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49. 7年と11ヶ月目 油断と告白。

「弱った……また今日も何もいないや……」


 今日は一人でいつもの狩り場へとやってきたミノリだったが、着いて早々頭を抱えてしまった。

 普段なら何匹かいる食べられる獲物が全くおらず、シンシスライムしか目につかなかったのだ。


 これがたまたま今日だけの事ならば、そういう日もあるで済ませられたのだが、既に3日連続で収獲のない日が続いているのだ。

 家の貯蔵庫にはまだ幾分かの肉は残っているが、それもあと数日中には尽きてしまうだろう。


「となると別の狩り場を探してみるしかないか……、何もなければいいけど……」 


 釣り竿を持ってきていれば魚釣りに変更できたのかもしれないが、生憎あいにく本日はその準備をしていない。その為、ミノリは移動して別の狩り場にて引き続き獲物を探す事にしたのであった。


 ミノリたちが普段使用している狩り場は、草原と険しい山しかない袋小路ふくろこうじのような所で、ミノリたちの住んでいる森からキテタイハの町とは反対側に位置し、他人が来ることがまず無いような場所だ。


 それに対して今ミノリが向かっている狩り場はキテタイハの町側に位置しており、人の目につきやすい街道が近くにある。

 その為モンスターであるミノリにしてみれば、人に見つかったり、狙われたりする可能性のある非常に危険な場所なのだが……。


「周りに気をつけてすぐ終わらせるようにすれば大丈夫だよね……」


 用心しつつミノリはその狩り場へと辿たどり着いたのだが、そちらにもモンスターはいない。


「うーん……、もう少し探してみるか……」


 狩り場を徘徊はいかいすること数分、ミノリはようやくムスヤクニルドリを1羽見つける事ができた。しかしそのムスヤクニルドリもやせ細っていてあまり美味しそうには見えない。


 しかしこれを狩らないと食料問題が発生してしまう可能性がある事から、ミノリは迷うことなくムスヤクニルドリに狙いを定めて矢を放つ。矢はムスヤクニルドリに命中し、なんとか食糧確保に成功したのであった。


「それじゃ、誰かに見られないうちに早々に切り上げよう」


 狩ったばかりのムスヤクニルドリをつかんだミノリは、すぐさま森の方へと引き返していく。


 しかしミノリは気がついていなかった。ここで狩りをしていたのを誰かに、それもミノリにとっては不都合な人物に見られていたことを。



 *****



 狩りを終えたミノリが森の近くまで戻ってくると、森の入口近くに人影が見える。誰だろうとミノリが目をこらすと……。


「……シャル?」


 その人影はシャルだった。しかし今日は宅配の日ではないのだが何故いるのだろうか……。ミノリはシャルに声を掛けた。


「シャル、今日は宅配の日じゃないよね? どうしたの?」

「あ、お姉様こんにちは。実はお姉様にお願いがあって……ネメお嬢様を呼んでもらえますか?」


「ネメを?」

「はい……。玉砕覚悟で告白しようかな……なんて」


「あ、そういう事か……」


 数年前に大怪我をしたシャルをネメが回復魔法で助けて以来、2年以上ネメに恋慕をしていたシャルはついに気持ちが抑えられなくなり、今日告白しようと決意したのだろう。


「うーん、別にいいけど……多分私も聞くことになるし、トーイラもついて来ちゃうと思うよ?」

「は、はい! 構いません! 玉砕したら慰めて下さいねお姉様!」


「ま、まぁ……いいけど……」


 ミノリには敬愛の念を持っているからここぞとばかりに甘えようとしている。意外とちゃっかりしているシャルだった。



 ミノリは一旦家に戻ると、本を読んでいたネメに声を掛け、再び森の入口で待っているシャルの元へとやってきた。

 ちなみにトーイラも面白そうだからとミノリの予想通り一緒についてきた。


 ミノリは、トーイラと一緒に少し離れたところからネメとシャルを見守る事。遠巻きに見てもシャルが緊張しているのがわかる。だが、とうとう覚悟を決めたのか、シャルが口を開いた。


