225. 18年目 家の中の隠れキャラ
「ネメお嬢様、そっちはどうでしたか?」
「不在、未発見状態継続中」
「もう、どこにいるんでしょうか……」
「皆目見当つかず、当方も困惑」
「あれ? ネメにシャル、こんな朝早くからどうしたの?」
いつものように夜明けより少し前に目を覚ましたミノリが寝室から居間に向かうと、普段ならもう少し眠っているはずのネメとシャルが先に起きていて、2人とも何か焦ったようなな表情で机の下を見たりソファーの隙間を覗いたり何かを探すような行動をとっていた。
そんな2人の姿を見てこんな朝早くから何をしているんだろうと思いながらミノリが声をかけると……。
「あ、お姉様! ホノカちゃん見ませんでした!?」
「へ……ほのか……? HONOKA……ホノカ……ぇあ!? ホノカ!?」
シャルの言葉を理解するのに数秒かかってしまったミノリだったが、理解した途端ミノリは驚きのあまり目を大きく見開いてしまった。
なにせホノカはつい先月妊娠がわかったネメとシャルとの娘であり、かつノゾミの妹となる存在で昨日の時点ではまだ生まれていなかったはずだからだ。
それなのに今2人はホノカを探しているというのだから驚いた反応をミノリが反射的に見せてしまったのも仕方がない。
「え? 待って待って。どういう事? 昨日まで生まれるような兆し全くなかったよね?」
「お母さんが示した反応も常識に照らし合わせれば至極普通。しかし事実は奇である事はシャルの腹部を見れば一目瞭然」
「わ、本当だ。すっかり元通り……」
ネメに言われて改めてシャルにミノリが視線を移すと、確かに昨日まで妊婦であった事を全く感じさせない、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる素晴らしいモデル体型のシャルへと戻っていた。
それを見てミノリも流石にホノカが昨晩のうちに生まれたのだと悟った。
「……ということはノゾミの時と同じようにホノカもまたこっそりシャルのお腹から生まれ出たってこと……だよね? あれ、でもそうしたら2人はいつそれに気づいたの? ノゾミの時は二人とも朝になってから気づいて慌ててたよね?」
「私たちが気づいたのはホノカ自身の口伝」
「え? どういうこと?」
さらに生まれ出たことを教えたのもホノカ自身らしい。一体どういうことなのかとミノリが混乱しているとその時の状況をシャルが話してくれた。
「実は私とネメお嬢様が寝ていたらどこからか声が聞こえてきたんですよね。『ねめちゃんママにしゃるちゃんママおはよ~、ホノだよ~。んっとね、ホノ、かくれんぼしたいからおうちのどこかに隠れてるね~』って。聞いたことのない声が突然聞こえてきたでびっくりして慌てて起きたんですが既に姿はなく……。生まれたばかりの頃のノゾミちゃんと同じように探索魔法でも引っかからなかったので今もどこかでかくれんぼしているはずなんです」
今でこそ探索魔法でノゾミもちゃんと探索魔法で引っかかるようになったが、生まれてすぐの頃は何故か引っかからず、迷子にならないように常にノゾミが一人でどこかに行かないようにミノリたちも気をつけていた。
それが暫くしてからちゃんとノゾミも引っかかるようになったので、魔法生物のような生まれた方をすると生まれてしばらくの間は存在が不安定らしく探索魔法で引っかからないのではというのがネメたちの推測らしい。
尤も、続編の範囲に入ったからノゾミの事も探索魔法で探知できるようになった可能性もあるとミノリは考えているのだが、今はそれよりもホノカがどこに隠れていることの方が重要だ。
「ともかくホノカを探さなくちゃね。……どんな姿なのか全くわからないのがすごいネックだけど」
「すみませんお姉様……私とネメお嬢様は自分たちの寝室をもう一度探してきます」
