50. 8年目昼① (生命の)危機。
季節が八巡し、再びこの森にも春が訪れていた。
「あー……そういえばネメとトーイラを育てるのに夢中になってて今まで考えてきてなかったけど、本来のゲームの主人公が動き出すのがそろそろなんだよね」
2人がゲーム本編に出てくるのは来年……つまり、2人が15歳になる時だが、ゲームの本編自体は8年目である今から始まっている。
その為、本来の主人公が動き出しているはずなのだが……。
「このキテタイハの町周辺でのイベントは中盤だから、今の動向がサッパリ分からないなぁ……」
すっかり森の中へ引きこもっての自給自足生活に慣れてしまったミノリ。あまりにもゆったりと流れていく平穏な生活に危機感すらなくなっているのが現状だ。
「そもそもキテタイハの町が滅びなければ、主人公が来る必要もないから、このままの状態を維持できれば私の生活、実は安泰なのかも」
などと、呑気に考えているミノリであった。
……今日が今までの中でもっともミノリの身に危機が訪れる日という事も知らずに……。
*****
「それじゃ2人とも、私、食材用にモンスター狩ってくるね」
いつものように、ミノリは2人にその事を伝えて、外に出ることにした。
「いってらっしゃーい、ママ」
「いってら」
2人とももう14歳。刷り込みされたひな鳥のようにミノリの後をべったりとついてくる事は少なくなった。ただ……。
「そのわりには、2人に見られてる気がするんだよねぇ。気のせいだと思うけど」
ネメの索敵魔法を掛けられていて、常時2人に監視されているとは露知らず、ミノリは森の外へと向かって歩いていくのだった。
「ネメ、今日もママは大丈夫そう?」
「んと……。気をつけた方がいいかも」
「えっと……、どういう事?」
「まだ距離はあるけど、森の外で知らない人間が2人うろついてる」
*****
2人の心配をよそに、ミノリは森を抜けていつもの狩り場へとやってきた。
「えっと今日いるのはー……、あ!」
ミノリが驚きの声をあげた。その視線の先には……。
「カリカリバードがいる!ここ生息域じゃないのに!」
おそらく空を飛んでいてたまたまここへ降りてきたのであろうカリカリバードがいつもの狩り場に現れた。
このカリカリバード、名前の通り、肉が揚げ物に最適な鳥のモンスターである。
「これはなんとしてでも倒さないと……」
カリカリバードが出現するのは、ゲームではこのエリアよりも少し後で、実力的にはカリカリバードの方が上だ。しかしこの奇襲に成功すれば十分ミノリにも勝機があった。
そしてミノリは最近になって気づいたのだが、狩り用に普段から使っている弓、どうやら5本の矢を同時に放つことができるようで、それらを全て一極集中で当てることも可能だったのだ。
「この矢を五本全部、一気に当てることが出来れば……いける!」
幸いにもまだカリカリバードはミノリの気配に気づいた様子はない。先手必勝とばかりに射程距離まで近づいたミノリは一気に五本の矢を放った。矢が飛んできたことでカリカリバードはミノリの攻撃に気づいたものの、その速度からは逃れられず、全ての矢が急所に命中しすると、そのまま息絶えた。
「やった!」
ミノリは小さくガッツポーズをした。よーし、それじゃ今日の狩りはこれで終わりにして帰ろう、と、仕留めたカリカリバードを背負おうとしたその時、突如ミノリの背中に激痛が走った。
「ぐっあ……!」
誰かに魔法で攻撃されたのだろうか、吹き飛ばされたミノリが痛みで動けず倒れたままでいると、二つの影がミノリの方へと近づいていった。
「おっ、いるじゃんいるじゃん。町から駆除依頼が出ているモンスター」
「やりやしたねぇアニキ。これで賞金ガッポリッスよ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、2人組の男はなめるようにミノリを見下ろしていた。
一方その頃……。
「急いでネメ! ママはこっちの方角で合ってるのよね!?」
「そう、そっち!」
緊迫した表情で2人は森の中を駆けていた。索敵魔法でミノリと森の外をうろつく人間の動向を注視していたのだが、何かあってからでは遅いと、念のためとミノリが出て暫くしてから2人もミノリの元へ向かっていたのだ。
その途中で、もう一度索敵魔法を唱えた時、ネメが愕然とした。その人間が明らかにミノリの後を追うように向かっていたのだった。その事実で2人は確信した。
明らかにミノリを狙っている、と。
(おねがい、間に合って!!)
(おかあさん、死なないで!!)
2人はその事がわかるやいなや、必死になってミノリの元へと全速力で向かった。
明日の更新は話の展開上、12時と15時の2回更新になります。




