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5. 4日目① 町へ。

 転生して4日目、初日に場所を尋ねた行商人が逃げていった方向にキテタイハの町があるのだろうと予測を立てたミノリは、意を決してその町へ行ってみることにした。

 幸い手元には何故か最初から持っていたお金がある。おそらく自分を倒した時に入手できるお金だろうが……。


「キテタイハの町ってゲームの途中で滅びるんだけど、あの口ぶりからするとまだ滅んでいない感じかな」


 ミノリが口にしたとおり、キテタイハの町は魔物の群れが最初に侵攻した町で、プレイヤーが最初に訪れてから近くのダンジョンに行き、そこから出てくる時には既に滅んでいるほどにゲーム内では短命の町なのである。

 そして、既に滅んでいるのなら、キテタイハの町があるであろう方向へ逃げ出すはずもないという予想から、キテタイハの町はまだ現存しているとミノリは判断した。


「……しかしキテタイハの町って、ゲームの中でもあまりいい印象のない住人ばかりだったし売っている武器もアイテムも何故か他の町より割高でヘイトを集める為だけに存在していたような町なんだよね。

 真っ先に侵攻されちゃうほどに魔物にも嫌われる町って今考えるとあれだなぁ」


 そんな町にこれから行くのがミノリなわけだが……、ミノリはある仮説を立てていた。


「もしかして、このモンスターそのまんまの格好がモンスターだと思われている一因になっているのかな?」


 確かにゲームでは普通の人間から獣人、エルフなど多種多様なキャラが存在しており、見た目だけならそう変わらないはずなのにこうもモンスター扱いされるのはミノリには不思議だったのである。


「だから変装して気づかれないようにすればモンスターとして認識されずに町の中も自由に入れるはず!多分」


わりと生きるか死ぬか一か八かすぎる発案なのだが、あまり気にしていないミノリだった。


 その作戦を実行するために、この家に残されていて衣装棚から昨日洗濯したばかりの服を早速取り出して袖を通したミノリだが……。


「ん……、あ……、だめだこれ。違和感がすごくて着続けるのは無理……」


 これがいわゆる『装備できません』の事だろうか。着た直後から肌に合わない感覚に襲われ、変な汗が出てきたミノリ。


「それじゃ違う服を……」


 ……と、その後も何着か試したのだが、結局どの服も肌に合わず、ミノリはいつもと違う服を着ていくことを断念することに。

 なお、何故かスク水まで衣装棚にあったので遊び心で着てみたが、何故かこれはすんなりと着ることが出来た。


「なんでだよ!!!」


 スク水で町に行くのはモンスターとかそういう以前にただの変態だよ!と、怒りながらミノリは即座にスク水を脱ぎ捨てた。



 ******



 その後、色々検証してみた結果、今着ている衣装を脱がずに、上からローブを羽織るだけなら問題ないとわかった為、今回はフード付きのローブを羽織って町へ行くことに。

 これなら少なくともこのモンスターの特徴である赤い瞳や長い耳などを隠すことができる。

 そして準備し終えたミノリだったが、流石にいきなり町へ行き当たりばったりで行くのは躊躇われたのか、まずは森の近くにいる人で試してみることに。


 森の外へ出てみると早速、行商人が歩いているのが見えた。というか初日に会った行商人だった。


(数日前に私に遭遇して逃げたのに危機感って無いのかなこの人。)


 そう思いながらも声をかけて逃げなければこの作戦で大丈夫だろうと判断したミノリは思い切って行商人に声を掛けた。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」


 数日前は青ざめて逃げていった行商人は、今日は普通に挨拶をし特に慌てる様子もなくそのままミノリの横を通り過ぎていった。どうやらこの作戦は成功したようである


「よーし、これなら安心して町に行けるぞー。調味料買うぞー!」


 嬉しくなったミノリは町の方へ向かって足を進めるのであった。


 

 ******



 そして、町へ行くまでの間に幾人かとすれ違い、同様に挨拶をしてみたのだが、結果として誰にもモンスターとして認識される事が無かった為、意気揚々としていたミノリだったが、いざ町の入口近くまで来ると流石に緊張し始めた。


「ほ、ほんとうに大丈夫だよね……。門番や兵士だと私がモンスターだと気づいたりしないかな……?」


 少し不安になったミノリだったが意を決して門の方へ向かい、そして門番に声を掛けた。


「こ、こんにちはー。入りますねー」

「おう」


 こちらを一切見向きすらせずに生返事でスルーした。


(いや流石にそれはどうなんだろう。モンスターだけじゃなく盗賊がやって来る可能性だってあるのに一瞥すらしないのは門番としてどうなの……?)


 そう心の中で思うミノリだったが、スルーしてくれるならラッキーという気持ちの方が勝り、そのままキテタイハの町で買い物をする事にした。


 結果として、住人の誰もミノリをモンスターとして認識する事は無かったのだが、町では最低限の買い物しかしなかった。

 実際に町の人と話してみると、ゲームどおりやはり悪い印象しかない住民ばかりだったのである。キテタイハ……排他的という名前の通り、どうにも住民からのよそから来た者への偏見が強いのである。そして……。


「あの子供たち、かわいそうだったな……」


 ミノリが見たのは奴隷のように扱われていた幼い少女たちであった。姉妹と思われる金髪と黒髪の幼い女の子が、生気のない目で周りに罵声を浴びせられながら荷物を運んでいたのだった。おそらくこの世界ではあの子達以外にも奴隷のように扱われている人が他にもいるのだろう。


 転生前の世界とはあまりにもかけ離れたその光景を見てミノリは気分が悪くなったが、よそから来た上にモンスターである自分が迂闊うかつにかばってしまって、モンスターだとばれてしまう危険性を考えると、助けるという行動にどうしても踏ん切る事が出来ず、ただ見て見ぬふりをするしかできなかったのだった。


 ……この町自体ゲームでもそういうお役目なのだから仕方ないよね……と、そろそろ町を出ようか考えているミノリの視界に、とある警告文が書かれている立看板が入った。



  ── 近くの街道に弓を使う魔物が出現し行商人を襲う。注意 ──



 ……あ、これは自分の事だろうなぁ……。やっぱり私がここでそのモンスターだとばれると確実に殺されちゃうに違いない……。


 そう思った途端、周りが自分に対して殺意を向けているかのように思えてしまったミノリは背中に冷や汗が走る感覚を覚え、急いで町の外へ出ることにしたのだった。

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