくりしちゃった。あと回復魔法も使ってくれてありがとうね」
素直に褒められて嬉しそうなネメ。……一方、トーイラは何か考え事をしている。
「……どしたのトーイラ?」
ネメの声に一瞬『あっ』というような顔をしたトーイラだったが、なんでもないよ、とばかりに笑顔を見せた。
「トーイラもありがとうね。2人がいなかったら、……私は……2人を遺して死んじゃっていたよ」
そう言うなり2人を抱きしめるミノリの体は若干震えていた。初めて直面した死という恐怖から漸く逃れる事ができたのだ。震えるのも仕方がない。
そして、抱きしめられた2人というと……ミノリの頭をぽんぽんとやさしく叩いた。
「おかあさんは危なくて1人にしちゃおけぬ」
「これからは出掛けるときは私たちと一緒にね。わかったママ?」
「あ、はい……」
……自分が保護者のはずなのに立場が逆転して、逆に2人に守られているような気がするのは気のせいだろうか……。そう心の中で思うミノリであった。