容姿についての一切の情報が無いホノカを探す、という些か難度の高いかくれんぼとなってしまっただが、見つけないことには話が始まらないとミノリたちは改めてホノカを探し始めた。
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「うーん……本当に見つからないや」
その後、台所や寝室、浴室と10分ほど探したが見つからなかった為、いったん休憩しようとリビングに戻ってきてソファにもたれるミノリ。
ネメとトーイラが幼かった頃に2人としたかくれんぼではミノリの背後で視界に入らないように潜んでいたり、忍者のごとく天井の隅に貼り付いていたりしていたが、シャルたちの説明からするとホノカはかなりののんびり屋さんのようで、おそらく一度隠れた後はとことん動かないタイプであると考えられるのだが……。
「……ちょっと一旦落ち着いて考えよう。まずそもそもホノカがどれくらいの大きさかというのも考えないといけないよね。
ノゾミは生まれた直後で既に2,3歳ぐらいの大きさだったけど、それに比例してシャルのお腹もかなり大きかったから……」
先に生まれたノゾミはホノカよりも非常に長い間シャルのお腹にいて、たっぷりとネメとシャルの魔力を与えられた結果、通常の新生児よりも遥かに大きい姿で生まれてきた。
一方、ホノカはつい先月妊娠が発覚したばかりだというのにもう生まれている、ということは……。
「……もしかして、ホノカってかなり小さい? 流石に手のひらサイズってことはないと思うけど、これ探すのかなり大変そう……あれ?」
普通の新生児よりもホノカは小さいと結論づけたミノリは、自分の予想をネメたちに伝えようと立ち上がろうとしたのだが、ふと視界に入ったあるものに違和感を覚え、そちらに視線を向けた。
「えっと……なんで私の人形、この一体だけ服脱がされてるんだろう……。自分の姿をした人形が全裸なの、ちょっと恥ずかしいんだけど」
ミノリが違和感を覚えたのは自分の姿を模したミノリ人形の一体。この人形はこちらの世界とミノリが前世を過ごしたあちらの世界をつなぐ鍵状態になっているもので、ノゾミがよくミノリに内緒でドロンする術を使ってあちらの世界へ渡る為に使われているのだが、その時以外は一角にまとめておかれているし、ちゃんと服だって着ている。
しかし今ミノリの視界に入っているミノリ人形の一体は何も纏っていないすっぽんぽんの状態だ。流石に自分の姿をした人形がすっぽんぽんでいることを妙に恥ずかしく思えてしまったミノリは、ひとまずタオルか何かでその人形の体を覆おうとして近づいたのだが……そこでミノリは気づいてしまった。
「…………」
「…………」
その人形の背後に、小さな小さな女の子がミノリ人形の服を纏いながら隠れていることに。
その姿を見たミノリは、確信したかのようにその人形もどきの女の子へ声をかけることにした。
「えっと……おはよう。あなたがホノカ……だよね?」
「……えへへぇ、ばぁばにみつかっちったぁ~。うん、そだよ~ホノはホノだよ~、はじめましてぇ」
やはりミノリの考えは正解だったようで、声をかけられた小さな女の子こと『ホノカ』は、その直前までまるで人形に徹していたかのような無表情をを一変とさせ、ニコニコと嬉しそうに破顔しながらミノリに飛びついてきた。
そんなホノカの容姿は、シャルのようなツリ目にネメのような黒髪という、両親2人の外見的特徴のうちノゾミには受け継がれなかった容姿を併せ持った、ネメとシャルの娘というのが一目でわかる非常にかわいらしい姿の少女であった。
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「ねめちゃんママにしゃるちゃんママ、ごきげんうるわしゅ、ホノだよ~」
その後、ミノリから見つかったと報告を受けて急いでリビングに向かってきた両親2人に、テーブルの上に立って挨拶をするホノカ。
