3. 2日目 友好的だよ?
ミノリが転生してから2日目、行商人が落としていった荷物から保存食を取り出してそれを朝食にしていたミノリはある作戦を実行する事とした。
「名付けてモンスターに襲われている人を助けたら友好的だと判断してくれるのでは作戦!」
誰かが聞いているわけでもないのに拳を掲げながら叫んだミノリ。ちなみに内心この作戦は失敗しそうだけど失敗したとしても退治したモンスターを食料として持って行けるからヨシ!とできるだけポジティブに考えているミノリである。
森を抜けてからミノリはまず辺りを見回して誰かが襲われていないかを確認した。残念ながら森のすぐ近くには誰もいないようである。
「まぁそうそう都合良く誰かが襲われている場面なんて無いy『ひぃいいい!!! 誰か助けてぇええ!!!』
……都合が良かった。
叫び声のした方へミノリが向かうと、猪に似たモンスターに老婆が襲われていた。あのモンスターは確か凶暴そうな見た目の割に意外と弱く、倒すと高確率で美味しい肉を落とすウマミニクジルボアという名前からしてよだれが出そうなモンスターだったはず。
やった、おいしそうなのがいる。今日のご飯はあれにしよう、と本来の計画よりも食欲に針路を向けたミノリはウマミニクジルボアに向かって矢を放った。ミノリの放った矢は見事ウマミニクジルボアの額に刺さりその場に崩れ落ちた。どうやら問題なく倒せたようだ。
「そこの方、大丈夫ですか?」
ミノリは声を掛けながら駆け寄った。
「いやぁありがとうねぇ、モンスターに襲わ……」
お礼を言いかけていた老婆だったがミノリの姿を見るやいなや顔面真っ青。
(あ、これはだめだ)
ミノリは瞬時に理解した。
「ひえぇぇぇ!!! またモンスターじゃぁあああ!!」
老婆は脱兎のごとく逃げ去り、瞬く間に見えなくなってしまった。その素早さは明らかにウマミニクジルボアよりも高速で、1人取り残されたミノリはあれなら問題なく逃げられたんじゃなかろうか?と、老婆が走り去っていた方角をただ呆然と見続けていた。
本日の作戦が失敗に終わったミノリはがっかりしながら絶命したウマミニクジルボアを引きずって森の中へと戻っていった。
「いいもん……。今日はお肉パーティーにするもん」
昨日と同じ場所へ戻ってきたミノリは、早速ウマミニクジルボアを解体する事にした。昨日拾った荷物の中からナイフを取り出し、慣れた手つきであっという間にただの肉塊となったウマミニクジルボアを焼いてひたすらやけ食いをしたミノリは、明日どうするか考えながら近くに見つけた洞窟の中で眠ることにした。
しかしそれから数10分後……ミノリは背中の痛みで目が覚めた。
「やっぱり岩肌の上に直に寝るのは痛い……」
せめて寝袋でもあればよかったのだが、あいにく行商人の荷物にはそういったものは無く……。
ミノリはひとまず一時しのぎとして本日矧いだウマミニクジルボアの皮の上に草を敷いてもう一度眠ることにした。
「うぅ……すっごい生臭い……。けど今日はこれで我慢……」
ミノリは明日はもっとまともな改善策を考えようと生臭さに耐えつつ横になった。しかし……。
「……あーダメだこれ無理。何か別のことで気を紛らわせながらじゃないと本当にダメ。寝付けない」
生臭さが邪魔をしてきて中々寝付けない。ミノリは気を紛らわそうと、ある事について考え始めた。
「……そういえばこのゲームの本来の主人公って、今はどこにいるのかな……」
ミノリが転生した先はゲームの世界なのだから、当然本来の主人公がどこかにいるはずである。
しかし、今現在の時間軸がわからない為、どのあたりまで話が進んでいる状況なのかサッパリなのだ。
「……どちらにしろ接触しない方が無難だよね。『わたしわるいもんすたーじゃないよ』って無抵抗をアピールしても今日までの状況から考えると全く通じなさそうだし……」
人生が詰んでいるとわかっていても基本的には死にたくないミノリは、もっとも自分の生存できる可能性を高める方法は、主人公には絶対に近づかないことだと結論づけた。
「よし……主人公には関わらない、近よらない、逃げる。この三原則を守っていれば自ずと長生きできる可能性が高まる……後ろ向きだけど……」
今後の主人公に対しての方策をあれこれ考えているうちに、瞼が重くなり、暫くするとミノリは静かに寝息を立て始めた。
なお、寝ている最中に『生肉が追いかけてくる』と、嗅覚が原因による寝言が出るほどの悪夢に魘されたそうな。