42. 5年と4ヶ月目 白いワンピースと麦わら。
外はすっかり夏らしい陽気となり、窓を開けると爽やかな風と共にどこからか虫の声が聞こえてくる。
「森の中にある家だから陽射しもあまり差し込まないし、過ごしやすいなぁ……」
転生前は夏になると頻繁に真夏日になるような場所に住んでいたのだが、ここはアスファルトの照り返しもない上に森の中の為、森の木々が陽射し除けになっており、非常に快適だ。
今日はネメとトーイラが狩りに行ってくれているので、本日のミノリは服作りに専念していた。
夏になったという事もあってミノリは2人にあるものを着てもらいたかったのだ。その服は前世でもミノリは着たことはなかったが、夏が舞台の映画やドラマではおなじみの服で、この服によく合う帽子もシャルに2人分お願いして届けてもらっており、準備は万端だ。
「絶対に2人は似合うと思うんだよねー」
そう言いながら、ミノリは白い生地に針を通していく。そして2人が帰ってくる頃には、無事に服を完成させるのであった。
「ただいまーママ。これ見て!珍しくトロケニクジルボアがいたんだよ!」
「ほっぺ崩壊5秒前肉」
「わぁ、珍しい!」
生息域が全然違うのにトロケニクジルボアを狩れたと聞いてミノリも思わず歓呼。トロケニクジルボアの肉は角煮にすると非常に美味なのだ。というわけで今日の夕飯は角煮にしようとミノリが考えていると……。
「ママ、それ新しい服?」
「純白」
ミノリが作り終えた服、それは白いワンピースだった。2人とも興味津々そうにその服を見ている。
「そうだよー。あ、そうだ! 折角だから着てくれるかなぁ2人とも。あと帽子もかぶってくれると嬉しいな」
「いいよー」
「首肯」
ミノリから服と帽子を受け取った2人は、早速その服に着替え始めた。
「どうかなママー、似合うかなー?」
「サイズぴったんこ流石おかあさん」
ミノリの前でくるっと一回転して見せた白いワンピースに麦わら帽子をかぶったトーイラとネメ。
2人の姿は、まるでドラマの見せ場でも見ているかのような美しいものだった。これであとはヒマワリがあれば、名画といっても過言ではないほどで、ミノリも思わず見惚れてしまった。
「わぁ……、2人ともすっごいお似合いだよ。似合い過ぎてびっくりしちゃった」
「ほんと!? 嬉しいなー、ママがそう言ってくれるの」
「それにこの服動きやすくて良き」
そしてトーイラとネメもこの白ワンピースを気に入ってくれたようだ。
(2人ともとても似合うし、すごく気に入ってくれたみたいで、作った甲斐があったなぁ……)
などとミノリも嬉しそうにしていたのだが……翌日、事態は急変した。
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「……うん、2人とも白いワンピースを気に入ってくれたのはわかるよ……。とても似合ってたもんね」
「はい……」
「ん……」
重い雰囲気が漂う。
「でもね……その服で狩りに行くのはやめてほしかったなー……これ絶対汚れ落ちないよねー……」
「ごめんなさい……」
「動きやすくてつい」
涙目になっているミノリの眼前には、白いワンピース姿のまま狩りに行き、返り血を浴びてスプラッタ状態になったトーイラとネメ。こちらもミノリの落ち込みっぷりに感化されてしまったのか、非常に申し訳ない気分になってしまい、暗い表情をしている。
いつもなら服を汚さずに倒すことくらい朝飯前なのだが、最近覚えた魔法を試してみたかったらしく、睡眠魔法で眠らせたモンスターに対して、爆発魔法を唱えるとあわれモンスターは爆発四散。2人は大量に返り血を浴びてしまい、折角の純白のワンピースが赤い血染めになるというホラー展開に。
洗っても血の色が落ちそうにないと判断したミノリは、泣く泣く作ったばかりのワンピースを処分するのであった。
ちなみに、返り血を浴びて血だらけになったネメとトーイラの姿を誰かが目撃していたらしく『血だらけになった双子の幽霊がさまよっている』という噂がキテタイハの町で流れはじめたそうだが、それは別のお話。




