26. 256日目② 3人しか知らないクリスマス。
その後、受け取った宅配を持ってシャルと別れたミノリ。シャルの話に出てきたこの世界での冬の行事が期待外れもいいところだったので家へと戻る最中も他に案は無いか考えているようだったが、何かを決断したようだ。
「うーん……いっそ転生前と同じようにクリスマスや正月などの行事をしてしまうのがいいのでは? ……よし、そうと決めたらと今日はクリスマスパーティーをする事にしよう!」
もちろん、今日が転生前と同じクリスマスを祝う日にあたるのかは全くわからない。なので、祝おうと思ったその日がミノリにとってクリスマスなのだ。
家に着くなり急いで支度を始めるミノリ。なにせ転生してから初めて作る料理ばかりだ。記憶にある料理を必死に思い出しては次々に作り、なんとか夕飯までには間に合わせたのであった。
「わぁ、すごいごちそう、どうしたのママ?」
「酒池……肉林……」
食卓に並べられた豪華な食事に思わず目を瞠る2人。
「んー、今日はクリスマスという日なんだって。だから今日はこうやってパーティーにしてみたんだ」
「へー、くりすますって言うんだ。初めて知ったー」
「おね……、おかあさん物知り」
「さて、それじゃ食べよっか」
「「うん、いただきまーす!」」
誰かから聞いたような素振りでそう言うミノリだが、当然クリスマスがなんなのかは元から知っている。むしろ、ミノリ以外誰一人クリスマスを知っている者はこの世界には存在しない。
そんなこの世界には存在するはずのないクリスマスを祝う3人は、この世界に住まう他人からして見ればかなり異様な光景に見えるだろう。
しかしミノリにとっては、それは些細なことに過ぎず、それ以上に、ここが転生前の世界でそこにネメとトーイラの2人もその場にいたら、こうやってクリスマスパーティーを普通に楽しんでいたんだろうなぁ……と懐かしさと寂しさの感情の方がより強く入り交じってしまうのであった。
そしてクリスマスといえばこれだけでは終わらない。……そう、プレゼントである。
その夜、ネメとトーイラが寝静まったのを確認してから、ミノリはこっそりと起き上がり、ひそかに入手していたプレゼントを袋に入れ、寝入っている二人の枕元に置いた。
「……喜んでくれると嬉しいな」
小さくつぶやいたミノリは、再び起こさないように布団へもぐり、目を閉じたのであった。
******
──翌朝、二人よりも先に起きたミノリが朝食の準備を始めていると、二人の「わぁー!」 という声が寝室から響いた。どうやら二人ともプレゼントに気づいてくれたようだ。
「ママ!ママ! これママからのプレゼントでしょ!?」
声を弾ませながらミノリの元へと駆け寄ったトーイラがミノリに見せたのは、太陽の形をした髪飾り。それをトーイラは早速頭につけている。
「おね……おかあさんからのいただきもの……ありがた」
ネメも同じように、月の形をした髪飾りを既に頭へと装着済みだ。
「うん、そうだよ。クリスマスプレゼントって言って、お母さんから二人へのプレゼント」
サンタについては、この世界で説明するのは難しいので素直に自分からのプレゼントだという事にしたミノリ。
「えへへ……、ありがと、ママ」
「うちのおね……おかあさんは世界一」
「でも、私たちママにプレゼント用意してない……」
「サプライズはサプライズ返しできない……むぅ……」
二人は、どうやらそこだけは不満なようだった。しかし……。
「いいんだよ、私はいつも二人からもらっているから」
「「?」」
「私にとっては、二人の笑顔がなによりのプレゼントだよ」
そう言って、優しく微笑みながら、二人の頭をなでるミノリなのだった。