「あ、あのネメお嬢様! 実は私、あの時回復魔法で助けてもらった時から、ネメお嬢様の事を……」

「ピンクごめん、私おかあさん一筋」


 告白の途中で一刀両断されてしまった。それはもう見事なまでの玉砕である。


「あはは……ま、まぁそうですよね……。所詮しょせん実るはずのない恋だったんですよ……。すみませんネメお嬢様。ありがとうございました……」


 玉砕覚悟だったものの、こうもあっさりと断られて涙目になっているシャルに、ネメも何か思うところはあったのだろう。落ち込んでいるシャルに言葉を続けた。


「……私、ピン……シャルの事最初大嫌いだった。いきなり攻撃してきたし、おかあさん取ろうとするし。あとなんか気持ち悪かった」

「うぅ……言葉もない……」


 最悪の出会いや過去の出来事を次々掘り起こされ、ますますへこむ様子のシャル。


「だけど何年もこうして接していくうちに、アホだけど悪いやつじゃないって認識になった。そして嫌いって気持ちもだんだんと消えていった。アホなのは変わらないけど」


 一つの発言中に2回もアホと言うネメ。シャルはアホであるという認識は不変なのだろう……。


「あと、2年ぐらい前にシャルが大怪我したとき、助けてあげなくちゃって気持ちでいっぱいになった。多分あの時には、私の中では3番目ぐらいには好きになってたと思う。一番はおかあさん、二番はトーイラ」


 何事も家族優先のネメ。


「……だけどさっき言ったように私はおかあさん一筋。だからピン……シャルの気持ちには応えてあげられない。……ごめん」

「……いえ、ありがとうございますネメお嬢様。そんな風に想ってくれてたのがわかっただけで、嬉しいです……」


 口数の少ないネメが、頑張って気持ちを伝えようと一所懸命言葉を繋いでいる。それだけでシャルに対して顔見知り以上に想う気持ちがある事はミノリにも思えた。


「……というわけでつきあうのは無理だけど、友達かペット()()ならいいよ」


(……どうしてだろう。いい場面のはずなのに、ひどい選択肢が混ざっているように感じるのは気のせいかな?)


 ミノリは思わず突っ込みたくなったが、口を挟む状況ではないため、聞かなかったことにしたかったがそうは問屋が卸さなかった。


「ではペットで!!」


 真っ先にそのひどい選択肢をシャルが選んでしまったのだ。


(ま、まぁ……本人が良いと言うのならば別にいいけど……あれ、そういえばさっきのネメの言葉……)


 ここでミノリはネメの発言からある事に気がついた。シャルは『ペット』という言葉に条件反射で反応してしまったために気がつかなかったようだったが……。


(今までシャルのことを呆れた感じで『ピンク』と呼んでいたのに、意識して『シャル』と言い直してたよね。そしてネメはさっき『から』って言ったよね。それはつまり……)



「まだ可能性はあるよ。がんばってシャル」


 ミノリは小声でつぶやくと、2人の今後をこっそりと応援することにしたのだった。


「ちなみに私もママ一筋だよー。うふふ」


 そんなミノリの横では、かわいらしい笑顔をミノリに向けながらトーイラが話しかけてきたが……その表情はどこか妖美ようびで、まるで獲物を狙うハンターのようなそんな視線。



 ミノリは何故か背筋に悪寒が走ったそうな。




*****




──シャルの一大告白があったその日の夕方……所変わってここはキテタイハの町の立て看板。


 町や町の周囲に異変が起きると、ここに何かしらの注意書きが貼り出されるのだが、先程新たな内容が貼り出された。いつもの注意書きとは異なり、何かの依頼のようだ。



『東の森近くに弓を持つモンスターが1匹出現し、他のモンスターを共食いしているようだ。まだ人を襲ったという情報は無いようだが将来的にはわからず、何より邪魔なのは間違いないので誰かが襲われる前に駆除して欲しい。駆除した者には賞金を――』



 その立て看板をいかにも粗暴そうな2人組の男たちがいい金蔓かねづるがあったとでも思っているかのような視線で眺めていた。

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