なんだかすごく間延びした口調。どことなくクロムカとザルソバの娘であるホプルを連想させるしゃべり方だ。
ちなみにテーブルの上に立たせているのはホノカの身長が15cm程度とあまりにも小さく、うっかり誰かがホノカを踏んでしまうのを避けるためである。こればかりはちょっと行儀が悪くても仕方ない。
「はぁ、見つかってよかったぁ……一時はどうなることかと」
「全くもって同感。現在安堵の境地……」
そしてネメとシャルは初めて対面する第二子を見て、無事見つかったことで緊張感から解放されたからかその場にへたりこんでしまったのであった。
「……ねぇねぇばぁば。ねめちゃんママにしゃるちゃんママ、どうしてこんなにぐったり?」
「えっとね、2人はホノカがどこにいるのか見つけるのにすごく必死だったんだんだよ。それにどこに隠れているかわからないから生まれたばかりのあなたをうっかり踏み潰しちゃうかもしれないと思ってヒヤヒヤしながら探してたわけだから」
しかしそれを聞いてもいまいち釈然としない様子のホノカ。
「む~? ホノ頑丈だから潰れないよ~」
「いやいや、えっとね、たとえホノカが頑丈であっても自分の娘をうっかり踏んじゃうってかなり罪悪感強いんだよ。そこはわかってあげてね」
「そっかぁ。うん~、ごめんねぇねめちゃんママにしゃるちゃんママ~。これからも踏まれないように気をつけるね~」
「うーん……」
間延びした口調のせいなのもあって、自分の言葉がホノカにちゃんと伝わっているのか、少し不安になるミノリなのであった。
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「──そんなわけでみんな、この子がネメとシャルの二人目の娘で、ノゾミの妹のホノカだよ」
「よろしくねぇ~。ぶいぶい~」
その後、陽が昇ってきてから起きてきたトーイラとリラ、そしてノゾミにホノカが今日生まれたことをミノリが報告すると、間延びした口調でダブルピースをしながらテーブルの上から挨拶をするホノカ。
ちなみにだがホノカの見た目はノゾミと同様に胎生でなく魔法生物に近い存在だからか一般的な新生児とは異なり、2~3歳児ぐらいの子供の姿をそのままに縮小したような印象でどちらかというとファンタジーに出てくる手のひらサイズの妖精に近い姿だ。
「びっくりした……そんな気配全くなかったのに。それはともかくちっちゃくてかわいいね」
「そうだね、トーイラおねーちゃん……あたしもびっくり。よろしくねホノカちゃん」
それは兎も角、昨日まで全く生まれる気配のなかったホノカが今朝起きたらいきなり生まれ出てきていたものだから、トーイラとリラはうれしいのは確かだが驚きの色を隠せなかった一方、ノゾミはというと……。こうなることがわかっていたような顔をして平然と
「うん、よろしくねホノちゃん!! やったぁ!! ノゾ、ついにおねえちゃんになったー!!」
「うん~、ノゾミおねぇちゃんよろしくね~」
と非常に嬉しそうで、まだ人形のような小ささのホノカをやさしく抱きしめていっぱい頬ずりしている。
(今も仲良しだけど、小さかった頃のトーイラとネメもあんな感じだったよね。懐かしい……)
そして、そんなノゾミとホノカの仲のよい孫姉妹の姿を見て、在りし日のトーイラとネメの姿が重なって、心がほっこりとするミノリなのであった。
「それにしてもホノカちゃんのしゃべり方ってなんだかホプルちゃんに似てるね」
「うん、そだよ~。ホプルおねぇちゃんを真似してるんだよ~。ノゾミおねぇちゃんはホプルおねぇちゃんみたいな子が好きってホノがお腹にいる頃から教えてくれたでしょ~。ホノもお姉ちゃんに好かれたいな~って」
「……」
ホノカの間延びしたしゃべり方は、ノゾミの事になると途端に闇が深くなるホプルの真似。
その事実を知った途端、思わずミノリが体をビクッとさせてしまったのはここだけの秘密。
後日ホノカのキャラデザを貼ろうと思います。




